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【インタビュー】『よい⼦の殺⼈犯』ホアン・ハー "僕にとってあれは演技じゃない"

オタクの愛と孤独、浮き彫りになる台湾社会の闇を描く『よい⼦の殺⼈犯』のDVDが日本でリリース! 現在好評発売中です。この度、本作の主演を務めたホアン・ハー(黄河)さんにお話を聞きました。 

\ホアン・ハーさんプロフィールはこちら/


― 『よい⼦の殺⼈犯』への出演の決め手を教えてください。

ホアン・ハーさん(以下、ホアン・ハー) 僕が出演作を決める唯一の基準は脚本です。本作のオファーをもらった時にも、まず脚本を読みました。この物語とキャラクターが好きだと思い、監督とも話し、お互いが共通の目標をもち、同じ方向を向いていると感じたので出演を決めました。社会問題や殺人事件に対する抵抗感はなかったですね。

脚本の段階で物語やキャラクターがうまく描かれているなら、その脚本は良い脚本だと思うんです。そういう脚本なら役の大小や設定に関わらず、俳優はうまく演じることができるから。


ホアン・ハーさん  Ⓒ巴萬


― ホアン・ハーさんとアナンが同じ人だとはとても思えないほどの名演でしたが、このキャラクターをどう解釈して演じられましたか?

ホアン・ハー 脚本を読んだときにアナンは僕と似ていると感じ、脚本を読みながらこの人物が見える気がしました。皆に外見が変わって別人のようだと言われますが、僕にとっては自分のもう一つの顔のような気がしました。 例えば両親の前では子供の顔に、職場で上司や部下に向き合うときにはまた別の顔になるように、人は様々な一面を持っていますから。

僕も家ではリラックスして、外見も気にしない怠け者の一面を持っています。そんな一面がアナンにピッタリだと思いました。だからこのキャラクターを通じて、僕のそんな一面をお見せすることができました。僕とアナンは凄く繋がっているので、僕にとってあれは演技じゃありません。僕は毎日現場入るとき、できるだけ家にいるようなリラックス状態になろうとしていました。


― 実はジャン・ジンシェン(莊景燊)監督も「アナンはホアン・ハーに近いキャラクター」だと仰っていたのですが、似ているところと似ていない点はどこだと思いますか?

ホアン・ハー 似ているところは、アナンと同じく僕も実はとてもシャイで内向的で自信がないんです。皆がそれを聞いたら「違う」と言うかもしれないけど、僕自身はそう認識しています。もちろん俳優として、他人との接し方は練習を重ねて出来るようになったと思います。だから普通に見えるけど、リアルな僕はある部分でとてもシャイで劣等感を抱くほど自信がありません。僕だけじゃなく、この一面を持っている人は少なくないでしょう。

アナンはあまり社交的ではありません。社交性は勉強しなければ身につかないからです。人とコミュニケーションをとる意欲があっても、出来るかどうかはまた別です。アナンは兄弟も父親もいないし、母親は忙しくて会話も少ない。家庭でコミュニケーションをとってくれる人がいないんです。だから彼は人との接し方がわからない。僕はアナンの性格を、自分の性格と繋げてさらに強調することで、よりわかりやすく表現しました。 失敗を恐れていて、自分を疑っていて、他人の目は気にしない。監督は僕のそんな一面をみて、これがアナンだと思ったんだと思います。

僕とアナンの一番違うところは……アナンの方が可愛いかな、アハハハ!(笑) 「可愛い」というより「こどもっぽい」かも。アナンにはとてもこどもっぽい一面があります。悲しいとか嬉しいとか、感情がすべて顔にでてしまう。あれはとてもこどもっぽいと思います。僕はもう31歳なので、アナンみたいにこどもっぽい一面を出すのは気持ち悪くて(笑)。だから僕はあまり見せない一面です。でもアナンを演じるときには、家にいるリラックスしている状態を出したいので、スタッフ全員の前で可愛さを出さなくちゃいけなかった。でも、それはおそらく撮影中じゃないとできませんね(笑)。


― ホアン・ハーさんも、こどもっぽくはないですが、とても可愛いと思いますよ!

ホアン・ハー アハハ! ありがとう、ありがとう!(笑)


― ジャン・ジンシェン監督から受けたアドバイスで印象に残っていることはありますか?

