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埋まらない喪失感、その先の“愛”の行く末…『親愛なる君へ』。そして台湾のLGBTQ映画たち <後編>

Cinem@rtでは2か月連続で映画を特集中! 7月のテーマは「台湾映画」! 今年、日本では6月~8月に多くの新作台湾映画が公開に。まさに台湾映画を味わうべき今年の夏、新作映画を切り口に台湾映画を楽しむコラムやインタビューをお届けします。

\特集「今年の夏は、台湾映画!」はこちら/
       


『親愛なる君へ』までの台湾LGBTQ作品

台湾にはかなり前から優れたLGBTQを扱った作品が多いことは、台湾映画ファンならよくご存じだと思う。

ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督の『青春神話』(92)、アン・リー(李安)監督の『ウェディング・バンケット』(93)あたりから50作以上ある。日本で公開や映画祭上映された作品だけでも私が数えた限りでは28作品。ドラマも加えれば、全部で100作に近いだろう。主人公の世代も、10代の高校生から70〜80代まで幅広い年齢層で描かれ、青春映画、文芸作品、人間ドラマ、コメディなど様々なジャンルで作られている。

早くからジェンダー問題に対して寛容で理解度が高く、アジアで初の同性婚の合法化を達成した台湾でも、当然ながら同性の愛を異性と同じように受け入れられない人は少なくない。だからこそ、社会や理解できない人たちとどのように折り合いを付けていくのかを悩み、色々なドラマが生まれてくるのだ。



苦悩する高校生……『藍色夏恋』『花蓮の夏』『君の心に刻んだ名前』

誰でも思春期は、それでなくたって色々思い悩む事が多い。未来どころか、今どうしたら良いのかわからないという高校生を主人公にした作品は、青春映画としても映画史の中で輝いている。

中でもレジェンドと言われる2002年の『藍色夏恋』は、みずみずしいチェン・ボーリン(陳柏霖)とグイ・ルンメイ(桂綸鎂)の苦悩する姿さえ眩しい。珍しくないストーリーがいつまでも色あせないのは、それぞれの役を生きたふたりの新人がただものではなかったからだ。それは、現在にいたるまでの時間が証明している。

実は『藍色夏恋』でイー・ツーイエン(易智言)監督が見つけたのは、チェン・ボーリンとグイ・ルンメイだけではない。出演こそしなかったが、2006年の『花蓮の夏』のダブル主役のひとりとして注目されたチャン・シャオチュアン(ジョセフ・チャン/張孝全)だ。


『藍色夏恋』©ARCHETYPE CREATIVE LTD all rights reserved


落ちこぼれの高校生と優等生の不確かな関係を切なく描いた『花蓮の夏』では、金馬奨の新人賞を優等生役のレイ・チャン(張睿家)に譲ったが、2012年の『GF*BF』で台北電影奨の主演男優賞を獲得した。こちらは高校生から30年にわたる男女3人の愛の軌跡の物語で、激動の社会背景の中で揺れ動く心模様を、ヤン・ヤーチェ(楊雅喆)監督が丁寧に描いた名作だ。

◆『花蓮の夏』予告編 臺灣國際女性影展Women Make Waves Film Festival Taiwanチャンネル


そして、1980年代の戒厳令下という更に厳しい状況の中で、ふたりの男子高校生が互いの気持ちに逡巡する『君の心に刻んだ名前』。エドワード・チェン(陳昊森)とツェン・ジンホア(曾敬驊)の体当たりの演技は見る者の胸を打ち、クラウド・ルー(盧廣仲)が歌う主題歌の切ない歌詞とメロディーが、ふたりの濃密な心模様に寄り添う。

◆クラウド・ルー(盧廣仲)『君の心に刻んだ名前(原題:刻在你心底的名字)』主題歌 Official Music Video   添翼音樂 TEAM EAR MUSICチャンネル




大人だってつらいよ……『アリフ・ザ・プリン(セ)ス』『先に愛した人』

大人になれば分別もつき、相手の気持ちを汲む術を身につけることができるが、これはこれで思わぬ枷となり、面倒だ。

いま全国巡映中の「台湾巨匠傑作選」の一作『アリフ・ザ・プリン(セ)ス』は、主人公である台湾原住民のゲイの青年と彼の生き方や彼を取り巻く仲間、家族の人間模様を描いた笑って泣けるヒューマンドラマだ。

主人公とレズビアンの同僚との物語に加えて、長年届かない思いを捧げ続ける中年女性(もとは男性)の生き様に胸が締めつけられる。そして何より驚くのが、主人公がプリンセスとなって首長を継ぐという展開。部族の首長は昔から性別を問わないそうだ。さすが台湾、400年前からジェンダー問題の先駆者なのである。

◆『アリフ・ザ・プリン(セ)ス』Official Trailer  Yulin Wangチャンネル


◆ワン・ユーリン監督とメインキャストたちによる第30回東京国際映画祭『アリフ・ザ・プリン(セ)ス』Q&A  Tokyo International Film Festival 東京国際映画祭チャンネル


アイドルドラマで大人気だったロイ・チウ(邱澤)が、初めて『先に愛した人』でゲイで台客(台湾語を使うイケてないあんちゃん)役に挑戦し、台北電影奨の主演男優賞を獲得した。舞台の名女優シエ・インシュエン(謝盈萱)演じる亡くなったパートナーの妻との丁々発止は、見事としか言いようがない。

もともとオフでは台客っぽいところはあったが、ひと皮もふた皮も剥けた演技は一朝一夕でできるものではない。何事にもストイックに向き合う、ロイ・チウの精進の賜物だ。

◆『先に愛した人』予告編Netflix  Netflix Asiaチャンネル


◆『先に愛した人』メイキング映像・キャスト編 華納兄弟台灣チャンネル


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