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【中国】記者・翻訳者 井上俊彦さんが教えてくれる中国の読書事情|東方書店のオススメ本3選

11月の特集テーマは「読書」。海外旅行に行くことが容易でない今、本を通じてアジアを感じてみませんか?
今回ご紹介するのは、韓国、タイ・チベット・トルコ、台湾、中国、香港。それぞれの読書事情や入門編にぴったりのおすすめ3冊をご紹介します。


中国の読書事情について教えてくれるのは…

記者、翻訳者
井上俊彦さん 

      

中国の読書事情と現代作家

中国では図書市場が成長を続けており、2019年には図書小売額が1千億元(1元=約16円)に達した。ただし、実店舗販売額は減少傾向で、現在では全体の7割をネット販売が占める。書店も変革を迫られており、大型書店の売り場縮小が相次ぐ一方、おしゃれな内装の書店、オーナーの個性を前面に打ち出した品ぞろえの書店が台頭している。超高層階にある「雲の上の書店」からライブ配信で図書を推薦する書店、「24時間営業+深夜食堂」がコンセプトの書店などのほか、本の「福袋」を販売する書店なども登場している。

紙の書籍ではなく、画面で読むスタイルも定着しており、電子ブックは安価でサブスクもある。さらにはネット小説が躍進している。ファンタジー、武侠、冒険、恋愛などのジャンルが人気で、ネット小説からウェブドラマ化、映画化され大ヒットするケースも少なくない。


日本でテレビ放送された中国時代劇「永遠の桃花~三生三世~」も、大ヒットしたネット小説のドラマ化作品。
原作は、唐七公子著 『三生三世十里桃花』。(注釈:Cinem@rt編集部)


かつて日本では、魯迅(ろじん)や老舎(ろうしゃ)などがよく読まれ、研究されてきたが、現在活躍している中国の作家については、十分に認知されていないようにも感じる。しかし、多彩で奥深い中国現代文学は、触れてみればきっと得るものがあるはず。その手掛かりになればと考え、いくつか紹介させていただく。


まず知っておきたい現代作家としては、ノーベル賞作家の莫言(ばく げん)がいる。『赤い高粱(こうりゃん)』など、魔術的リアリズムと言われる手法で中国の農村の現代史を描き出す作品は、重厚で読み応えがある。最も売れている作家とされるのが余華(ユイ・ホア)で、代表作の『活きる』は、激動の時代に翻弄されながら生きる庶民の姿に焦点を当て、現在もベストセラーを続けている。『爆裂志』など、独特の寓話的手法で現代社会を鋭く描く、フランツ・カフカ賞受賞作家の閻連科も人気が高い。


余華『活きる』(飯塚 容訳、中公文庫)


上記の1950~60年代生まれの作家に対して、『上海ビート』の韓寒(かん かん)や『悲しみは逆流して河になる』の郭敬明(かく けいめい)など、「80後」(1980年代生まれ)世代は、プレッシャーの多い時代に生きる若者に寄り添った内容、平凡な日常を離れたファンタジックな作品を提供し圧倒期な支持を得ている。また、文筆活動にとどまらない、マルチな活躍ぶりも上の世代との違いだろう。前者は『後会無期(邦題:いつか、また)』など、後者は『小時代』シリーズを自ら監督して映画化、大ヒットさせ高く評価された。


郭敬明『悲しみは逆流して河になる』(泉 京鹿訳、講談社)


さらに、アイドル的な人気を持つ張皓宸(チャン・ハオチェン)や、「80後」作家を鋭く批評した『通殺80後』で知られる陳少侠(チェン・シャオシャー)など、90年代生まれの作家たちも続々登場しているが、日本ではまだ作品の紹介がほとんどない。


新しい動きとしては、SFへの注目がある。劉慈欣(りゅう じきん)の『三体』は現在、日本でもベストセラーになっている。ただし、このジャンルは中国ではまだ歴史が浅く、日本での翻訳数も少ない(最近、「SFマガジン」が中国SF特集を組んだ)。ミステリーに関しても同様で、国内の作家以上に東野圭吾や松本清張といった、日本の作家の作品が書店の平台を占拠していたりする。日本の作家といえば、中国での村上春樹人気については広く知られているが、日本文学は幅広いジャンルで人気が高い。児童文学で『窓際のトットちゃん』が日本を上回る1000万部以上を売り上げているほか、ライトノベルなども多数翻訳されている。


劉慈欣『三体』(立原透耶 監訳/大森望・光吉さくら・ワンチャイ訳、早川書房)


井上俊彦さんの、おすすめの1冊

「知能犯之罠 (官僚謀殺シリーズ)」
著者:紫金陳
訳者:阿井幸作
国内出版社:行舟文化 

中国の監視社会を背景にした犯罪ミステリーで、官僚と開発業者の癒着問題にも鋭く切り込んでいる。次第に犯人に迫る警察と、追われながらも犯罪計画を進める犯人との駆け引きは非常にスリリング。


井上俊彦
記者、翻訳者
1956年北海道生まれ、法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌出版社勤務を経てフリーに。2010年から17年にかけて、北京の中国外文局に外国人専門家として勤務。趣味は中国映画鑑賞で、巡った中国の映画館は100館を上回る。

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