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イベントレポ|「香港映画祭2023 MakingWaves」『毒舌弁護人』ほかQ&Aレポート

Q&Aゲスト写真

昨年、香港特別行政区設立25周年を記念して開催された「香港映画祭 Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」が今年も開催。11月2日(木)よりYEBISU GARDEN CINEMAにて開幕、5日(日)に全日程が無事終了した。

今回、全上映作品7作品のうち、日本初上映は5本。まさに香港映画の今を堪能できる作品ラインナップで発表当初より、多くの映画ファンの期待が寄せられ、会期中は連日満員御礼の大盛況! 香港映画界を支える人気俳優ダヨ・ウォンやラム・カートンら来日ゲストを迎えて行われた上映後のQ&Aでは数多くの質問が集まり、それに楽しそうに熱心に答えているゲストの姿が印象的だった。

『マッド・フェイト』Q&Aレポート

11月3日(金・祝)、昨年上映した『リンボ』に続き、ラム・カートン×ソイ・チェン監督が最新作『マッド・フェイト』を携えて今年も本映画祭に登場!

ラム・カートン、ソイ・チェン監督
ラム・カートン、ソイ・チェン監督

Q&Aに登壇した主演のラム・カートンは、演じた占い師が複雑なキャラクターで難しかったのではという質問に「基本的に人間は誰しも複雑なもの。良い面と悪い面がある。このキャラクターは異なる状況で異なる態度の見せ方をしている。でも我々も日常の中で、環境にあわせて、自分自身を抑圧してしまうことが多いですよね」と答え、「台詞の中に心震えたところがあり、運命というものはある、だが運命に反して何か無理やりやろうとすると悲劇が起こる。私はそう理解していて、我々人間はいかに自分の運命を受け入れるか、その点を考えさせられるところが多かった」と説明。

また、「“運命”があなたのドアの前にやってきてノックする、というような意味」で劇中曲に“ベートーヴェンの「運命」”を使ったソイ・チェン監督は、本作のテーマについて「運命とは何か?運命に反することをやっていもいいのか?でも結局運命は変えられないかもしれない、そんな課題を探求してきました。私も運命を信じているが、選択する余地はあると思っている」とし、「劇中の3人の登場人物の設定については、欲望、同情心、理性、をあらわそうとした。だいたい同情心が理性を超えてしまうと、結果欲望はコントロールを失ってしまう。本作のエンディングのときにはそんなことを考え、善良な心を選択することによって、こういった問題は解決するのではないか」と物語に込めた思いを語った。

ソイ・チェン監督
ソイ・チェン監督

最後にラム・カートンから「観客の皆さんが今日お話しした本作のメッセージを持ち帰って一緒に考えていただければ!そして私としては、“(日本語で)あしたはもっといいですね”という気持ちが何よりも大事だと思っています。この映画も実は同じメッセージが込められているんです。今の世の中、生きづらい、生きにくいですが、とにかくあきらめずに、“明日はもっといいですよ”という気持ちでのぞみましょう」と伝えると大きな拍手が沸き起こった。

ラム・カートン
ラム・カートン


『毒舌弁護人~正義への戦い~』Q&Aレポート

さらに11月3日(金・祝)には、今年の旧正月に大ヒットし、香港映画歴代興収第1位に輝いた『毒舌弁護人~正義への戦い~』主演ダヨ・ウォン、ジャック・ン監督がQ&Aに登壇。公式日程での来日は初めてという国民的俳優ダヨ・ウォンが登場すると客席からは歓声があがり、拍手が鳴りやまないほど。