ホアン・ハー 入院しているアナンが、あるニュースを見て笑うシーンです。あのシーンでアナンは「全てが終わった」という心境でした。とても絶望的な状況のシーンなのに、何テイクか撮った後、監督が急に「笑って」と僕に指示しました。「止まらないようにずっと笑い続けて」と。その時、僕はその指示の理由がわかりませんでしたが、指示通り笑いました。撮影後に監督に理由を尋ねました。監督は「悲しいのは当たり前だけど、何かが足りない気がする。これだけじゃない気がする」と。監督自身も確信はしていなかったけど、違うトライをしてみたかったんだと思います。

結局、映像を見たら、確かに完全な悲しさだけではなく、何かの変化がこのキャラクターに起きたんだと感じました。悲しさは伝わるけどそれだけじゃない。視聴者は彼は何か違うと気がつく。視聴者がどう解釈するか、監督の意図は何なのかはわからないけど、僕にとって「笑う」ことでこのキャラクターとシーンに強いインパクトが生まれたと感じました。


『よい⼦の殺⼈犯』より Ⓒ2019 ANZE PICTURES Co. , Ltd. ALL RIGHTS RESERVED


― 『よい子の殺人犯』で特に思い入れのあるシーンはどこですか?

ホアン・ハー アナンがイチゴちゃんの前で大きな失敗をするシーンがとても印象に残っています。脚本を読んだとき、このシーンをどう演じるかを決めていませんでした。撮影日、現場の雰囲気を感じ、衣装に着替え、場当たりも終わってから、ようやくこのシーンをどう演じるべきなのかが見えてきました。アナンのそれまでの努力、それでも失敗してしまった絶望感。失望、絶望、悲しさ、挫折感が湧いてきて、アナンのもうどうすればいいのかわからないという気持ち。こういう感覚がとても強く湧いてきて、あのシーンの演技をひらめきました。


― 撮影現場の雰囲気はいかがでしたか? 特に印象に残っている共演者の方や、撮影時のエピソードがあれば教えてください。

ホアン・ハー お母さん役の何瑷芸さんです。お母さん役を演じる俳優は本当にお母さんですね。彼女にはとても助けてもらいました。彼女から感じる生活感と母親の雰囲気によって彼らの日常を感じたような気がして、僕は自然と息子になれました。それによって僕はリラックスして心を開くことができました。もう一人は、叔父さんを演じた王恩詠さんです。叔父さんのあの"嫌な親戚感"がとても上手くて…(笑)。アナンはもう呆れかえっているのに、叔父さんは完全無視! ワォ(笑)。

この2人だけじゃなく、本作のキャストは皆自然で、程よく自分がいるべきポジションにいて、助け合うことができました。これは監督と脚本のおかげだと思います。監督も脚本家もキャラクターを明確に描いているので、こんなことができるんだと思います。例えばイチゴちゃんもそうです。彼女は悪いことをいっぱいしたけど、別に悪役ではありません。彼女はただ愛されたい女の子なだけで、悪気はありません。

だから、僕は監督と脚本家がすべてのキャラクターに良い基礎を作ってくれたと考えています。


『よい⼦の殺⼈犯』より Ⓒ2019 ANZE PICTURES Co. , Ltd. ALL RIGHTS RESERVED



― 『良い子の殺人犯』以降『完美Lily』や『悪の絵』など暴力的な人物を演じることが続き、心理的な負担があると思いますが、どうやって気分転換をしていますか?


ホアン・ハー よくやるのが、瞑想です。僕は怠け者だからアクティビティとか運動は疲れちゃって(笑)。瞑想は簡単にできるし、毎日寝る前にしています。

あと、例えば伝統芸能では俳優は自分で化粧をしなければいけない時があります。それは自分で化粧や衣装に着替えている間に役に入り込むからです。そして、舞台が終わると自分で化粧を落とします。その過程は役から抜ける過程でもあります。僕にとっても同じ感覚で、撮影現場に入って衣装に着替えるとキャラクターに入り込んでいき、撮影が終わり普段着に着替えてメイクを落とすことで、僕からこの役を降ろします。

大変な時は確かにあります。そんなに簡単に切り替えられるわけじゃない感情もあります。体がその感情を覚えてしまっている、そういう時は散歩に行ったり、何もしないようにして、日常で一番何もない状態に戻します。そうして、1人の人間ホワン・ハーに戻ります。なので、瞑想と散歩はよくやりますね。確かにこの2年間は重いキャラクターを演じていて、マネージャーに「もし今後またこんな悲しいシーンがあるキャラクターのオファーが来たら、休みが必要かも」と伝えました。マネージャーもわかってくれています。


― 『よい子の殺人犯』をはじめ様々な作品でバラエティ豊かな役柄を演じてきたホアン・ハーさんですが、演じる際に特に大切にされていることがあれば教えてください。

ホアン・ハー 例えば、『よい子の殺人犯』のお母さん、叔父さん、そしてイチゴちゃん、彼らは善人悪人ではなく、ただの一人の人間。彼らが求めているものは、誰もが求めているものです。僕自身が脚本を読むときや役作りの時に探しているのは、このキャラクターの人間性です。視聴者は、このキャラクターが何をして何を話したか、どんな変化を起こしたかを通じて、その「人」を見ています。

