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【インタビュー】『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』リャオ・ミンイー監督 "この映画に隠された、一風変わった撮影スタイル"

"恋は盲目"をテーマのひとつに、"恋の約束と確執"を描き数々の映画賞を受賞した『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』(以下、『恋の病』)が、本日8月20日よりシネマート新宿・心斎橋ほかにて公開がスタート(全国順次公開)! 本作の監督と脚本を務めたリャオ・ミンイー(廖明毅)監督にお話を訊きました。

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― リャオ・ミンイー監督は本作で脚本も担当されていますが、この物語の着想はどこからでしょうか?

リャオ・ミンイー監督(以下、リャオ監督) 最初に3つのことを決めました。1つ目は「iPhoneで撮影すること」。なのでiPhone撮影にふさわしい物語を作ろうと思い、2人の物語にしようと決めました。2つ目は「画面が正方形から広くなること」、3つ目は「大きなドンデン返しがあること」です。これらの要素から、この映画が生まれました。

     


リャオ・ミンイー監督


― 脚本執筆の際に、主演のリン・ボーホン(林柏宏)さんとニッキー・シエ(謝欣穎)さんのキャスティングを想定されていたのでしょうか? また、この2人を起用した理由を教えて下さい。

リャオ監督 今回のキャスティングは縁と感覚に任せていたので、理性で決めた部分は少ないです。まず、リン・ボーホンは当て書きで、この映画は彼のために作った作品です。執行監督を務めた『六弄咖啡館(原題)』という作品で彼と一緒に仕事をして親友になりました。その時から彼に「ご自身の監督作を撮るときは声をかけてください」と言われていたので、最初から彼を起用することは決めていました。

ニッキー・シエは当て書きではありません。脚本の段階ではジンを演じる俳優は決まっていませんでした。7、8年前に自身の作品を撮れる機会があり、ニッキー・シエに出演してもらおうと考え、彼女と台北映画祭で長い話をしました。その作品は実現には至りませんでしたが、今回『恋の病』の製作が決まった時に彼女の名前が浮かびました。長い間会っていなかったので、彼女に脚本を読んでもらい、僕が考える撮影の仕方などを伝えました。その時、会話をしながら7、8年前と彼女が全く変わっていないことに気が付き、彼女にジンを演じてもらうことを決めました。


ニッキー・シエ(左)とリン・ボーホン(右)


― 撮影現場でのリン・ボーホンさんとニッキー・シエさんには、どのようなアドバイスをされましたか? 2人とのやりとりで印象に残っているエピソードを教えてください。

リャオ監督 2人とも俳優として成熟していますし、いろいろな作品にでているので、僕からアドバイスをすることはあまりありませんでした。しかし、本作では撮影前の稽古に力を入れました。これは台湾の映画制作の現場では珍しいことで、俳優も事前に稽古を重ねることがあまり好きではありません。それによって何かが失われると思っているからです。でも僕が受けた映画の教育はそうではありません。僕は演技には練習が必要だと信じています。だから時間をかけて彼らを説得しました。そうしていく中で、彼ら自身も、撮影前に稽古を重ねる良さに気が付いてくれました。

しかし、僕らは稽古ばかりをしていたわけではありません。一度演じてみた後に、恋愛観について長く話し合うこともありました。その話し合いによって彼らは撮影するシーンの核となる部分を理解し、もう一度稽古に臨みます。そうすると、最初とは違う表現が生まれてくるんです。

印象に残るエピソードは、スーパーでボーチン(リン・ボーホン扮)が同僚の女性と一緒にいるのをジン(ニッキー・シエ扮)が目撃するシーンがあるのですが、もともと僕が考えていた演出は、ボーチンがジンのことを知らないふりをした時にジンはマスクを着けたまま悲しみの涙を流す、というものでした。でも、撮影現場ではニッキー・シエは僕の指示に従いませんでした。彼女はマスクを外して、ボーチンに微笑みかけたんです。そして、ボーチンが彼女のことを知らないふりをして彼女の目には涙が浮かびました。彼女のこの演技を見て、逆に僕は涙のカットを編集で切ろうと決めました。このことが印象に残っている理由は、どんなに稽古を重ねていても現場で俳優が演技を変えることが許されるということです。こういった互いへの信頼感は、稽古によって生まれたものだと思います。


― 本作は台湾初の全編iPhoneで撮影された作品ですが、なぜスマートフォン撮影に挑戦しようと思われたのでしょうか? また実際に映画を制作されて、スマートフォン撮影ならではの魅力はどんなところにあると思いましたか?

リャオ監督 僕にとっては実は挑戦ではないんです。なぜなら僕はこのデバイスに関して長年勉強してきたから。また、撮影機材が小さくなることで撮影は簡単になるはずなので、僕は"挑戦"とは言いません。

iPhoneで映画を制作してみて感じた魅力は、軽さと便利さです。この魅力によって時間とマンパワーが大幅に節約できました。スマートフォン撮影の特徴は、スマートフォンというデバイスを皆持っているのに、誰でも映画撮影ができるわけではないということです。良い筆を持っていても、必ず画家になれるわけじゃないでしょう。

映像作品を作る人、もしくは作りたいけど予算がない人に伝えたいのは、スマートフォン撮影によって映画制作のハードルを低くすることに賛同してくれるなら、また、もし僕が今までiPhoneで撮ってきた映画やMV、広告のクオリティに満足してもらえるなら、スマートフォンで作品を撮ってみることをお勧めします。

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