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10/25(土)映画『ソウル・オブ・ソイル』≪ トークイベント レポート ≫


©無米樂影像工作室

対照的なふたりが土壌に向き合う姿から生き方を問う、ドキュメンタリー映画『ソウル・オブ・ソイル』
イェン・ランチュアン(監督) ×西村一之(日本女子大学人間社会学部現代社会学科教授)トークイベント開催‼

台湾映画上映会2025『ソウル・オブ・ソイル』上映会&トークイベント詳細】
日 時:2025年10月25日(土)※上映後にトークイベントあり
開 場: 13時30分 / 開 演: 14時00分(上映時間127分)
場 所:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター(港区虎ノ門1-1-12 虎ノ門ビル2階)
登壇者:イェン・ランチュアン(監督)、西村一之(日本女子大学人間社会学部現代社会学科)
聞き手:リム・カーワイ(『台湾映画上映会2025』キュレーター・映画監督)

【レポート】
「台湾文化センター 台湾映画上映会2025」の映画『ソウル・オブ・ソイル』上映会が、10月25日(土)に台北駐日経済文化代表処台湾文化センターにて開催された。上映後に、イェン・ランチュアン監督がオンライン登壇し、文化人類学研究者の西村一之さん(日本女子大学)が登壇し、トークイベントが開催された。 アレン(阿仁)は台湾大学出身、IT業界で活躍していたが、その恵まれた生活を捨て高雄に移り住んだ。街中で集めた果物の皮や野菜くずを拾い集め、「都市のゴミを有機肥料に変えて農家に提供し、土壌の問題を改善したい」と考え、来る日も来る日も果物や野菜くずの山に混ざっている大量のプラスチックごみを取り除く作業に追われている。
アレンが心の師匠と慕うアンホー(安和)は、30年前から大量の化学肥料や農薬を使うことで、土壌が長年にわたり傷つけられてことに気付き、有機肥料を使って栽培を始めた。試行錯誤を繰り返し、有機ナツメが収穫でき生活は安定し、家族総出で有機栽培に従事している。
2022年、彼らの農場がある地区に「科学園区計画」が持ち上がり、彼らは進退を迫られることになる…。
台湾南部に暮らす4人の年老いた農業従事者を描き、空前の大ヒットとなったドキュメンタリー映画『無米楽』(2004)のイェン・ランチュアン監督が、8年の歳月をかけ、1,800時間に及ぶ映像を記録した映画『ソウル・オブ・ソイル』。金馬奨2024ドキュメンタリー映画賞にノミネートされ、土壌保全の重要性を訴えると同時に、個性あふれる登場人物たちの対比を通じて、農業をただの労働ではなく哲学へと昇華させた注目作だ。