『カンフーパンダ』を例に挙げると、一番感動的なのは主人公がカンフーマスターになることではなく、主人公がどんな否定されても頑張り続けて、ありのままの自分で成功する事です。これが僕の言う「人間性」です。なので僕は、出演作を決めるとき、できるだけキャラクターの人間性を探るようにしています。例えば『よい子の殺人犯』の脚本を読んだとき考えていたのは、アナンがどんな怖い殺し方をするかではなく、どんなに頑張っても失敗してしまうアナンが最後に選んだことが何かということ。演じながら考えるのは「こいつを殺す」ではなく「どうしてこんな意地悪するんだ」ということ。

もう1つ、『悪の絵』から例を挙げると、この作品の中に殺人や暴力の場面はありませんが、このキャラクターは連続殺人を起こした殺人犯です。でも僕が考えていたのは「殺人犯を演じる」ではありません。僕が考えていたのは、彼が「一人の人間」であり、「一人の人間として彼は何をするのか」ということ、そして「彼は何を欲しがっているのか」ということです。

このキャラクターは連続殺人事件を起こしても何も感じない冷たい人間のように見えます。確かに、彼は自分の命も他人の命も気にしない、生きることも気にしない人間かもしれない。こんな考えを持つ人に対して、視聴者は怖いと感じると思う。でも彼は、絵を学び始めたことで死を怖がり始めた。人生の中で好きなものができたから。それで死にたくなくなっていく。どんなキャラクターにも、一人の人間としての考えと本当に欲しいものがあります。愛されたい、成功したい、理想の自分になりたい。僕にとってこれが物語の本質だと思います。僕はキャラクターを演じるとき、この物語のこの人物の人間性を大切にしています。なので、僕は善人でも悪人でも、殺人犯でも変態でも、どんな役にも抵抗感は感じません。


『よい⼦の殺⼈犯』より Ⓒ2019 ANZE PICTURES Co. , Ltd. ALL RIGHTS RESERVED


― お忙しい毎日かと思いますが、日常生活の中で「小さな幸せを感じる瞬間」はどんな瞬間ですか?

ホアン・ハー ちゃんと眠って、ちゃんと食べることです。

僕はもともと不眠がちで眠りが浅いんです。さらに今年の初めに扁桃炎を患いました。何も食べられず、つばを飲むだけで痛かった。その時に強く感じたのは…とてもおなかが空いた!食べ物のいい匂いがするのに、食べられない! 食事の一口一口がつらくて。一日三食をとること、水を飲むこと、日常生活で一番当たり前のことが大変になっていた時、その大切さが急にわかるようになりました。

だから、お風呂に入った後に綺麗なベッドで横になって、起床時間を気にせずに好きなだけ寝て、起きたら天気が良くてちゃんとご飯を食べられることが、とても幸せです。僕は食べることが大好きなんです。食事は毎日の事なので、僕は小さな幸せを毎日何回も感じることができるんです(笑)。

よく「お疲れ様です」と言われるのですが、僕にとっては仕事が疲れることではありません。働くことはとてもいいことだと思います。頑張って働くことは僕にとって、ちゃんとご飯を食べられて、ちゃんと眠れて、ちゃんと過ごすためです。それが大事。日常生活でのルーティーンをちゃんと楽しむことが大事だと思います。


― 最後に、日本の観客にメッセージをお願い致します。

ホアン・ハー あはは! どうしよう、メッセージ苦手なんだ!(笑) よし……、ハーイ皆さんこんにちは! ホアン・ハーです!(照れ笑い) 『よい子の殺人犯』を好きになってくれてありがとうございます。また皆さんにお会いできる機会を楽しみにしています。


『よい⼦の殺⼈犯』DVD情報
【発売日】2021年9月3日(金)
【価格】4,180円(本体価格+税10%)
【特典】
映像特典
・王真琳 (ワン・チェンリン) オンラインインタビュー
・莊景燊 (ジャン・ジンシェン)監督メッセージ
・黃河 (ホアン・ハー)メッセージ
・アニメ「最強のボビッター」テーマ曲カラオケ
・台湾版オリジナル劇場予告編
・オリジナルブックレット
※商品の仕様は変更となる可能性がございます
※レンタル同日リリース

発売元:株式会社ディメンション
発売協力:株式会社ピカンテサーカス、アジアンパラダイス
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
Ⓒ2019 ANZE PICTURES Co. , Ltd. ALL RIGHTS RESERVED

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