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【連載:中国の歴史・文化からひも解く「山河令」 】第5回 多様な人々が集まる旅の宿「客桟」

この連載では、知っていると「山河令」をより深く理解できる、中国の歴史・文化をご紹介します。

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第5回 多様な人々が集まる旅の宿「客桟」

旅をする周子舒と温客行は行く先々で「客桟」と呼ばれる旅館に泊まります。このような「客桟」は武侠ドラマなどの中国時代劇によく登場しますが、どのような歴史があるのでしょうか? 日本とはまた違った文化を持つ「客桟」について紹介します。


「山河令」第22話より ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.


「客桟」は古代から旅人に食事と宿を提供する施設として発展してきました。必ずしも部屋を借りて泊まらなければいけないわけではなく、食べたり飲んだりできる休憩場所として立ち寄れる施設で、その中には朝廷が運営する国営のものと、民間人が経営する民営のものがありました。

国営の「客桟」の歴史は西周の時代(紀元前1100年頃 - 紀元前771年)までさかのぼります。この時代から朝廷が文書を運ぶ役人のための「客桟」が主要道路の宿場に設置されるようになりました。当初、これらの国営の「客桟」は役人だけが利用できる施設でしたが、その後、3世紀頃から庶民にも開放されるようになり、シルクロード貿易で人々の往来が盛んになった唐の時代(618年 - 907年)には、その数は飛躍的に増えていきました。

一方、誰もが利用できる民営の「客桟」も、前漢の時代(紀元前206年 - 8年)にはすでに多くの街に見られる一般的なものとなっていました。「山河令」に登場するのはこうした街中にあった民営の「客桟」でしょう。こちらも唐の時代からさらに発展を遂げ、店の名前にも工夫が凝らされるようになりました。例えば、主に科挙(官吏登用試験)の受験者を泊める店なら「状元店」(状元は首席合格者の意味)、主に商人が利用する店なら「万隆店」(万隆は大いに栄えるという意味)といった縁起のいいネーミングで客にアピールしたのです。

「山河令」でも「客桟」の名前には工夫が凝らされていて、劇中では「天涯客桟」(天涯は遠い異郷の地という意味。また、原作小説のタイトルが「天涯客」)、「忘塵客桟」(忘塵は俗世を忘れるという意味)、「蓬莱客桟」(蓬莱は仙人が住むと信じられた山の名前)といった名前を見ることができます。


「山河令」第3話より ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.


このように「客桟」は身分の高い者から低い者まで、正義の士からお尋ね者まで、さまざまな人々が利用する社交の場だったことから、これまで多くの時代劇ドラマや映画の中で描かれ、特に武侠ものではおなじみの舞台となっています。

時代劇に登場する「客桟」は一階が誰でも利用できる食堂となっていて、階上が宿泊スペースとなっているのがお約束。食堂は見知らぬ者同士が集まっているだけに突然ケンカが始まることもあれば、そこで親しくなった者同士が食事や酒を一緒に楽しんだりすることもあります。また、さまざまな往来があるので情報収集の場になったり、旅人が必ず行き着く先なので刺客が待ち受ける格好の場となったりもします。

「山河令」にもこうした「客桟」のお約束を踏まえたシーンが随所に登場するのが面白いところ。ぜひ注目して観てみてください。



TEXT: 小酒真由子(フリーライター)
アジアから欧米までドラマについて執筆しています。双葉社『韓国TVドラマガイド』にて「熱烈推薦!! 中華ドラマはこうハマる!」を、Cinem@rtにて「アジドラ処方箋」を連載中。また、執筆させていただいたキネマ旬報ムック『最新!中国時代劇ドラマガイド 2021』が絶賛発売中です。

Edited:小俣悦子(フリーランス編集・ライター)


「⼭河令」放送情報
WOWOWにて好評放送・配信中!毎週木曜深夜0:00(2話ずつ放送)
・全36話/字幕版
・「⼭河令」公式Twitter:@WOH_JP

「⼭河令」作品情報
<ストーリー>

朝廷の暗殺組織「天窗」から抜け出すために、⾃⾝の体にくぎを打ち、代わりに残された3年間の⾃由を得た「天窗」の元⾸領、周⼦舒(チャン・ジャーハン)は謎の男、温客⾏(ゴン・ジュン)と出会い、⼀夜にして無敵になれるといわれる武庫の鍵「琉璃甲」をめぐる壮⼤な争いに巻き込まれていく。

<STAFF&CAST>
原作:Priest 「天涯客」
監督:ゲイリー・シン、マー・ホワガン、リー・ホンユウ
脚本:シャオ・チュー
出演:チャン・ジャーハン(張哲瀚)、ゴン・ジュン(龔俊)、ジョウ・イエ(周也)、マー・ウンユエン(馬聞遠)、スン・シールン(孫浠倫)

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