Cinem@rt エスピーオーが運営するアジアカルチャーメディア

最終回【インタビュー】韓日映像翻訳者・福留友子さん

みなさん、こんにちは!

ここまでのCinem@rt韓国語講座では、全6回に渡って韓国ドラマに出てくるセリフを解説してきました。その中で、ドラマに出てくるセリフ1つ1つを、分かりやすい日本語へと翻訳する翻訳家の方々の存在を意識したことはありますか?

今回は、なかなか注目されることのない翻訳という仕事について韓国語学習者のみなさんにも知ってもらうべく、映画やドラマの翻訳を100本以上手掛け、韓国語翻訳の最前線で活躍しておられる福留友子さんにお話を伺いました。

『ハロー!?ゴースト』や『ベテラン』といった有名作をはじめとして、最近では『KCIA 南山の部長たち』や『藁にもすがる獣たち』の翻訳も担当されている福留友子さん。韓国という国に興味を持つようになったきっかけや、翻訳という仕事を選んだ理由などをお聞きします。

 

 PROFILE  福留友子さん

韓日映像翻訳者(字幕・吹き替え)。近作にドラマ「ノクドゥ伝~花に降る月明り~」、映画『82年生まれ、キム・ジヨン』、『KCIA 南山の部長たち』、『藁にもすがる獣たち』など。

※写真は、釜山国際映画祭の会場、“映画の殿堂”にて

 

韓国語との関わりについて

 

 - 福留さんが韓国語に興味を持ったきっかけは何ですか?本格的に勉強を始めた時期や上達を感じた時期があれば教えてください。

 

福留友子さん(以下、福留):私の場合、韓国・朝鮮語というよりハングル(文字)との出会いが最初でした。小学校4年生の時に手にした本『ユンボギの日記 あの空にも悲しみが』(イー・ユンボギ 塚本勲訳)の表紙裏にハングルが載っていたんです。もちろん本文の内容にも感銘を受け、お隣の国の文化を知りたいと思う契機になったのですが、私は日本語とは全く異なる文字体系のハングルに強く惹かれました。

しかも「朝鮮文字は…ひじょうに科学的でおぼえやすい」とひと言添えられており、それを真に受けた小学生の私は文字が簡単=言語の習得自体も簡単だと勘違いして、後々、本格的に勉強を始めた時に痛い目に遭います(笑)。当時は文字に興味を持ったものの、どうすれば韓国・朝鮮語を体系的に学べるのか分からず、それを学ぶという夢は心の片隅に追いやられて、しばらく意識にのぼることはありませんでした。

 

その後、韓国・朝鮮に再び興味を抱き始めたのは高校2年生の時(1987年)でした。同年7月に軍事独裁を続けてきた韓国の全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領が政権移譲を表明しました。当時、私は吹奏楽部の部員だったのですが、部活動の休憩中に、本当に文民政権になるのかということが、たびたび部員の間で話題になって議論したり、私自身も新聞や書籍などで、いろいろ調べたりした記憶があります。1988年2月末の盧泰愚(ノ・テウ)大統領の就任式の様子が写真付きで載っていた1面トップ記事は今も鮮明に覚えています。「あ~韓国も新しい時代が始まるのだな」と。ご存じのとおり、一介の高校生が当時の韓国の民主化過程の実態を知るべくもなくお気楽なものでしたが。さらに高校3年生の時に在日韓国人のクラスメイトが本名宣言をしたのですが、この出来事が強い動機付けとなり、「私は隣国について何も知らない。もっと知りたい」と思うようになりました。

『KCIA 南山の部長たち』COPYRIGHT (C) 2020 SHOWBOX, HIVE MEDIA CORP AND GEMSTONE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

翌年、大学に入学した際、なんと第2外国語として韓国語があり(私の入学年から開設されて、グッドタイミングでした)、迷わず選択しました。現在、東京外国語大学で教鞭を取られている丹羽泉先生に教わったのですが、とにかく韓国語を勉強するのが楽しかったですね。生まれてこの方、勉強が楽しいと思ったのは、この時が初めてでした。教え方が上手だったからだと思います。丹羽先生の授業は人気で、モグリの学生や、なぜか韓国人の留学生なども授業を受けていましたね。

とはいえ週1コマの第2外国語ですので、しばらくは初級の域を脱することができませんでした。しかも将来は文化人類学の研究者になりたいと思うようになってからはフランス語の学習に夢中になってしまい、そのうち韓国語の学習は疎かになってしまいました。そんな中、大学2年か3年の時に韓国語が専門の人たちに混ざって、「韓国語の講読」の授業を受講したのですが、初めてまとまった分量の韓国語を精読することによって、だいぶ力がついたなという実感はありました。

 

 - 韓国語を学ぶことに対して、周囲からどのような反応があったのか気になります。

 

福留:周囲からの反応は特になかったと思います。当時、所属していた冒険探検部の部員も皆、海外に目が向いていたので、各自、希少言語を学んでいたり、語学の勉強会を開いたりしていたりしたので、「おっ、福留、韓国語やるの?楽しそうじゃん」くらいの反応だったと思います。親も、私が大学院に進学するか否か相談した時に初めて、私が韓国語を学んでいると知ったかもしれません。

 

 - 周りにも海外に興味がある方が多かったのですね。

   韓国語はどのように勉強したのでしょうか?おすすめの勉強法などがあればぜひ教えてください!

 

福留:先ほど申し上げたとおり、大学の第2外国語で韓国語の基礎を学んだのですが、その後は独学でした。短・長期留学もしていません。当時は韓国語の学習書はあまりなく、『スタンダードハングル講座』(三枝壽勝著、大修館書店)全5巻を1巻から例文をひたすら書いては覚えるという、まるで科挙に臨むかのような非常に非効率的な勉強の仕方をしていました。ラジオ講座も気が向けば聴いたりしたのですが、三日坊主の私には継続できませんでした。

ですので、特にお勧めできるような勉強法やノウハウは自分の中にないんです。大学院で必要に迫られて韓国語の論文や書籍を多読したのですが、この時、ある程度の読解力は身につきました。ですが、論文で使用されている単語は漢字語に偏っていますし、単語を調べずに文脈から推測する癖がついてしまい、語彙力がいつまでも身につかず、当然、聞き取りや会話など上達するはずがありませんでした。学習中の方には、この辺りを反面教師にしていただければと思います。

 

私は語学学習が半ば趣味なのですが、どの言語であっても基本的な文法を学習し終えたあと、新聞、小説などを辞書と首っ引きで文法的に分解しながら読むという作業をある程度こなすと、急激に読解力がつく気がします。今は多種多様な教材が出版されていて、より取り見取りですので、ご自身に合った物を選んで、文法、会話、読解、聞き取り、作文などインプットとアウトプットをバランスよく学習に組み込むのが早期上達のコツだと思います。

最近は韓国ドラマや映画、k-popアイドルの映像コンテンツで勉強している方も多いと聞きます。取っかかりとして夢中になれる物、興味のあるところからアプローチするのも1つの手かもしれません。

例えば、NAVER辞書の日本語辞典では、単語を引くと、その単語が使用されているK-popアイドルの動画へのリンクも出てきます。辞書を引くだけでは意味がつかみにくい単語も実際の使われた方が分かるのでお薦めです。

記事の更新情報を
Twitter、Facebookでお届け!

TOP