「夢を信じること─」
8年間、1,800時間に及ぶ撮影を経て完成!
理想の土壌作りへの情熱を通し、現代社会の生き方を問いかけるドキュメンタリー映画

文化人類学研究者の西村一之さんは、台湾東部の海辺での現地調査を30年以上前から続けており、その中で農業に従事する知り合いも多くいるという。「主人公のアレンのように都会から地方に来る、日本でいうIターンの若者は増えている。そうした中でSNS等を通して情報交換をして、自分たちで作物を育て、販売まで行う第六次産業に乗り出している若者も多くいる。」とし、「アレンたちが取り組んでいる有機農業取り組むひとたちもめずらしくはない」と、台湾の地方の現状について言及した。イェン・ランチュアン監督の『無米樂』、『ソウル・オブ・ソイル』は「どちらも土を向き合い、土と暮らす人々にカメラを向けていることに、監督の関心があるのか」と感じたといい、年齢も学齢、背景もちがうふたりが主人公になっていることについて「このふたりに焦点をあてようとした理由」を西村さんがイェン監督に問いかけた。
自分自身は農業にまったく縁のない家庭で育ったが、『無米樂』の舞台となった村を訪れたとき、そこで出会ったひとたちに惹かれ、2001年から3年をかけて撮影しました。でも周りからは「そういう映画は誰も観ないから、やめたほうかいい」と反対されました(笑)」と笑った。自身の情熱を信じて完成した『無米樂』は日本でも山形国際ドキュメンタリー映画祭でも上映され、台湾では大ヒットした。「ある地方映画祭で『無米樂』が上映されたときに、「僕はこの映画の犠牲者ですよ」と話しかけてきた若者がいました。映画がきっかけとなって、仕事を辞めて農業をやろうと決めたと非常に興奮して話しかけてきたのが、アレンだった」という。『無米樂』を観て、有機栽培の土を作ろうと奮闘しているアレンをみて「非常に驚き、彼を撮ろう」と思ったのが『ソウル・オブ・ソイル』の出発点となったという。もうひとりの主人公アンホ―は、「アレンから自分を撮るのであれば、心の師匠であるアンホーも撮った方がいい」と勧められたのがきっかけだったという。「はじめてアンホーの農場に行ったとき、ナツメの収穫は終わっていました。ただ彼が育てたミニトマトを食べたとき、私は生きてきた中で一番おいしいミニトマトだ!と驚きました。アンホーの農場、彼の作物、土に対する向き合い方に衝撃を受け、ぜひアンホーのことも撮影したいと思ったんです」と、ふたりの主人公と出会いを語った。
アレンとアンホー、ふたりは土をつくることに情熱をもっているのは共通している。ただ土に対する向き合い方、その背景にあるものは異なっていると感じました。特にアレンは、ゴミ問題、環境問題に対して自分の考え方を持っている。おなじように見えて、土に対する向き合い方の土台がそれぞれ違っている」のも、『ソウル・オブ・ソイル』の見どころとなっていると西村さんが述べた。

アンホーが30年前に農場をはじめた頃は、まだ台湾でも有機栽培は一般的ではなく、「アンホ-は周りのひとたちから、否定されていた」という。それでも自分の信念を貫き結果を出すことができ、いまは家族計画の農場として安定した生活を送れている。「まさにアレンにとっては、アンホーの「信念」こそが重要で、「夢を信じること」が彼の支えとなり、都市のゴミを堆肥に変えて、健康な土から作物を育てたいという夢を信じて前進していったわけです。」と、土を通して夢を実現しようとするふたりの共通点をイェン監督が分析した。
キュレーターのリムが「原題は土を植えるという土を育てるという意味の『種土』ですが、英題『Soul of Soil』に込めた思いについて問いかけると、「英題は音楽を担当してくれたひとがつけてくれました。まさにこのふたりの土に対する「信念」が、魂そのものであると感じ、ぴったりだと思ったんです。そして『Soul of Soil』の頭文字が「SOS」になっていて、土が助けを求めていると感じました」とイェン監督がタイトルに込めた思いを語った。

会場から「映画が5つのパート夢・春・夏・秋・冬に分けて構成されているが、夢と春夏秋冬を並べたことについて」質問がでた。「夢を見ることは、春を待ちわびる期待感に似たものがあります。夢を持ったとき、それに向けて努力していく、それは春と共通する思いがあります。そして熱気をもった夏を迎え、困難が立ちはだかる秋、解決できない壁に阻まれる冬がくる。そして映画の中で彼らの夢は変化していくわけです。そして彼らが迎える次の春というものは、観客のみなさんに委ねたいと思っています」とイェン監督が、彼らと共に過ごした8年の歳月を振り返った。

最後に台湾映画の魅力を問われると、西村さんが「台湾では日本よりも映画が身近な存在になっていると思う。それはイェン監督のように高い志を持ち、メッセージ性のある作品が作られて、それを受け止める観客がいるということも大きい。いわゆる社会的なメッセージみたいなものを台湾が作り出す力にもなっているのだと思う」と述べた。「ドキュメンタリー映画を作ろうとしたとき、周囲に相談すると「そんなテーマでは誰も興味を持ってくれないよ」と言われることが多いんです。『ソウル・オブ・ソイル』も会議のたびに悲観的な意見ばかりでしたが、台湾で公開されると驚くほど観客の反応がよかったんです。台湾映画の魅力を語るのは難しいですが、創作する立場からすると、様々なテーマを受け取ってくれる観客がいること、作品を待っていてくれる観客がいることこそが、台湾映画の魅力だと思います。」とイェン監督がほほ笑むと、会場にあたたかい拍手が起きた。

