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【連載「山河令」の台詞を読み解く】第3回 風雨

この連載では、「山河令」の台詞に引用されている漢詩や故事と、そこに隠された意味を紹介します。

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第3回 風雨

「山河令」の台詞には有名な漢詩や故事が多く引用されていて、そこには深い意味が隠されています。今回は第14話に登場する漢詩「風雨」を解説します。

第14話で周子舒の余命がわずかだと知った温客行は、彼に何としてでも生き延びてほしいと願います。でも、周子舒は治療により武術の力を失うくらいなら誇り高く死ぬことを選ぶ覚悟でした。この事実に大きなショックを受けた温客行は、雨の中で蕭を吹き、「風雨 䀲のごとし…」と詩を詠みます。


「山河令」第14話より ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.


これは中国最古の詩集といわれる「詩経」の中で鄭(前806年 - 前375年)の国に伝わる詩を集めた「鄭風篇」にある「風雨」からの引用です。(以下、詩の翻訳は筆者による意訳です)

風雨如晦 
風雨であたりは暗いのに
雞鳴不已 
夜明けを告げる鶏が鳴き止まない
既見君子 
やっとあなたに会えて
云胡不喜
どうして喜ばずにいられるでしょう

これは現代では、恋しい夫と再会した妻の喜びを詠んだもの、あるいは恋人とのしばしの逢瀬を喜ぶ気持ちを表現した詩といわれています。風が吹きすさび雨が降りしきる情景は愛の情熱を表し、夜明けを告げる鶏の声が聞こえるのは愛する2人が共に一夜を過ごしたことを暗示していて、「風雨が吹き荒れようとも心は喜びに満たされている」というのが一般的な解釈です。

温客行の気持ちは周子舒が余命わずかだと知るまでは、まさに上記の通りだったでしょう。第3話で周子舒に出会った温客行が一緒に張成嶺を助け、共に一夜を過ごした翌朝、「間もなく夜明けだ」と感慨深くつぶやくのも、この詩を想起させるシーンです。


「山河令」第3話より ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.


ところが、周子舒と一緒に居られる時間が残り少ないと知った今、温客行の中でこの詩の意味は変わってしまいます。風雨はまるで2人の置かれた厳しい状況を表しているようで、劇中で温客行が激しい雨に打たれてずぶ濡れになっている様子とシンクロします。

そして、温客行の心に光をもたらすはずの「夜明け」は暗いままで、「どうして喜ばずにいられるでしょう」という言葉は、その次の台詞にも出てくる「相見恨晚(出会いが遅かったのを恨む)」という彼の辛い気持ちを示す魂の叫びのように聞こえてきます。

凉雨知秋
涼しい雨により秋の訪れを知る
青梧老死
アオギリは枯れて
一宿苦寒欺薄衾
一夜の寒さを薄い布団でしのぐ
世事蹉跎
世間の出来事は意味がなく虚しく過ぎ行くだけ
死生契闊
生死を共にし苦労を重ねても
相見恨晚嘆奈何
出会うのが遅すぎてもうどうすることもできない

この台詞にはPriestの原作小説「天涯客」に書かれたオリジナルの詩が使われています。そして、この台詞の後に温客行は自ら吹いていた蕭を叩きつけて折ってしまいます。

これは「高山流水」の故事に描かれている知己を失った伯牙が自ら琴を壊したエピソード(連載第2回参照)と重なるシーンで、温客行の周子舒に対する深い想いと、彼を失いたくない悲痛な心情を切々と表現した名場面となっています。


TEXT: 小酒真由子(フリーライター)
アジアから欧米までドラマについて執筆しています。双葉社『韓国TVドラマガイド』にて「熱烈推薦!! 中華ドラマはこうハマる!」を、Cinem@rtにて「アジドラ処方箋」を連載中。また、執筆させていただいたキネマ旬報ムック『最新!中国時代劇ドラマガイド 2021』が絶賛発売中です。

Edited:小俣悦子(フリーランス編集・ライター)


「⼭河令」放送情報
WOWOWにて好評放送・配信中!毎週木曜深夜0:00(2話ずつ放送)
・全36話/字幕版
・「⼭河令」公式Twitter:@WOH_JP

「⼭河令」作品情報
<ストーリー>

朝廷の暗殺組織「天窗」から抜け出すために、⾃⾝の体にくぎを打ち、代わりに残された3年間の⾃由を得た「天窗」の元⾸領、周⼦舒(チャン・ジャーハン)は謎の男、温客⾏(ゴン・ジュン)と出会い、⼀夜にして無敵になれるといわれる武庫の鍵「琉璃甲」をめぐる壮⼤な争いに巻き込まれていく。

<STAFF&CAST>
原作:Priest 「天涯客」
監督:ゲイリー・シン、マー・ホワガン、リー・ホンユウ
脚本:シャオ・チュー
出演:チャン・ジャーハン(張哲瀚)、ゴン・ジュン(龔俊)、ジョウ・イエ(周也)、マー・ウンユエン(馬聞遠)、スン・シールン(孫浠倫)

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