Cinem@rt エスピーオーが運営するアジアカルチャーメディア

最終回【インタビュー】韓日映像翻訳者・福留友子さん

 

 - 今まで翻訳をしていて、印象的だった映画やドラマのフレーズはありますか?

 

福留:何年経験を積もうと、翻訳している最中は、いまだに必死でして、作品を分析的に見ながら、適切に訳出することのみに意識を向けるあまり、主観的に「鑑賞」する余裕はほぼなく、その結果、翻訳を終えたあと、内容がすっかり頭から消え去ってしまうんです。ですので、すぐに思い出せるセリフ、フレーズなどはなく…。

 

ちょうど現在、公開中の『KCIA 南山の部長たち』から1つ選ぶとしたら、劇中、大統領が歴代の3人の中央情報部部長に向けて言う「임자 옆에는 내가 있잖아. 임자 하고 싶은 대로 해. (君のそばには私がいるだろ。やりたいようにやれ)」が印象に残っています。

トップが自身の責任を回避するために指示内容を具体的に明示せず、部下にとある行動を促すために、この言葉を発します。これは普遍的に、どの組織にも存在する暗部を象徴するような言葉であり、劇中、3~4回、繰り返されることで主人公の中央情報部長の心情変化の鍵となっていて、おそらく、私だけでなく鑑賞した多くの方々の印象に残った言葉だと思います。この作品の中で重要なセリフの1つだったと思いますが、幸い、ほぼ原語どおりに訳出することができ、そういう意味でも、よかったです。

『KCIA 南山の部長たち』COPYRIGHT (C) 2020 SHOWBOX, HIVE MEDIA CORP AND GEMSTONE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

 - 私も『KCIA 南山の部長たち』を観させていただいたのですが、作品中で1番印象的なセリフでした。

   最後に、韓国語を勉強している人や韓国語の翻訳を仕事にしたいと考えている人に向けて、アドバイスがあればお願いします。

 

私自身、まだまだ未熟な翻訳者で修業の過程にあるので、偉そうなことは言えませんが、字幕翻訳に限って言えば、多くの映像作品や文学作品に触れたり、日本語の能力を高めるべくトレーニングを積んだりすることも大事ですが、自分の訳を視聴者目線で客観的に見る努力をすることが上達の鍵だと思います。「原文の意図が伝わっているか」「セリフの印象が変わってしまわないか」「ミスリードを招いてないか」等々、常に自分の訳文に疑問を持つことが大事です。そういう意味で慢心は敵ですね。自分の訳に酔ったら終わりです。

また字幕翻訳は、単なる原文の要約ではなく、原文の情報を削いだあとも原文の意図が十分に伝わるよう、そしてセリフがスムーズにつながるよう工夫する必要があります。そういう意味で論理的な思考力を鍛えておくと、字幕翻訳者として強みになると思います。私自身は急いでいる時は特に、やや感覚的に訳をつけてしまう傾向がありますが。

 

今や韓国映画やドラマ、バラエティ番組、教養番組、K-popアイドルの映像コンテンツなど、翻訳が必要なコンテンツは急激に増えています。先日、大手コンテンツストリーミングサービス企業のNetflixが、韓国の撮影スタジオ、2箇所と長期賃貸契約を交わしたことや2021年、韓国作品に520億円投資することが話題になりましたが、今後も韓国の映像作品の供給・需要は高まっていくはずですし、それらの作品の翻訳の需要も高まっていくはずです。

映像翻訳は特殊な技術が必要な分野ですので、適性もありますが、その手法をひととおり身に着けておくと、今後、強みになるかなと思います。また映像翻訳者を目標に定めて、映像コンテンツを利用して勉強を進めるのも一手かと思います。

 

KCIA 南山の部長たち(PG12)
監督:ウ・ミンホ
出演:イ・ビョンホン、イ・ソンミン、クァク・ドウォン、イ・ヒジュン、キム・ソジン
配給:クロックワークス
©2020 SHOWBOX, HIVE MEDIA CORP AND GEMSTONE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

 

おわりに
Cinem@rt韓国語講座は今回のインタビューが最終回となります… 
これまで、Cinem@rt韓国語講座を読んでいただいた方々、本当にありがとうございました!

記事の更新情報を
Twitter、Facebookでお届け!

TOP