東京都立西高等学校×映画『進行曲 マーチングボーイズ』 特別授業レポート
1990年代の台湾を舞台に、名門男子校マーチングバンド部の再起をかけて心を一つに部活動に励む高校生男子の青春を、実話をもとに描く台湾映画『進行曲 マーチングボーイズ』がいよいよ来週10月23日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開となります。本作は、1980年の創業から映画前売り券の販売を担ってきた「メイジャー」が初めて配給業務を手がける第一回配給作品となります。
このたび、東京都立西高等学校の生徒に“異文化理解”の授業の一環として、同校にて本作の試写会を開催、上映後に本作の脚本にも携わったプロデューサーのケリー・チェンとのオンライン・ティーチインを行う、特別授業を実施しました。
映画に登場するのは、エドワード・ヤン監督作品でもしばしば登場する台湾屈指の名門・建国高校で、1992年、当時の生徒たちが抑圧的な環境に抗い、自分たちの自由な精神を表現するために旧来のマーチング・スタイルを一新、アクロバティックな要素を取り入れるなど変革し最終的に全国大会で優勝を果たしたという実話が、本作のもととなっています。
生きる時代も、住む国も違う現代の高校生たちは、主人公たちの姿に何を思うのか? 東京都立西高等学校教員の篠田健一郎氏の協力のもと、台湾のケリー・チェンと東京の高校生44名がオンラインを通じて、意見交換を行いました。

京都立西高等学校×映画『進行曲 マーチングボーイズ』特別授業 概要
【日時】10月13日(火)
【会場】東京都立西高等学校 (東京都杉並区宮前4-21-32)
【オンライン登壇者】ケリー・チェン(『進行曲 マーチングボーイズ』プロデューサー・脚本)
【特別授業参加者】都立西高等学校 生徒(異文化理解に興味のある生徒44名)
吹き替えなしのパフォーマンスに生徒も驚き!
本作を通していまを生きる若者たちに伝えたかったこととは?
特別授業は、本作のプロデューサーであり脚本を手がけたケリー・チェンの「皆さんこんにちは。私はプロデューサーで脚本家のケリー・チェンです」という元気な日本語の挨拶で始まった。オンラインでの質疑応答が始まって早々に、映画を見終えたばかりの生徒たちに質問を募ると、一斉にあちこちで挙手が起こり、日本の高校生が自発的に意見を述べようとする姿にチェンプロデューサーも満面の笑顔。以下、生徒とチェンプロデューサーのやりとりを抜粋してレポートします。
生徒 この物語は実話とのことですが、なぜこの話を映像化しようと思ったのですか?
チェン 劇中に出てくる建国高校は実在する名門校で、この学校のOBから、自分たちの高校のマーチングバンド部の話を映画化してほしいと依頼されました。
生徒 楽器を演奏しているシーンがありますが、演じる俳優さんたちが実際に演奏しているのですか? あるいは、演奏する真似だけして後から音を合わせたのでしょうか?
チェン これは本作における自慢の一つなのですが、劇中の音楽はすべて演じる俳優が実際に演奏をしています。撮影の半年前から練習をして主役たちはマンツーマンのレッスンを受けました。
この回答には、生徒たちから「おお」というどよめきと共に拍手が起こった。
生徒 この映画を見て今の高校生にはない大胆さに驚きました。今、2026年という現代ではなく1990年代という一昔前の時代を世界に届けることで、今の高校生に伝えたかったメッセージは?