 

【登壇者紹介】

イェン・ランチュアン(顏蘭權)/監督
イギリス・シェフィールド大学で映画・テレビ制作の修士号を取得。1999年、台湾中部で起きた921大地震後からドキュメンタリー制作に携わり、『無米楽』(共同監督:荘益増)が、2005年台北電影節でグランプリを受賞し、山形国際ドキュメンタリー映画祭でも上映された。2012年には『牽阮的手』が金馬奨最優秀ドキュメンタリー賞にノミネートされた。

 

西村一之/日本女子大学人間社会学部現代社会学科教授
専門は文化人類学。1993年から現在まで、台湾東海岸にある小さな港町を調査地とし繰り返し訪れてフィールド調査をしている。特に人と技術の越境移動、民族集団間関係、植民地経験に関心がある。共編著に『境域の人類学-八重山・対馬にみる「越境」』(風響社)、共著で『アジア遊学 大日本帝国の建築物が語る近代史』(勉誠社)がある。2024年は1年間台北市にある研究機関に所属し、調査地に通うとともに西部や南部にも足を運んでいた。

 

≪『台湾文化センター 台湾上映会2025』上映会概要≫
『台湾映画上映会』は、台北駐日経済文化代表処台湾文化センターが開催する、台湾社会や文化への理解を深め、新しい台湾映画を発見する上映会です。これまで東京のみの開催でしたが、本年度は大阪・関西万博で盛り上がる大阪での開催も決定しました。さらに日本大学文理学部中国語中国文化学科、慶應義塾大学東アジア研究所、早稲田大学中国現代文化研究所、東京大学持続的平和研究センター、大阪大学大学院人文学研究科の5校の大学と、大阪シネ・ヌーヴォのご協力を得て、台湾文化センターを含め全7会場にて開催いたします。大阪での開催に際して、「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」をテーマに、万博イヤーの2025年は8月にも開催が決まっている第21回大阪アジアン映画祭との連携企画が決定し、より多くの方に豊潤な台湾映画の魅力をご紹介する場を目指します。
昨年に続き、キュレーターを映画監督のリム・カーワイが務め、すべて日本初上映となる選りすぐりの8作品がラインナップされました。

名称:台湾文化センター 台湾映画上映会2025
期間:2025年5月~10月(全8回)
会場:台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター/日本大学文理学部オーバル・ホール/慶應義塾大学三田キャンパス西校舎ホール/早稲田大学小野記念講堂/東京大学駒場キャンパスKOMCEE West レクチャーホール/大阪大学豊中キャンパス大阪大学会館講堂/シネ・ヌーヴォ
※大阪大学、シネ・ヌーヴォでの開催は第21回大阪アジアン映画祭連携企画
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主催:台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター/Cinema Drifters/大福
共催:日本大学文理学部中国語中国文化学科/慶應義塾大学東アジア研究所/早稲田大学政治経済学術院・中国現代文化研究所/東京大学持続的平和研究センター/大阪大学大学院人文学研究科/シネ・ヌーヴォ
協力:大阪アジアン映画祭
宣伝デザイン:100KG
≪台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター≫公式サイト:https://jp.taiwan.culture.tw
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≪参加無料、事前申し込み制≫ ※各回の申し込みは、Peatixにて先着順にて受付。
≪Peatix≫ https://taiwanculture.peatix.com/
※Peatixにて、各回10日前の昼12:00より先着順にて受付。
※ゲスト・イベント内容は予告なく変更となる場合がございます。ご了承ください。

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