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《台湾ドラマの今を考察する》第3回 台湾ドラマ新時代の幕開け

2003年「流星花園〜花より男子〜」の日本初放送以来、その魅力にハマり、台湾ドラマ・ウォッチャーとなった方も少なくないかもしれない。当時、一作品あたり20話超という長い尺が標準だった台湾ドラマは、原作をより忠実に再現できる強みを生かし、日本の漫画との親和性が高かった。「イタズラなKiss〜惡作劇之吻〜」(05)や「悪魔で候~惡魔在身邊~」(05)に代表される数々のヒット作を生むと同時に、F4、ジョセフ・チェン(鄭元暢)、アリエル・リン(林依晨)、マイク・ハー(賀軍翔)、レイニー・ヤン(楊丞琳)ら人気スターも輩出した。

そんなアイドルドラマ全盛期から約20年がたった今、再び台湾ドラマが熱い。今回は直近10年ほどの台湾ドラマについて考察してみたい。



台湾ドラマ新時代の幕開け

「茶金」場面写真
「茶金 ゴールドリーフ」© 2021 Taiwan Public Television Service Foundation

ボトルネックが解消され、現場が本来の実力を発揮できるようになった台湾ドラマは、海外資本に頼らずとも優れた作品ができることをも証明した。家なし車なし子なしのアラフォー独身女性が、自分らしく生きるために奮闘する「おんなの幸せマニュアル 俗女養成記」(19)では、年齢差別や伝統的な価値観に疑問を呈し、現代に生きる台湾人女性の葛藤がリアルに描かれている。老若男女誰でも楽しめるストーリーは幅広い世代から支持され、第2シーズンもリリースされた。これまで、台湾のローカル要素は海外市場に不向きとされていたが、動画配信サービスの普及により、各国で海外作品を気軽に視聴できるようになった現在、むしろローカル性こそが唯一無二の魅力となり、クオリティと世界共通のテーマを兼ね備えることによって海外市場でも十分に競争力を持ちうる。実際、ローカル要素満載の「おんなの幸せマニュアル 俗女養成記」は日本でも好評だ。


一方、名作家・白先勇の原作を基に第二次世界大戦・国共内戦から戒厳令時代を描いた「一把青」(15)をはじめ、日本統治時代の負の面にフォーカスした「日據時代的十種生存法則(原題)」(19)、戒厳令下の高校生を描くホラーサスペンス「返校」(20)、今はなき中華商場を舞台にした「歩道橋の魔術師(天橋上的魔術師)」(21)、茶葉貿易商の栄枯盛衰を通して激動の時代を生き抜く台湾人を描いた茶金 ゴールドリーフ(21)、1867年に起きたローバー号事件を背景に各民族間の衝突と時代の大きなうねりを描く「斯卡羅(原題)」(21)といった、史実を基にした歴史ドラマが近年数多く制作されるようになったことにも着目したい。

背景セット、衣装小道具をはじめ、どうしても多額のコストを必要とする歴史ドラマは、歴史映画と比べ、これまで圧倒的に作品数が少なかった。しかし、資金面で妥協する必要がなくなった今日、制作現場は作りたいものを作れるようになった。その最たるものの一つが、現在の台湾の礎ともいえる「台湾の歴史」なのだと、歴史作品の増加からうかがえる。


その点にあえて言及するのは、台湾人が台湾の歴史を学ぶ機会を長らく奪われてきたからだ。日本統治時代は日本の歴史、1949年に中華民国政府が台北に移ってからは中国の歴史を学ぶことを余儀なくされ、台湾自体の歴史はつい最近までその狭間に置き去りにされてきた。例えば、台湾がかつて米軍の空襲を受け、甚大な被害を被ったことを知らない台湾人は少なくない。「茶金 ゴールドリーフ」には、空襲をはじめとした知られざる歴史のカケラが随所に散りばめられている。ローバー号事件を描いた「斯卡羅」も然り、台湾南部の恆春半島を舞台に、原住民族(先住民族)をはじめ現在の台湾を構成する各民族間の摩擦、アメリカや清朝との衝突など激動の時代を全力で世界に伝えようとしている。台湾ドラマは今、台湾人自身にさえなおざりにされてきた歴史を今一度しっかりと見つめなおし、台湾の物語を次世代へと語り継ごうとしているのではないか。台湾人が歩んできた過去をエンターテインメントへと昇華することで、今後の未来を改めて切り開こうとしている。そんな強い意志が感じられる台湾ドラマから、今後も目が離せない。

Text:二瓶里美
編集者、ライター。2014年より台湾在住。中華圏のエンターテインメント誌、旅行情報誌、中国語教材などの執筆・編集に携わる。2020年5月、張克柔(字幕翻訳家・通訳者)との共著『日本人が知りたい台湾人の当たり前 台湾華語リーディング』(三修社)を上梓。

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