ダヨ・ウォン、ジャック・ン監督
ダヨ・ウォン、ジャック・ン監督

まず、ここまで香港でヒットすることを予想していたか、という質問にジャック・ン監督は、「ヒットした1つ目の理由として香港人はダヨ・ウォンさんのことが大好き。でも役者がどれだけ魅力的だとしても良い作品がないとダメだから、やはり監督のおかげでは」とユーモアたっぷりに回答。その言葉を受け、ダヨ・ウォンは「監督のおかげだと思っています。中国の言葉で、いくら牡丹が美しくても緑の葉がないとダメ、というものがあります。我々役者というものはあくまで葉っぱで、監督こそ美しい牡丹です!」と返し、さらに日本語で「すごいね~!」という合いの手には会場から笑いも。

監督はさらに「コロナの関係で3年間香港人はお正月に出かけられなかった。それまではお正月にお年賀に行って、映画館に行くのが常だったので、コロナがやっと終わって久々にお正月に映画をみにいき、私たちの作品は、正月の一番良い時期に公開されたのもよかった。またある意味、香港人の心の声をうまく表現することができた作品なので、気分爽快になれたのではないかと思います」と分析。

ジャック・ン監督
ジャック・ン監督

ダヨ・ウォンのキャスティングについては、「ダヨ・ウォンが演じたキャラクターは脚本書いた時点では、誰が演じるのか考えてはいなかった。口はうまいけど、いやなところがある。よく考えたら、ダヨ・ウォンがこのキャラクターにどこか似ているところがあると思う。香港でスタンドアップコメディをやっていて非常に人気があるダヨ・ウォンはまさに香港公認で『口がうまい。そして面白い』。結果、この役に100%ぴったりだと思いました」とジャック・ン監督。

大ヒットをうけて続編の予定を聞かれると「当面は考えていません、なぜならこの脚本を書くのに1年半かかったんです。かなりの地獄で、もう一度やりたくないです」と思わず本音がでた監督に対し、「仮に続編をとることになっても、僕には声がかからないと思います」とすかさず続けたダヨ・ウォンは最後に劇中のセリフを引用し、「Everything is wrong!(何もかもがおかしい)」と立ち上がって答える一幕も! ダヨ・ウォンのさすがの機転とファンサービスに大盛り上がりのQ&Aとなった。

ダヨ・ウォン
ダヨ・ウォン


『ブルー・ムーン』Q&Aレポート

11月4日(土)に上映された『ブルー・ムーン』はこの日がワールドプレミア! しかも冒頭、ゲストで主演グラディス・リーより、日本語で「今日は監督の誕生日です!」と伝えられ、客席からの祝福を受けたアンディ・ロー監督は「大変うれしいです。自分の誕生日に対するプレゼントのような気分です」と照れた笑顔で答え、Q&Aがスタート。

アンディ・ロー監督、グラディス・リー
アンディ・ロー監督、グラディス・リー

それぞれ秘密を抱える家族の再生を描いた本作のキャスティングについて、グラディス・リーを起用した理由を「この役柄は彼女にとってチャレンジになるとは思っていました。これまでの役と異なり、いやなことがあっても口にしない、内向的な女の子ですが、彼女なら演じられると信じていました」と断言。

対してグラディス・リーは「実際の自分の家庭環境とは違い、母子家庭で育っている役なのでその部分は演じるのが正直難しかった。でも脚本のセリフに助けられました」と答え、さらに母親役を演じたロレッタ・リーとの共演を「とてもうれしかった。大先輩ですが、現場では非常に面白くて、ロレッタさんの娘さんが私と同じ年ごろということもあり、本当の母親のように接することができました。」  

グラディス・リー
グラディス・リー

また、香港在住の日本人アーティスト波多野裕介さんを起用したことについては、「裕介は今香港にいて、半分香港人のような感じです。前の作品でもご一緒したのですが、今回彼にはエンディング曲をお願いし、その際歌詞は日本語でよいから、と言いました。というのも、今の世の中、映画をみるときに言葉や言語は問題ないと思っています。字幕もありますし、今回はエンディングに日本語の歌を使うことで、全体の雰囲気がよくなったのではと思います」とアンディ・ロー監督。