チェン 実は、この映画を企画していたとき、多くの人から「どうして現代の高校の吹奏楽部を舞台にした映画にしないの?」と聞かれました。この映画の舞台となっている1990年代は、私自身も高校生でした。当時はスマートフォンも、FacebookやInstagramといったSNSもありませんでした。だからこそ、当時の高校生たちは、純粋に学校生活や部活動を楽しんでいました。学校には勉強をしに行くわけですが、やっぱりサボりたいですよね(笑)。部活動に参加することは、外に出かけるための口実にもなったし、部活動を通じて友達が増えたり、他校生と知り合ったりすることもできました。私自身、女子校に通っていたので、普段は異性と知り合う機会がほとんどありませんでした。でも、部活動を通じて異性と出会ったり、たくさんの友達を作ったりすることができました。私は、今の高校生たちにも、そうした時代の精神を感じ取って、心を動かしてもらえたらと思っています。本当の友情や人生は、スマートフォンの中にはありませんし、SNSで誰かに評価されることがすべてではありません。今の高校生たちにも、この映画を観て、現実の世界には心から楽しめることや、夢中になれるものがあって、それを友達と一緒に分かち合えるんだと感じてもらえたら嬉しいです。SNSと現実は違います(笑)。
生徒 いまの日本にも「部活より勉強していい大学にいけ」という大人はかなりいますが、そういう人たちに対して私たちが対抗できる手段はあるんでしょうか。いまの日本では(劇中に登場するシーンのように)学校を脱出するというのも難しい。大人たちを説得するにはどうしたら?
チェン 先ほど見ていただいた映画のなかで父と息子が反発しあう関係が描かれますが、この90%以上は私自身が高校生の頃に親に反抗していた経験を(脚本に)再現したものです。私にも高校生と大学生の子どもがいます。だからこそ、この映画を通して伝えたかったのは、どんな時代であっても、親は子どもが本当に何を求めているのかを理解することが大切だということ。若者たちには、自分らしく生きる勇気を持ってほしい。自分が人生で本当に目指しているものを、勇気を持って表現してほしい。自分にとって本当に大切だと思えるものを見つけて、それを諦めずに貫いてほしいと思います。
生徒 映画の最初に流れ、最後に演奏した曲は、キャラクターたちにとってどんなイメージや思い入れがあるのでしょうか?
チェン 映画のオープニングとエンディングに流れる「向前走」という曲は台湾語の歌で、故郷を離れて、大都会へ出ていく若者を歌った内容です。故郷を出ることで、父親の期待を裏切るかもしれない、それでも自分は前に進み続けなければならない、という思いが込められていて、1990年代の台湾で非常に人気があった歌です。だから、私たちはこの曲を映画のテーマ曲として使いました。成長していく過程で、若者は誰でも間違いを犯すし、ときには嘘をついてしまうこともあります。ジャン・ハオが泣きながら父親に「僕はただ、自分の好きなことをやりたいだけなんだ」と訴えますが、自分が本当に好きなことを見つけ、それをやろうとすることは、自分自身を知るうえでも、とても大切なことです。それこそが、この映画を通して伝えたかったことです。
生徒 主人公たちが独創的なことをやりたいと、アクションを入れたり新しいマーチングスタイルを実践しますが当時は珍しいことだったんでしょうか?
