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【中国】記者・翻訳者 井上俊彦さんが教えてくれる中国の読書事情|東方書店のオススメ本3選

中国の入門編におすすめの本を教えてくれるのは…

東方書店 店長
田原陽介さん 

  

はじめての人に読んで欲しい、おすすめの本



三体

原題:「三体(典藏版)/中国科幻基石丛书」重庆出版社
著者:劉慈欣
監訳:立原透耶
訳者:大森望、光吉さくら、ワンチャイ
国内出版社:早川書房



三体Ⅱ 黒暗森林 上・下

原題:「三体2 黑暗森林(典藏版)/中国科幻基石丛书」重庆出版社
著者:劉慈欣
訳者:大森望、立原透耶、上原かおり、泊功
国内出版社:早川書房

文化大革命によって物理学者の父を失った天体物理学者の葉文潔。「紅岸基地」に配属され、密かに地球の情報を宇宙に放つのだが……。ナノテク開発者の汪淼は、世界中で科学者たちが絶望の末に亡くなる事件に遭遇、とある組織を調べることになり、VRゲーム「三体」にたどり着く。天文学・物理学の難解な用語を駆使しながらも、飽きさせない展開が続き、次第に「三体」の正体が明らかになっていく。

中国では2008年に単行本が発売、現在2900万部の発行部数を誇る現代最大のヒット作。SF作家ケン・リュウ氏による英訳版はさらに多くの読者を生み、2015年、アジアの作家としても翻訳小説としても初めてヒューゴー賞長篇部門(アメリカSFの最高峰)を獲得。その評価は不動のものとなり、オバマ元大統領やマーク・ザッカーバーグ氏も愛読。日本語訳版も発売後1週間で10数回の重版が決まるという異例の大ヒットを記録。

第二部「三体Ⅱ 上・下」も翻訳され、シリーズ累計30万部を突破。中国小説愛好家にとどまらず、SFファン、さらには一般読者をも巻き込み、全世界で巨大なムーブメントとなった《三体》シリーズから中国小説の世界に入ってみてはいかがだろうか。





中国くいしんぼう辞典

原題:「吃货辞典」商务印书馆
著者:崔岱遠
画:李楊樺 
訳者:川浩二
国内出版社:みすず書房

経済的発展とともに食へのこだわりもあらためてクローズアップされるようになった中国。昨今多数出版される美食関連の書籍の中で、SNSを土台にした本書は圧倒的人気を誇っている。原題は『吃貨辞典』。「吃貨(チーフオ)」はグルメではなく「くいしんぼう」といったところで、巷の食べ物や料理が、それにまつわる文化や逸話、そして著者自身の見聞や体験、博識をもとに、風味漂う文体によって次々に紹介される。

蘭州人の身体に深く染みつき、二日も食べないと落ち着かないと言われる「蘭州牛肉面(ランジョウニウロウミエン)」。路地でかならず出くわし、その地域の風景とともに楽しむ「煎餅(ジエンビン)」。長編小説『紅楼夢』内で創作されたものにも関わらず、人口に膾炙した「茄鯗(チエシアン)」。「家」「街角」「飯店」それぞれの場面ごとに分類された各料理のページを紐解けば、中国各地で展開される食文化の世界に入り込める。

中華料理のみならず中国料理への関心も高まってきた日本で、真の意味で本場の「吃貨」による本書が翻訳された事実はあまりに重要で、食べる前も食べた後も、何度もめくって楽しめること間違いなし。それこそ「辞典」の本望である。





全訳 封神演義1~4

原題:「《封神演义》华夏英雄系列」人民文学出版社ほか
監訳:二階堂善弘
訳者:山下一夫,中塚亮,二ノ宮聡
国内出版社:勉誠出版

殷の紂王は神・女媧の怒りを買い、妖狐となった後宮・妲己(だっき)に篭絡され、その意のままに暴政をふるうようになってしまった。この殷王朝を周が倒すという史実を、仙界の代理戦争という視点から描き、多くの仙人(道教や仏教、さらに創作も含む)を登場させて大きく潤色、古来よりの神話や民間信仰を取り混ぜ、練り上げた。

文学作品としての評価よりも宗教文化や民間信仰へ与えた影響が非常に大きく、中国に暮らしてきた人々の精神世界に最も近づける1冊!

平成以降、安能務による訳書が出版、それを踏まえた藤崎竜の漫画およびアニメによって大きく裾野が拡げられたものの、時代背景や民間信仰の考証、他の通俗小説への言及など多くの課題が残され、また正確に全訳とよべるものもみられなかった。それからおおよそ四半世紀、本書は民間信仰、伝統文化、古典小説の各専門家が結集し、書き上げた初めての『封神演義』全訳書である。

明末に出版されるやいなやあまりにも流行し、他の神話や信仰のかたちに大きな影響をおよぼした「新しい神話」。登場する神仙はいたるところに伝播しているため、身近な神様が出てくるかどうかといった視点からも大いに楽しめるだろう。



東方書店

東方書店は1951年(昭和26)創業、中国・香港・台湾などの書籍・雑誌の輸入と販売をしている、神保町・すずらん通りにある中国関係専門書店です。


専門書店というと堅いイメージがありますが、それだけではありません。研究者御用達の学術書はもちろん、中国時代風イラストの描き方の中国直輸入本あり、中国のオタク用語を網羅した辞典あり、古代中国の公務員試験マニュアル「科挙対策 律令」などの同人誌ありの本屋です。

他の書店では入手しにくい、中国に関する一歩踏み込んだ本を揃えてございますので、中国に関心をお持ちの方はぜひ一度お立ち寄りくださ
い。また、ご来店が難しい方は通信販売もやっておりますので、当社webをご利用ください。新刊情報等はSNSで情報発信もしていますので是非チェックしてください。

中国・本の情報館 東方書店 https://www.toho-shoten.co.jp/
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Edited:小俣悦子(フリーランス編集・ライター)

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