観客から「日本映画に似た雰囲気を感じた」という声もあり、好きな日本の監督を問われると「山田洋次監督で、小さい頃からみていますが全ての作品が好きです」と即答。また、この日ワールドプレミアとなる上映を観客とともに一緒に会場で鑑賞していたグラディス・リーは、「香港以外の都市で、香港の笑いがうけいれてもらえるのか、正直心配だったので皆さんの笑い声などを聴きホッとしました。 いつか日本で公開できることを祈ります」と笑顔で話した。



『風再起時』Q&Aレポート

11月4日(土)は、会期中2回目となる『風再起時』上映があり、フィリップ・ユン監督、脚本家ソイ・チェンがQ&Aに登壇。

スン・フェイ、フィリップ・ユン監督
スン・フェイ、フィリップ・ユン監督

観客から作品タイトルに込めた意味を問われると「中国語題は『風再起時』と時間を表し、英語題は『Where the Wind Blows』と場所を表し、それぞれ意味があります。私たちの暮らしている香港はご存知のように昔から変化し続けています。特にここ10~20年の間に香港は風向きが変わるように、色々なことが起きています。この先10年、どうなっていくのか、を考えたときに1940年代~70年代までどういうことがあったのかを振り返ってみて、この先どこに向かっていくのか、探求をしてみたかった。そういう意味をこめて、このタイトルをつけました」とフィリップ・ユン監督。

さらに「30年にわたる物語のために、監督と脚本チームで、当時の警察の方や黒社会の方にインタビューするなどあらゆるリサーチをした」と脚本のソイ・チェンが振り返る脚本づくりについては、監督いわく「(最終的に文字量が)10数万字くらいあったかな。その中でもその時代を生きた人間の情感、人間の変化に特に注意を払いました。そして役者の演技を通して、その時代を再現(reflection)できたと思っています。」と続けた。

また、初共演のアーロン・クォック×トニー・レオンについてフィリップ・ユン監督は、「アーロンは以前にも仕事をしていて、トニーのことは大ファンでした」と話し、「この2人が一緒に演技をしたら何か突破したものがみられるのではないか、と思った」と答え、劇中アーロン・クォックが演じたロックの体型変化が気になったという質問には「彼は役柄にあわせ、なぜか自在に太ったり痩せたりできる。彼はとてもプロフェッショナルな役者です」といった裏話も。

滞在中に一緒に食事をしたダヨ・ウォンから「マイケル・ホイはこの作品にでたことで、コメディアンから演技派に変身したね」と言われたことを嬉しそうに話し、「素晴らしい役者さんと仕事をすることができて光栄でした。香港という街に対する理解を深めていただければと願います」と観客へ挨拶した。


最終日の11月5日(日)は、日本初上映のルイス・クー×ラウ・チンワン×アーロン・クォック共演『ホワイト・ストーム 世界の涯て』、そしてレスリー・チャン主演『夢翔る人/色情男女』デジタル・レストア版が上映され、どちらもチケット完売の盛況ぶりで、全日程が終了。 

今回2回目となる本映画祭へは「香港映画の新作が観たくて大阪から来た。普段見ることのできない映画が色々見られてとても良かった」という遠方からの来場者や、「最近レスリー・チャンのファンになり香港映画を観るようになった。どれも面白く、もっともっと香港映画が観たくなりました」という声などが寄せられ、香港からの来日ゲストと観客からは、香港映画への愛と、香港映画の未来への期待が存分に感じられる映画祭となった。



香港映画祭2023 Making Waves - Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力
「香港映画祭2023」ポスター

日程:2023年11月2日(木)~5日(日)
会場:YEBISU GARDEN CINEMA
公式サイト https://makingwaves.oaff.jp/
主催:香港特別行政区政府 駐東京経済貿易代表部 香港国際映画祭協会 協力:大阪アジアン映画祭
助成:香港特別行政区政府 創意香港 電影発展基金

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