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台湾ニューシネマのあとで|第3回 広がる裾野〜多方面からの参入

『海角七号 君想う、国境の南(原題:海角七號)』をきっかけに国産映画の復興に沸いた台湾では、続々と新しいクリエイターが意欲作を創り出すようになった。

前回ピックアップした監督達も、デビュー作を越えるクオリティの新作を発表。

ウェイ・ダーシェン(魏徳聖)は念願の歴史大作『セデック・バレ(原題:賽德克、巴萊)』(2011)の後、『KANO~1931海の向こうの甲子園~(原題:KANO)』(2014)『52 Hzのラヴソング(原題:52 Hz I Love You)』(2017)と続き、2024年公開予定の壮大すぎる新作『臺湾三部曲』を製作中だ。

     


『KANO~1931海の向こうの甲子園~』台湾巨匠傑作選にて上映中

トム・リン(林書宇)は『星空』(2011)、『百日告別』(2015)に続き新作はマレーシア映画だが『夕霧花園』(2019)を作った。これは来年日本で公開予定となっている。


上:『星空』(2011)/下:『百日告別』(2015) どちらも台湾巨匠傑作選にて上映中



今回、台湾巨匠傑作選がコロナ渦で延期になったため権利切れになって上映できなくなり残念だが、『GF*BF(原題:女朋友。男朋友)』(2012)は、ヤン・ヤージャ(楊雅喆)によるLGBT青春映画&ヒューマンドラマの名作。

もっと残念なのはニウ・ チェンザー(鈕承澤)だ。『モンガに散る(原題:艋舺)』(2010)、『LOVE(原題:愛)』(2012)、『軍中楽園(原題:軍中樂園)』(2014)と順調だったのだが、セクハラ事件で起訴され、現在活動休止中。

しかし、この穴を埋めるのに充分すぎる創作者が登場する。映画界以外から参入したチョン・モンホン(鍾孟宏)とギデンズ(九把刀)だ。


上:チョン・モンホン(鍾孟宏)/下:ギデンズ(九把刀)


CMのクリエイターとして第一線で活躍するチョン・モンホンの長編劇映画の第一作『停車』は、実は2008年公開作品。その後も『四枚目の似顔絵(原題:第四張畫)』(2010)、『失魂』(2013)、『ゴッドスピード(原題:一路順風)』(2016)と、独特の色彩、映像美とブラックユーモアで各映画祭で賞を総ナメにするような傑作を連打。


『停車』台湾巨匠傑作選にて上映中

ところが不思議なことに、興行成績は全く振るわない。それでも映画を作り続けるのは、映画愛。そしてCM監督として揺るぎない地位と収入があることも欠かせない要因だ。

昨年は『ひとつの太陽(原題:陽光普照)』でやや作風を変え、これまでの作品に比べると興行収入も増え、日本でもいまNetflixで観ることができる。

一方のギデンズは大人気の小説家で、自らの体験を長編監督デビュー作とした『あの頃、君を追いかけた(原題:那些年,我們一起追的女孩)』(2011)がメガヒット。台湾青春映画の殿堂入りを果たし、日本でもリメイクされた。監督作はほかに『怪怪怪怪物!(原題:報告老師!怪怪怪怪物!)』(2017)があるが、原作や脚本という立場では6作もある。


『怪怪怪怪物!』台湾巨匠傑作選にて上映中

そして、このギデンズを世に送り出したのは、"台湾アイドルドラマの母"と呼ばれる「流星花園〜花より男子〜」を製作したアンジー・チャイ(柴智屏)。才能を見出し育てるプロは、映画界にも大きく貢献しているのだ。


《最終回:多様性と台湾アイデンティティへ続く》 


註)『KANO 1931~海の向こうの甲子園~(KANO)』はウェイ・ダーシェンはプロデューサー兼脚本で監督はマー・ジーシアン(馬志翔)だが、実質はウェイ・ダーシェン作品と言って良い。


Text:江口 洋子
台湾映画コーディネーター。民放ラジオ局で映画情報番組やアジアのエンタメ番組を制作し2010年より2013年まで語学留学を兼ねて台北に在住。現在は拠点を東京に戻し、映画・映像、イベント、取材のコーディネート、記者、ライターなどで活動。台湾映画『KANO』の製作スタッフをつとめた。2016年から台湾文化センターとの共催で年8回の台湾映画上映&トークイベントを実施。


「台湾巨匠傑作選2020」
開催中~ 11月13日(金)新宿 K's cinemaにて
<<公式サイト>>

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