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韓国映画に求められる多様性―中国朝鮮族の描写から考える

メディアが犯罪集団というイメージを助長している

最も問題なのは、メディアがそういったイメージを助長しているところにある。

例えば、在韓の中国朝鮮族の人々が多く住むソウルの大林洞は、映画やドラマで犯罪の温床、巣窟として描かれることが多い。実際は大林洞での犯罪率は、ほかの地域に比べ決して高くはないのにも関わらず、そう思い込んでいる韓国人は非常に多い。

『ミッドナイト・ランナー』©2017 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.


また先に挙げた『ミッドナイト・ランナー』について、2017年8月、中国朝鮮族が犯罪集団のように歪曲され描かれていると、韓国内の中国朝鮮族団体30余りで構成された「中国同胞・多文化・地域社会と共にする韓国映画立て直し汎国民共同対策委員会」が映画の上映中断と制作陣の謝罪を要求する運動にまで広がり、映画という娯楽が、一歩間違えば、人々の憎悪感情を助長する手段になってしまうことが問題となった。
ところがこうした動きに対して、当時のネットユーザーの反応はむしろ中国朝鮮族に対し冷ややかで、韓国内における根深い差別意識が露呈してしまうという結果をもたらしてしまったのだ。

その後、中国朝鮮族の代表60人あまりが『ミッドナイト・ランナー』の制作者に対し謝罪を求めて韓国の裁判所に訴えを起こしたものの、一審では原告が敗訴。今年3月にソウル中央地裁が二審判決を出し「朝鮮族全体を貶めるシーンが確かに存在し、ネガティブな影響と、極度の不快感を生じさせた」として、ついに制作者に中国朝鮮族グループへの謝罪を命じるに至った(判決後、制作者は原告に対して謝罪の書簡を送付した)。

また2018年には、ソウル市内のインターネットカフェで、被害者が30カ所余りを刃物で刺される凶悪な殺人事件が発生した際、ネット上では「犯人は朝鮮族の中国人」という情報が拡散されたが、警察当局は容疑者について「本人およびその両親はいずれも韓国籍」と発表。ネット上に拡散された情報を真っ向から否定したが、容疑者の身分証明や出生地の公開を求める声が後を絶たなかった。

韓国メディアの亜洲経済の当時の報道によると、韓国の刑事政策研究院が2017年に発表した統計では、人口10万人当たりの犯罪率で韓国人が3,369人なのに対し、中国人は1,858人と、韓国人の犯罪率の方が明らかに高いにも関わらず、韓国社会では中国朝鮮族に対する偏見が根強く、その犯罪率が韓国人よりも高いと認識されているという。

結局、こういった認識・イメージがメディアにおいても根強くあり、特に検閲の緩い、表現の自由がある程度保証されている映画において、仮想憎悪の対象として、中国朝鮮族を扱う作品が増えてしまっているようである。

だが、こういったことは、韓国に限らず世界中の国々で少なからず問題となっており、日本における在日韓国・朝鮮人に対する差別の問題も、様々な要素が絡み合っているとはいえ、似たような背景がその根源にあることは容易に想像できないだろうか。

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