台湾映画上映会2026『小さな町の恋 デジタル・リマスター版』上映会&トークイベントレポート

7/11(土)映画『小さな町の恋 デジタル・リマスター版』 ≪ トークイベン ト レポート ≫
日 時:2026年7月11日(土)※上映後にトークイベント
開 場:14時00分 / 開 演:14時30分(上映時間95分)
場 所:京都大学<吉田キャンパス本部構内>HORIBA シンポジウムホール(京都府京都市左京区吉田本町)
登壇者:西村正男(関西学院大学社会学部教授)
聞き手:リム・カーワイ(『台湾映画上映会2026』キュレーター、映画監督)
【レポート】
台湾駐日本代表処台湾文化センターと京都大学大学院人間・環境学研究科東アジア文明講座による連携企画として、映画『小さな町の恋 デジタル・リマスター版』上映会が7月11日(土)に京都大学HORIBA シンポジウムホールにて開催された。上映後に、関西学院大学 社会学部教授の西村正男氏が登壇しトークイベントが行われた。
『小さな町の恋 デジタル・リマスター版』は、『養鴨人家』(1965)などで知られ、金馬奨最優秀監督賞を3度受賞した “台湾映画のゴッドファーザー” リー・シン監督によるラブストーリーだ。リー・シン監督は健康写実映画、恋愛映画、台湾の叙事詩的映画のブームをリードする存在で、台湾映画に深く影響を及ぼし、台湾映画史において重要な存在となっている。テレサ・テンが本作のために歌った同名タイトルの主題歌「小城故事」は大ヒットした。今回は客家語バージョンが上映される、貴重な機会となった。
物語は、仮釈放された文雄が刑務所で知り合った木彫り職人のもとに弟子入りするところから始まる。師匠の娘と心を通わせるが、文雄の元恋人、刑務所で一緒だったならず者がやってきて、ふたりの恋は思わぬ方向に向かう…。
台湾ニューシネマ誕生前夜――
テレサ・テンが歌い、リー・シン監督が描いた『小さな町の恋』
中華圏の流行音楽、映画等ポピュラー文化に造詣が深い西村正男教授は、「はじめて台湾映画を観たのは大学生の頃。ホウ・ シャオシェン監督の『恋恋風塵』で、こんな台湾映画があるのかと衝撃を受けた。今日上映された『小さな町の恋』は79年の時点で、台湾ニューシネマを予感させるような、そのプロトタイプとなる作品がすでに生まれていたとおもしろく観ました。」と、台湾映画史から本作の魅力を語った。

本上映会キュレーターでマレーシア出身のリム・カーワイは、「日本ではリー・シン監督はあまり知られていませんが、監督は台湾だけではなく、中華圏において絶大な人気がありました。『小さな町の恋』は小学生の時にマレーシアで観て、ものすごい人気で大ヒットした作品でした。」と、当時のリー・シン監督の中華圏における人気を説明した。リムが「そんなリー・シン監督と西村先生は面識があるんですよね?どんな方だったんでしょうか?」と問いかけると、「2018年に台湾大学の音楽研究所にいた際に、リー・シン監督をご紹介して頂き、僕のことをとても気に入ってくれたんです。」と茶目っ気たっぷりに西村教授が答えた。「監督は “台湾映画のゴッドファーザー” と言われるだけあって、威厳がある方だったが、お酒が大好きでとても気さくだった。」と印象を語り、何度も会う中で「次に会う時までに、自身の映画の系譜をまとめてくるように」と宿題を出されたという。宿題を完璧に出すことができれば、監督の映画に関する資料をすべて譲ると言われたが、その後、監督の体調が悪くなり、21年に監督が逝去してしまった。「今日は、リー・シン監督から出された宿題を、ようやく提出する機会になりました。」と西村教授がほほ笑んだ。

リー・シン監督は『養鴨人家』(1965)をはじめ、金馬奨最優秀監督賞を3度受賞した、“台湾映画のゴッドファーザー” と称される存在だ。西村教授は、「リー・シン監督は当初、台湾語映画を手がけていましたが、1960年代後半からは国語映画へと活動の場を移し、農村で暮らす人々の日常を写実的に描く “健康写実映画” で高い評価を得ました」と、その歩みを振り返った。
その後は、台湾を代表する人気作家・瓊瑤(ケイヨウ)の恋愛小説を映画化した作品を数多く手がけ、一大ブームを築く。しかし、『小さな町の恋』では再び写実路線へと回帰。「この作品の大きな特徴は、客家語で制作され、スタジオではなくロケーション撮影を主体にしていることです。」と、西村教授は本作が監督のキャリアにおける転換点であり、台湾ニューシネマへとつながる重要な一本であることを解説した。
客家とは、広東省や福建省などから台湾へ移住したエスニック・グループのひとつで、独自の言語や文化を受け継いでいる。本作の舞台となった苗栗県三義は、現在も多くの客家人が暮らす地域だ。本作の舞台となった苗栗県三義は、現在も多くの客家人が暮らしている。
公開当時は客家語での上映ができなかったが、リー・シン監督の生前の意向を尊重し、デジタル・リマスター版は客家語版で制作された。客家人が多く暮らす土地での撮影、現地の人々が話す客家語版からは、リー・シン監督がいかに「その土地の言葉で語られることで、その暮らしや人々の息遣いがよりリアルに伝わってくる」と、その意義を西村教授が語った。

