
「花鈿」古代中国の女性たちの化粧法|中国時代劇トリビア#151
乱世の覇権争いの中で“政略結婚から始まる愛”を、時代劇の重厚さで描き出したロマンス時代劇「折腰」。今回は、このドラマの中に登場する気になるアレを探っていきたいと思います!
古代中国の女性たちの化粧法「花鈿 」
◆「花鈿」とは?

「折腰」© Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited
「花鈿」は、額に花や模様を描いたり貼り付けたりする古代中国の女性たちの化粧法の一つ。ドラマ「折腰」でも、女性たちのおしゃれのトレンドをキャッチするものとして登場しました。
この「花鈿」は、春秋戦国時代に起源を持ち、秦漢時代に初期の形態を形成したとされているそうですが、その起源に関しては諸説あり、秦の始皇帝が神仙に似せた装いを宮女たちにさせた際の化粧に使われたとか、南北朝時代の宋の武帝の娘・寿陽公主が寝ていた額に梅の花びらが落ち、それが痕となって洗っても落ちず、とても美しかったため、宮女たちがこの「梅花粧」の真似をしたという説、唐代の武則天にその才を見出された上官婉児に由来する説、などもあるそうです。
◆「花鈿」と前後して流行した「額黄」
「花鈿」と前後して流行したといわれている化粧に「額黄」があります。
この「額黄」は「花黄」などとも呼ばれ、南北朝以前から唐代にかけて流行しました。南北朝時代、中国では仏教が栄え、金箔を施した仏像に感銘を受けた女性たちが額を黄色く塗るようになり、これが額を黄色く塗る習慣の始まり「額黄」となりました(「額黄」も寿陽公主から由来するなど、諸説あります)。
染め方には、額の上半分か下半分だけを塗り、水で色を混ぜてぼかしを入れる「半染め」と、額全体を黄色で塗る「平染め」の2種類があり、南北朝時代には「半染め」、唐代には「平染め」が流行ったのだそう。
このほか、黄色い素材でできた様々な模様に切り抜かれた薄いシート状の飾りを貼り付ける方法もあり、ムーラン(木蘭)を描いた叙事詩「木蘭辞」にも、こうした金箔を花形に切ったものを貼って化粧をする様子が詠まれているそうです。その後、花形の化粧「梅花粧」とあわせて、「額黄」を一緒にほどこす化粧も行われるようになりました。
◆どんな色やデザインの花鈿があったの?

「折腰」© Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited
唐代になると、「花鈿」は最盛期を迎えたとも。
色は赤、緑、黄色などで、最もポピュラーだったのはやはり赤。デザインはシンプルな点を描いたものや、寿陽公主の「梅花粧」の様式を継承したものと考えられる花の形が一般的でしたが、小鳥、魚、鴨、牛の角、扇、桃など個性豊かなデザインも生まれていきました。
手描きだけでなく、劇中で登場するような貼り付けるタイプの「花鈿」も人気があり、金箔や紙、貝殻、魚の骨、玉、雲母など、さまざまな素材に形を切り出して作られました。翡翠色が美しいトンボの羽やカワセミの羽といった稀少な素材も、人目を引く素材として愛用されたそうです。
◆「花鈿」のほかにもいろいろあった、人気の化粧法
唐代にはこうした「花鈿」の他に、顔側面の両側に細い三日月型を紅色で描いた「斜紅」も流行。
魏晋南北朝にはすでにあったとも言われているこの化粧のおこりは、魏の文帝に仕える宮廷女官が、夜に文帝の元を訪ねた際のこと。灯火で視界が悪く水晶の衝立にぶつかり、頬が朝焼けのように赤く腫れ上がりました。これを見た他の宮女たちが頬紅でその跡を真似し、「暁霞粧」と名付けられたと言われています。このお話しを知っていた唐代の宮女たちの間で、この化粧法がまさに大バズり! 従来の三日月型をより長くして額や頬にまで伸ばすなど、唐代風の奇抜で独創的なアレンジを加えたニュースタイルの化粧法となり、「斜紅」と呼ばれるようになったとか。この斬新さが玄宗皇帝にも好まれ、この時代に推奨されたそうです。
このほかにも、口角に赤い点をえくぼのように描き入れる「面靨」(靨鈿)も有名ですね。実はこの「面靨」、もともと装飾ではなく、宮廷生活における女性たちの特別な“印”だったと言われているそう。月経で皇帝の寵愛を受けられない時、またそれを口にするのも憚られる時など、后妃の顔に小さな点を二つつけるだけで、その事情が女官らに伝わるマークとなったのだとか。後にこの習慣は庶民にも広まり、徐々に化粧の一つの形となったそうです。
◆「花鈿」どういう仕組みで額についていたの?

「折腰」© Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited
さて、ここで気になるのは、手描きではない「花鈿」は、どういう仕組みで額についていたのか?ということ。
「花鈿」を額に接着させるのは、魚の浮袋のコラーゲンなどを利用した接着剤。息をふきかけると粘着力を持つという便利なもので、女性たちは息を吹きかけたり、少量の唾液を塗布したりしてこれを溶かし、「花鈿」を接着したのだとか。その手軽さは現代の粘着テープに匹敵するものでした。しかし、粘着力ははるかに強力で、お湯で温めると落とすことができたそうですが、史料によると、入浴後も剥がれない場合もあったそうです。
唐代には一世を風靡した「花鈿」ですが、宋代に入ると簡素な美しさを賞賛する風潮が高まり、やがて華やかな「花鈿」のスタイルは、次第に廃れていきました。
【参照URL】
百度
『花钿』
『額黄』
『花黄』
『妆靥』
中国華文教育网
『染黄、花钿与黄花少女』
【参考文献】
劉永華(2023).『イラストと資料で見る 中国の服飾史入門 古代から現代まで』.株式会社マール社
セル|DVD-BOX1・2:7月10日発売 DVD-BOX3:8月14日発売(各15,400円 税込)
レンタル|7月3日より順次リリース(全18巻)
発売・販売元:エスピーオー
HP:https://www.spoinc.jp/lineup/list/detail/setsuyou/

Text:島田亜希子
ライター。中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆する他、中文翻訳も時々担当。Cinem@rtにて「中国時代劇トリビア」「中国エンタメニュース」を連載中。『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『見るべき中国時代劇ドラマ』(ぴあ株式会社)『中国ドラマ・時代劇・スターがよくわかる』(コスミック出版)などにも執筆しています。
中国時代劇を見て感じるちょっとした不思議や疑問を解説します。


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