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【最新映画in台湾】短編映画『黑風箏』、台湾で初上映! モー・ズーイーが政治的弾圧のトラウマに苦しむ父親を熱演

ニュース提供元:台湾公共テレビ(公視/PTS)   

台湾公共テレビ(公視/PTS)制作の映画『黑風箏(原題)』(仮訳:黒い凧)が3月24日、光點華山電影館(台北市)で初上映された。劇場には、主演のモー・ズーイー(莫子儀)をはじめ、脚本と監督を手掛けたリー・イーホイ(李怡慧)、キャストのライ・ユーフェイ(賴雨霏)、ジョン ・イーシュエン(鄭逸軒)、ホアン・ワンジン(黃菀靜)、音楽担当のペイリン・ウー(呉沛綾)が駆けつけ、観客と直接交流をした。

『黑風箏』は、台湾上映に先立ち映画芸術科学アカデミー公認のロサンゼルス国際短編映画祭でワールドプレミア上映されており、その際のクチコミがニューヨークのアジアン・アメリカン国際映画祭にも拡散。アメリカと台湾のネット上ですでに話題を集めていたため、台湾上映前からファンの期待度は高い。

『黑風箏』の舞台は、戒厳令下1960年代の片田舎。ズーイーは、政治的弾圧によって投獄され、出所したばかりの父親を演じる。やっとのことで権威主義的な体制から脱し家族の元に戻るが、政治的暴力によるトラウマで、他者には受け入れがたい奇妙な行動をとり続ける。チャン・ニン(張寗)演じる妻は、夫が突如襲われるその衝動に対して、家庭を守るため冷静なふりをするしかない。父を苦しめるトラウマが理解できない娘は、父がまた一緒に凧揚げができるようにと、子どもなりに治療法を模索する。本作は単に歴史を語るだけでなく、一番大切なものを守ることを思い出させる。

監督のリー・イーホイは、現在長編映画『甜蜜妻瞞(原題)』を企画制作中で、別の作品『犯罪人生(原題)』は金馬の投資プロジェクト対象作品にノミネートされるなど、クリエイティブなエネルギーにあふれる新進気鋭の監督だ。

一作目の『淵淵(原題)』、続く短編『初潮(原題)』が金穗獎にノミネートされ、昨年は『蜜月旅行(原題)』が金穗のオープニングを飾った。彼女は、今回『黑風箏』で光點華山電影館に戻ってくることができ光栄だとした上で、「この作品の重い面だけでなく、人間の温かみある明るい部分も感じてほしい」と感慨深げに語った。

上映当日は、実際に政治的弾圧を受けた家族の一人であるリー・ジンジー(李錦姫)さんも客席で鑑賞。上映後の座談会で、「とても感動しました。このような白色テロの映画はたとえ1000本撮っても撮りきれないでしょう」と感想を述べた上で、当時の体制が愛すべき父を変えてしまい、出所後の父親は暴力でもって兄を教育したと自らの体験談を語った。これに対し監督は「私は果たして次の世代に何を伝えなければならないでしょう。真実か、それとも生きていることの温もりや希望か? どちらも大切です」と撮影の原点となった思いを挙げ、そのメッセージを作品の中に込めたと答えた。

一方ズーイーは、「過去を知ることで、自分の価値観を明確にし将来どう歩むべきかを知ることができます。当時の時代はただの歴史というだけでなく、私たち誰もが生きていく上での価値観や、進むべき方向性を示すものです。『黑風箏』は、ある小さなコミュニティーの人たちがどのように暮らしていたのか、さまざまな角度から捉えています。あらゆる角度から過去を考察して、私たちが向かうべき未来の方向性をしっかり見定めてほしいです」と語った。

『黑風箏』は台湾公共テレビ(公視/PTS)で放送されたほか、公視+( https://www.ptsplus.tv)で期間限定配信中。

翻訳・編集:二瓶里美
編集者、ライター。2014年より台湾在住。中華圏のエンターテインメント誌、旅行情報誌、中国語教材などの執筆・編集に携わる。2020年5月、張克柔(字幕翻訳家・通訳者)との共著『日本人が知りたい台湾人の当たり前 台湾華語リーディング』(三修社)を上梓。2017年4月より、ラジオ番組「Asian Breeze」では台湾の現地情報を発信するコーナーを担当中。

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