さらに、本作はスタジオではなく苗栗県三義でロケ撮影を行っていることから、「リー・シン監督は風景だけではなく、そこに生きる人々の言葉や生活そのものを映画に刻もうとした」と解説。客家語版の上映は、監督が作品に込めた思いをより忠実なかたちで体験できる、貴重な機会となった。
西村教授は、「リー・シン監督の元で映画を学んだホウ・シャオシェン監督が、『小さな町の恋』から5年後に、三義の隣駅で『冬冬の夏休み』を制作している。それまでスタジオ撮影がメインだった台湾映画において、ロケ撮影へとシフトした台湾ニューシネマへの影響」に言及した。「客家語映画というと、近年では2025年大阪アジアン映画祭で上映されたトム・リン監督『イェンとアイリー』も客家語映画の大傑作」と西村教授が話すと、「5月に台湾映画上映会で上映した『あの写真の私たち』も客家語映画だった」とリムが指摘し、現在の台湾映画における言語の多様性に言及した。
テレサ・テンが歌う主題歌「小城故事」は、本作とともに大ヒットを記録した。リー・シン監督は多くの作品でテレサ・テンを主題歌に起用しており、西村教授は「『小城故事』はシンプルなメロディーだからこそ、それを歌いこなせるのはテレサ・テンならでは」と絶賛した。一方で、1979年はテレサ・テンにとって偽パスポート事件により日本での活動を一時中断した苦難の年でもあった。その後は中華圏を中心に活動し、「小城故事」をはじめとする代表曲を次々と生み出していったと、その時代背景についても紹介した。
また、本作はキャストやスタッフの顔ぶれからも、台湾映画史における重要な一本であることがうかがえる。西村教授は、「香港の伝説的歌手・ケニー・ビー(阿B)が台湾で俳優デビューを果たした作品でもあり、朴訥な青年役に起用したリー・シン監督の慧眼には驚かされます」と語った。この出演をきっかけに、ケニー・ビーはその後ホウ・シャオシェン監督作品3作で主演を務めることになったという。

さらに、撮影監督は後に『少年』を監督し、ホウ・シャオシェン作品の撮影でも知られるチェン・クンホウが担当。撮影助手としてクリストファー・ドイルが参加し、主人公の幼なじみ役で映画初出演を果たしたリー・リエ(李烈)も、後に『霧のごとく』などでプロデューサーとして活躍するなど、本作には後の台湾映画界を支える才能が数多く集まっていたことも紹介された。
リムが「実は撮影助手だったクリストファー・ドイルは、エキストラとしても出演しているんですよ」と笑顔で明かすと、会場からは驚きの声が上がった。
最後に台湾映画の魅力について「台湾映画のもつ多種多様性はもちろんだが、あえて言うのであれば “意外性” にある。商業的な作品、実験的な作品もあり、こういう映画がでてきたのか!という発見が常にあるのが台湾映画の魅力」だと西村教授が語り、「日本では台湾ニューシネマ以降の作品は多く紹介されてきたが、80年代以前の台湾映画にも素晴らしい作品が多く、これからも日本で紹介されていない古い作品も多く紹介していきたいですね」とリムが応えた。


名称:台湾文化センター 台湾映画上映会2026
期間:2026年5月~10月(全10回)
会場:台湾駐日本代表処 台湾文化センター/北海道大学 学術交流会館小講堂/大阪大学 大阪大学会館講堂/ユーロライブ/京都大学 HORIBA シンポジウムホール/中央大学<多摩キャンパス>3号館3551教室/慶應義塾大学 三田・北館ホール/日本映画大学 大教室/シネ・ヌーヴォ
主催:台湾駐日本代表処 台湾文化センター/Cinema Drifters/大福
共催:北海道大学中国文化論研究室・中国現代文学研究者懇話会/大阪大学大学院人文学研究科/ユーロスペース/京都大学大学院人間・環境学研究科東アジア文明講座/中央大学文学部中国言語文化研究室/ 慶應義塾大学東アジア研究所/日本映画大学国際交流センター/シネ・ヌーヴォ
宣伝デザイン:100KG
≪台湾駐日本代表処 台湾文化センター≫公式サイト:https://jp.taiwan.culture.tw
≪参加無料、事前申し込み制≫
各回の申し込みは、Peatixにて先着順にて受付。
≪Peatix≫ https://taiwanculture.peatix.com/
※Peatixにて、各回7日前の昼12:00より先着順にて受付。
※シネ・ヌーヴォのチケットについては、劇場HPにて取り扱いいたします。Peatix ではお申込みができません。
※本上映会について会場となっている大学、ユーロライブ、シネ・ヌーヴォへのお問合せはお控えください。
※ゲスト・イベント内容は予告なく変更となる場合がございます。ご了承ください。
≪上映作品一覧≫(全10作品)
『海をみつめる日』『あの写真の私たち』『うなぎ』『小さな町の恋 デジタル・リマスター版』『今夜は帰らない デジタル・リマスター版』『宵闇の火花』『夜明けの前に』『甘露水』『深く静かな場所へ』『荒野の夢』
≪アンコール上映/作品一覧≫(全6作品)
『余燼』『タイペイ、アイラブユー』『燃えるダブルス魂』『夫殺し デジタル・リマスター版』『猟師兄弟』『金魚の記憶』


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