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【香港】太台本屋 tai-tai books 三浦裕子さんが教えてくれる、香港の読書事情とオススメ本3選

11月の特集テーマは「読書」。海外旅行に行くことが容易でない今、本を通じてアジアを感じてみませんか?
今回ご紹介するのは、韓国、タイ・チベット・トルコ、台湾、中国、香港。それぞれの読書事情や入門編にぴったりのおすすめ3冊をご紹介します。


  

香港の本について教えてくれるのは…

太台本屋 tai-tai books 店員S
三浦裕子さん 

  

香港の本事情……代表的な作家、独立書店まで

華語圏の作品で、香港作家の書く小説が一番好きだ。理由は単純。読んでいて「面白い」もの——物語性の高いもの、読み進む快楽が得られるものが多いからだ。それは、全盛期の香港映画を観ればわかるように、楽しいことが大好きな香港人の「面白くないと、作品として受け入れられない」嗜好、日本で言えば関西人と共通するような気質からではないかと推測する。しかし残念ながら、日本で翻訳出版された香港作家の作品は、とても少ない。

香港は、台湾や中国などほかの華語圏の国と比べると、読書に熱心な地域ではない。香港の出版社の人たちが、自嘲的に「香港人は本を読みません」と断言するほどだ。長いこと、“お金を儲けること”が人生の最大の目標で、その他のことは重要ではない、という価値観が普遍的だったことの表れかもしれない。娯楽が少なかった80年代までは、地元作家の武侠小説やSF小説など、エンターテインメント系の作品が人気を博していたが、90年代以降はそれすらも読まれなくなった。

そんな香港でも、作家たちは創作を続けてきた。日本のエンタメ好きが名前を聞いたことがあるかもしれない香港作家を上げてみよう。まずは、華語圏の人なら知らない人はいない武侠小説の巨匠・金庸(きんよう)。『書剣恩仇録』から『鹿鼎記』まで、15作品すべてが華語圏で繰り返しドラマ化、映画化されている。劉以鬯(ラウ・イーチョン)は香港文学の先導者と称されている作家で、彼の『酒徒』『對倒』などの作品から、王家衛(ウォン・カーウァイ)が『花樣年華』や『2046』のインスピレーションを得たと言われる。現在進行形で精力的に作品を発表し、作品の評価も高い現役作家、董啟章(トン・カイチョン、『地図集』河出書房新社/2012)や、陳冠中(ちん・かんちゅう、『しあわせ中国 盛世2013年』新潮社/2012)などの作品が、日本で翻訳出版されたこともあるが、現在は品切れ。興味のある人は図書館で探してほしい。

この数年、日本読者の注目を浴びているのが、陳浩基(ちん・こうき)の『13・67』を火付け役とする香港のミステリ作品だ。実は、香港では以前からミステリが人気だったわけではない。陳浩基は、台湾の出版社が主宰する推理小説賞の大賞を受賞し、邦訳が日本で話題になったことで、逆輸入的に香港でも人気になった。彼が海外で注目されたこともあり、香港でミステリを創作する作家が増えている(ちなみに『13・67』は、王家衛が映画化権を取得したことでも話題になったが、王家衛のことなので、映画の完成がいつになるかは誰も予測できない)。


陳浩基 『13・67』(天野健太郎訳、文藝春秋)

書店事情について少しふれると、台湾や韓国、日本でも「独立書店」と呼ばれる個人経営のセレクト書店が増えているが、実は香港にもある。油麻地のミニシアター「百老匯電影中心 Broadway Cinematheque」に隣接する「kubrick」は、映画やアート、文学好きの聖地だ。湾仔と銅鑼湾の中間、古い雑居ビル「冨徳楼」の14階にある「艺鵠 Aco」では、特に香港の小規模な独立出版社を応援する品揃えだが、2019年までの一連の民主化デモ時には、デモ参加者を支持する垂れ幕をビルから下げたことでも有名になった。

私が参加している台湾や香港の本を日本に紹介するユニット「太台本屋 tai-tai books」では、今年、“絶対に面白い”香港の小説を、日本の出版社に売り込むことに成功した。「もしホームズとワトソンが、19世紀末の香港に生きた中国人だったら?」という設定で書かれた『辮髪のシャーロック・ホームズ(仮題)』(原題:神探福邇、字摩斯)だ。著者・莫理斯(モーリス)は、法律学の教授でもあり、映像制作プロデューサーでもある多才な人だが、実は香港の大女優で歌手の莫文蔚(カレン・モク) の実兄でもある。2021年に文藝春秋から刊行予定なので、お楽しみに。


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