チェン この映画にはとても重要な時代背景があります。私は、マーチングバンド部の卒業生を100人以上取材したのですが、1991年頃、彼らは大きな転換期を迎えていました。それまでのスタイルから、新しいスタイルへと変わっていく、いわば「変革」の時期でした。ジーチュワンが「先輩たちは、こんな軍楽を演奏していて、退屈じゃないんですか? 堅苦しくて、活気がない」と言いますが、当時のマーチングバンド部は、隊形も比較的シンプルで、直線的に並ぶようなスタイルが中心でした。そこで、この映画では、彼らがそのスタイルから脱却し、新しい形へと変わっていく姿を描きました。映画の中でも、彼らが部屋に隠れてアメリカのマーチングバンドのビデオを見て、そこからヒントを得る場面がありますよね。フラッグを取り入れ、自分たちの音楽に躍動感のある動きを加えることで、アメリカンスタイルのマーチングバンドへと進化していきます。つまり、それまでの“学校に言われた曲を演奏する”という姿勢から、“自分たちが演奏したい曲を、自分たちで決める”という姿勢へと変わっていく。自己を確立していくうえで、とても重要な過程だと思います。また、この映画を制作するにあたっては、日本の優れた高校のマーチングバンドからも大きな影響を受けました。例えば、京都橘高校といった日本の高校のマーチングバンドです。彼らのフォーメーションには非常に躍動感があり、国際的にも高く評価されています。観客に、楽しんで見てもらえるよう、彼らのように躍動感あるマーチングパフォーマンスを作り上げていきました。
生徒 私自身脚本を書いたりもしているのですが、すごく上手いなと思ったのは、直接は(言葉として)言わずに認めてくれたことを仄めかす描写や、映し方です。これから映画を作りたいと思っている学生に向けて、何かアドバイスはありますか。キャラクターが悩んでいるシーンって難しくて、上手な描写の仕方を知りたいです。
チェン 私はもともとジャーナリストで、30歳までは週刊誌の記者をしたり、旅行ガイドブックを執筆したりしていました。ヨーロッパやフランス、日本など、さまざまな場所へ取材に出かけ、いろいろな人たちに話を聞き、30歳になった頃から脚本を書く仕事を始め、映画やテレビの業界に入りました。記者として働いていた経験は、私にとって非常に大きな財産になっています。先ほどもお話ししましたが、この映画の脚本を書き始める前から、私はマーチングバンドの卒業生たちに数多く取材をしました。彼らと直接話をすることで、実際のマーチングバンド部員だった人たちが、どんな思いで活動していたのか、そして、どのような経験をしながら成長していったのかを理解しようとしました。これは、ほかの作品の脚本を書くときも同じで、現地に足を運んで調査をしたり、リサーチをしたり、実際にインタビューをしたりします。中国語では、「田調(フィールドワーク)」と呼ぶんですが、こうした取材やリサーチの過程が、作品づくりにおいて非常に重要だと考えています。実際にその人を観察することで、その人物の特徴や、その職業に就いている人ならではの性質、日々どのような暮らしをしているのかを知ることができるし、そこで知った人間の本当の感情を、物語の中に取り入れることができるからです。だからこそ、観客の心を動かすことができるのだと思います。
最後の質問をした、脚本を書いているという生徒の発言に、脚本家でもあるチェンプロデューサーは、日本語で「がんばって!」とエールを送った。
終了後、生徒たちが提出したアンケートには、チェンプロデューサーとのやりとりを振り返り「SNSでの会話に慣れ、当たり前に感じてしまっている今こそ現実で友達と過ごす時間を大切にするべきと思うことができた」「人生でSNSに束縛されないようにしっかり切り離していきたい」といった感想や、「国、文化に関係なく、高校時代に考え、感じることや大切にしたいことは同じなんだと分かった」といった作品への思いなど、本作、そしてチェンプロデューサーとの対話から、それぞれに学びを得たことが明らかに。貴重な異文化交流の時間となった。


『進行曲 マーチングボーイズ』プロデューサー:ケリー・チェン
監督:ジャン・ルイジー(姜瑞智) 脚本:ケリー・チェン(陳慧如)、ホアン・ジーカイ(黃致凱)
プロデューサー:ケリー・チェン(陳慧如)、ウルフ・チェン(陳鴻元)
出演:ムー・セン(牧森)、リウ・ユーレン(劉育仁)、ユー・ジェエン(余杰恩)、リー・リーレン(李李仁)、マー・ジーシアン(馬志翔)、ホアン・ディーヤン(黃迪揚)
2025年/台湾/台湾華語/ビスタサイズ/5.1ch/カラー 字幕翻訳:手塚雅美 原題:進行曲 Marchingboys
上映時間:117分 レイティング:PG12
配給:メイジャー 共同配給:アクセスエー
後援:台北駐日経済文化代表処 文化センター ©2025 Marching Next Media. All Rights Reserved.
公式サイト:marchingboys.jp
公式X、Instagram:@marchingboysjp


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