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最終回【インタビュー】韓日映像翻訳者・福留友子さん

翻訳という仕事

 

 - 福留さんが、韓国に携わる仕事の中で翻訳という仕事を選んだのはなぜですか?

 

福留:学生時代は研究者を目指していたので、韓国・朝鮮に研究という形で関わりたいと思っていました。大学院のゼミでは専攻していた学問(文化人類学)の性質上、世界の様々な地域を研究する学生が集まっており、必然的に韓国語や英語、フランス語で書かれた論文を日本語にする作業を行う機会が多かったのですが、その過程で翻訳(というのもおこがましいのですが)の楽しさに目覚めました。

単に単語を辞書的な意味に置き換えるのではなく、文脈に文脈に即して適切な語彙を選んでいく、さらには、その言語が内包する文化的背景も加味しながら訳していくことに、とても魅力を感じたんです。残念ながら研究者としての資質も根性もなく、途中で断念したのですが、その頃から将来、機会があれば翻訳という仕事に従事したいと考えるようになりました。

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 - 福留さんは英語とフランス語も勉強しておられたとのことでしたが、韓国語を翻訳する際に他の言語との違いを感じることはありますか?

 

福留:かつて英語の翻訳をしていた時期もあったのですが、もはや韓国語の仕事が99%くらいですので英語は忘れかけていますし、フランス語に至っては20年ほど触れておらず、すっかり忘れてしまいました。文を見れば何となく意味が分かる程度です。やはり語学学習は継続していないとダメですね。

 

韓国語は日本語と文法的に似ているし、漢字語から推測できる部分も多く、翻訳は簡単でしょと、よく言われますが、他の言語と同様、原意を損なわないように、かつ自然な日本語になるように訳すのは至難の業です。皆さんも不自然な日本語になっている韓国語の翻訳記事をよく目にするのではないでしょうか?また韓国は日本とは似て非なる国で、文化も人々のメンタリティーも思考方式も異なり、それを加味しながら過不足なく、理解しやすい日本語にしていく作業はつらいですが、本当に魅力的です。

映像翻訳に関していえば、ドラマも映画もそれぞれ100作品くらいは訳していると思いますが、うまく訳せたと思ったことは今の今までたった一度もありません。自虐的な性格なので(笑)いつまでも完成された域に到達しない感覚が、たまらなくよいです(マニアックですね)。

 

 - 他にも翻訳の仕事をしていて大変なことはありますか?福留さんがこの仕事をしていて、辞めたいと思ったことはあるのでしょうか…

 

福留:私が携わっている映像翻訳は字幕翻訳ならば字数制限、使用できる漢字や語彙の制約などがあり、また吹き替え翻訳ならば、口の動きに合うようにセリフを作らなければならず、がんじがらめの制約の中で訳文を練らなければならないという苦しみがあります。原語どおり、そのまま日本語に置き換えることができればよいのですが、各制約に引っかかったり、ミスリードを招いたりすることも多く、原文の意図を正確に伝えられていないのではという不安が常に脳裏から離れず、翻訳の作業中も、映像作品がリリースされて視聴者の目に触れるようになってからも、とにかく、ずっとつらいです。

辞めたいと思うことは頻繁にありますね。同業の翻訳者の方々に尋ねると、大概、「翻訳は楽しい」とおっしゃるのですが…。ですが、将来、真の実力がついて、「翻訳、楽しい!」と思えるよう努力は続けるつもりです。

 

あと映像翻訳は比較的、作業期間が短いので、体力的にだんだんつらくなってきました。同業者の皆さんは意識して運動しているようですが、私は全く何もしていません。COVID-19の影響で外に出る仕事も旅行の機会もなくなった今は完全引き籠もりで、家で仕事ばかりしていて、自由に使える時間もうまく確保できず、もう半年も外に出ていません。体力がないと気分も沈みがちで、体力をつけるのが今後の課題です。

 

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