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【連載「山河令」の台詞を読み解く】第7回 2人の名前に込められた意味

この連載では、「山河令」の台詞に引用されている漢詩や故事と、そこに隠された意味を紹介します。

連載「山河令」の台詞を読み解く
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第7回 2人の名前に込められた意味

「山河令」の台詞には有名な漢詩や故事が多く引用されていて、そこには深い意味が隠されています。今回は周子舒と温客行の名前にまつわる台詞、そこに込められた意味について解説します。(以下、下線部分は台詞の日本語字幕と台詞です)

第2話、周子舒は温客行に名前を聞かれて「周絮」という偽名を名乗ります。すると、温客行は「いい名前だな」と言って、「交友は広く 身は柳の絮のごとし(周而不比 身若飛絮)」と続けます。
   


「山河令」第2話より ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.


周而不比」の出典は孔子と弟子との問答集「論語」の中でも政治について書かれている「為政第二」。孔子の言葉として「君子周而不比 小人比而不周(徳のある君子は公平に広く人と付き合い、小人物は偏った付き合いをして広く人と親しまない)」は有名です。

また、「身若飛絮」の出典は元代の散曲(流行音楽に合わせて歌詞を作ったもの)で徐再思による「折桂令・春情」。恋を知ったばかりの少女の恋わずらいの気持ちを歌ったものといわれ、「身似浮雲 心如飛絮(体は空に浮かぶ雲のよう 心は舞い飛ぶ柳の綿毛のよう)」からの引用です。

つまり、温客行のこの台詞は「周絮」という名前をもじって彼の人格と武術を褒めているのですが、恋わずらいの歌を引用しているあたり、温客行の浮き浮きとした気持ちが感じられます。

その後、第25話で周子舒の正体がわかった理由について話す温客行は、「子の手を執りて雲の舒ぶるを眺めるか”からか(執子之手 坐看雲舒)」と言って、再び「周絮」という名前を褒めます。


「山河令」第25話より ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.


執子之手」は中国最古の詩集「詩経」の「邶風・撃鼓篇」にある「執子之手 與子偕老(あなたの手をとって 共に老いていく)」からの引用です。これは本来、戦場に向かう男同士の覚悟を示す言葉だったといいますが、現代では夫婦の愛を誓う言葉としてプロポーズや結婚披露宴のスピーチでもよく使われ、日本でも「詩経」の言葉を引用した「偕老同穴」は固い夫婦の契りを表す慣用句として有名です。ここで温客行があえて「執子之手(あなたの手をとって)」の後に「與子偕老(共に老いていく)」と言わなかったのは、周子舒の余命に対する心配や、まだ明かしていない自分の正体を知られた後の不安があったからかもしれません。

また、「坐看雲舒(坐して雲が広がるのを眺める)」は唐代の詩人・王維が静かな隠居後の暮らしを描いたといわれる「終南別業」にある「坐看雲起時(坐して雲が起こるのを眺める)」を思わせる言い回しです。つまり、この言葉から、未来は雲が広がるように予測できない不安定なものとわかっていても、2人で静かに雲を眺める隠居生活を夢見たいという温客行の気持ちが伝わってくるように思えます。

一方で周子舒は、第20話で温客行の正体が「甄衍」だったとわかると、「温客行」という名前の由来について、「衍の字を分解すると客行だ(衍字一分為二 不就是客行嗎)」と言います。これは「衍」という字は「さんずい」が「行」という字を二つに分けていること、それによって「水」の上を旅して行く「行客」を連想させるという含意があります。


「山河令」第25話より ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.


また、「衍」は本来、水流が河を通って海に至るという意味であることから、唐の詩人・王湾が河を船で行く情景を描いた「次北固山下」にある「客路青山外 行舟緑水前(旅する路は青々とした北固山の外、船は緑水を行く)」を意識した台詞でもあるかもしれません。この句の文頭の「客」と「行」を合わせると「客行」となるからです。

さらに、第25話で、温客行は「私は天涯孤独な根なしの行客だ」と言いますが、周子舒は2人とも四季山荘に帰って来られたと言って、「客行は楽しといえども 早く旋帰するにしかず(客行雖雲樂 不如早旋帰)」と返します。


「山河令」第25話より ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.


周子舒のこの台詞は南朝・梁の昭明太子が編纂した「文選」に収録された「古詩十九首」の一首「明月何皎皎」からの引用です。この詩には二つの解釈があり、長く異郷を旅している旅人が「旅の生活は楽しいが早く故郷に帰りたい」という気持ちを表していると読む人もいれば、独り家で愛する人の帰りを待つ女性が「旅の生活が楽しくても早く故郷に帰ってきてほしい」と訴えていると読む人もいます。つまり、ここでの周子舒の台詞は、帰りたかった故郷についに帰ってきたという彼自身の嬉しい気持ち、「根なしの行客」と自分を表現する温客行に四季山荘こそが帰るべき故郷だから帰ってきてほしいと訴える気持ち、その両方を表しているのかもしれません。

このように、劇中では周子舒と周絮、温客行と甄衍という2人の名前だけでも、さまざまな引用や含意のある台詞が語られていることに、深い感銘を受けずにはいられません。

第8回「天地不仁」へ続きます

\「山河令」特集はこちら/

TEXT: 小酒真由子(フリーライター)
アジアから欧米までドラマについて執筆しています。双葉社『韓国TVドラマガイド』にて「熱烈推薦!! 中華ドラマはこうハマる!」を、Cinem@rtにて「アジドラ処方箋」を連載中。また、執筆させていただいたキネマ旬報ムック『最新!中国時代劇ドラマガイド 2021』が絶賛発売中です。

Edited:小俣悦子(フリーランス編集・ライター)

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