Cinem@rt エスピーオーが運営するアジアカルチャーメディア

インタビュー|『白日青春-生きてこそ-』ラウ・コックルイ監督 “「よそ者」が「よそ者」の映画を撮る”

香港の名優アンソニー・ウォン(黄秋生)が、香港に住む難民の少年と心を通わす姿を描く、感動のヒューマンドラマ『白日青春-生きてこそ-』が、1月26日(金)よりシネマカリテほか全国順次公開。

この度、監督・脚本を務めたラウ・コックルイ(劉國瑞)監督に、本作について話を聞いた。


『白日青春』ラウ・コックルイ監督1
ラウ・コックルイ監督

――『白日青春-生きてこそ-』(以下、『白日青春』)とても素晴らしかったです。香港の知らなかった一面や、登場人物たちのその後を考えてしまって……うまく言葉にできない何かが、深く心に残っています。

ラウ・コックルイ監督(以下、ラウ監督) そのようにおっしゃっていただいて、とても嬉しいです。私にとって映画とは、様々な人々が互いに理解を深めるための有効な手段だと考えています。映画の世界は映画の世界で観終わったら終わり、ではありません。映画で描かれた事だけでなく、描かれなかった事にも関心を寄せてくださると大変嬉しいです。

――本作は、香港で働くタクシー運転手と難民の少年との交流が描かれます。ラウ監督は脚本も手掛けられていますが、この物語を描こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

ラウ監督 私は映画を撮るとき、常に1つの課題を抱えています。それは、香港で暮らす「よそ者」についてです。私自身もマレーシアで生まれ育ったマレーシア人で、18歳の時に香港に移住した「よそ者」です。このような人たちが香港とどのような関わりを持っているのか、そこに強い関心があるんです。私の周りにも同じような「よそ者」達がいて、彼らの映画は撮るのも観るのもすごく面白い。同時に、私がクリエイターとして映画のテーマや撮り方を考えるとき、地元の香港人が考えるものとは、ある種の隔たりを感じてしまいます。

私は今まで短編映画を制作してきましたが、私の映画に登場するのは全員、いわゆる地元の香港人ではなく、「よそ者」として香港にやってきた人達でした。そして今回、「難民」という切り口で長編映画を撮ろうと思いました。このテーマは、地元の香港人の映画関係者はなかなか取り扱わないテーマでした。香港にやってきた「よそ者」が「よそ者」の映画を撮る、それが私の最初の考えです。

『白日青春』ラウ・コックルイ監督2
ラウ・コックルイ監督

――「難民」というテーマで、ラウ監督は以前ドキュメンタリーも撮られていましたが、今回フィクションを選ばれた理由は?

ラウ監督 私の映画業界でのキャリアは、ドキュメンタリー映画を撮ることから始まりました。ドキュメンタリー映画は、社会に対して様々な影響を与えられるジャンルですし、私もその力の凄さをよくわかっています。

ただ、私はとても内気な性格で、一人でじっくり考えることが好きなんです。監督ではなく、一人で作業ができる脚本家の方が向いていると思うほどです。じっくり観察してから行動に移す。まずは人と会って、様々なことをリサーチして、学び、自分なりに消化した後に、物語として仕上げていく。この方法が私の性格的に向いているのかなと思ったわけです。

ドキュメンタリー映画を撮っていたときも、長編映画を撮ることになっても、やはりこの方法で行いました。『白日青春』の中には、リサーチなどドキュメンタリー映画を撮るときに培った経験が生かされています。

――『白日青春』ではどの俳優も素晴らしい演技でしたが、その演技を引きだすことが出来るということは、監督業もとても向いていらっしゃると思います。

ラウ監督 仕事で必要があれば、私なりに頑張ります(笑)。脚本や編集など、一人でじっくり作業する働き方が非常に快適なんですが、基本的には内気な性格はそこまで大した問題ではないです。

――タクシー運転手バクヤッをアンソニー・ウォンさんが演じられましたが、印象的だったやりとりを教えてください。

ラウ監督 アンソニーさんは、撮影現場で味方でいてくれる方だと感じました。いろいろとコミュニケーションをとり、自分の意見もたくさん出してくれ、提案は常にとても合理的でした。彼の演じたバクヤッは私たちが一緒に作り上げた人物だと思っています。

そして、彼はとてもプロフェッショナルな俳優でした。自分の役柄については、きめ細やかな意見や提案をしてくれましたが、他の俳優の役柄に関しては一切口を出しませんでした。彼との仕事は終始とても楽しかったです。私がバクヤッやこの物語について考えるとき、より多くの空間を彼が与えてくれたと感じています。

『白日青春』のアンソニー・ウォン
アンソニー・ウォン

――アンソニー・ウォンさんのようなスターが出演している一方で、非職業俳優も多く出演していますね。

ラウ監督 私は映画づくりにおいて、素人の俳優を起用することがとても好きなんです。今回4か月をかけて、中華系以外の外国人のキャスティングをしました。子供から大人まで、ほとんどが素人です。

時間をかけてでもこうすることで、様々な人と会うことができ、非中華系の非職業俳優のデータバンクをつくることができます。こうして集まってきたデータバンクから、映画で誰を起用するか考えるときに一番適した俳優を選ぶことができるんです。

――非職業俳優を演出する際に、大切にされていることはありますか?

ラウ監督 監督として、彼らが演じやすい環境を作り出すことが大事だと考えています。非職業俳優を選ぶメリットのひとつは、彼らは監督の好みに迎合するようなことを一切しないこと。自然と演じやすい環境をつくることができれば、見事に自分たちの演技を見せてくれます。

香港には、中華系以外にも素晴らしい俳優がたくさんいます。この映画を通じて、彼らの演技を観客の皆さんにお見せしたい、実はそういう気持ちもとても強くて。今回、ベテランの役者も同時に起用しましたが、これは私にとっては大きなチャレンジでもありました。このチャレンジの結果も皆さんにお見せすることがとても嬉しいです。

――難民の少年ハッサンを演じたサハル・ザマンさんも本作がデビュー作でしたが、本当に素晴らしい演技でしたね。

ラウ監督 私がサハルと知り合ったとき、彼は9歳でした。キャスティングでは、香港のいろいろな地区を訪れ、その地区に住む人たちと会いますが、彼はその中の1人です。初めて会ったとき、サハルはとても自信満々でした。こどもは初対面の大人に対し、普通は少し緊張したりしますが、彼は全く物怖じしない。とても特別な子だと思いました。

サハル以外にも多くの子供たちと会いました。実は、演技面ではサハルはベストではなかったんです。でも、とにかくこの子に決めましょう、と。決定してから一か月あまりワークショップを行いました。彼に演技についていろいろな事を教え、ワークショップが終わる頃には彼の演技はだいぶ良くなりました。

サハルは本当に賢い子で、記憶力も抜群なんですよ。劇中で彼が話すのは広東語ですが、広東語は彼の母国語ではありません。彼は4歳で香港に来たので、香港に住んでまだ4、5年。語学の能力が本当にすごいんです。

『白日青春』のサハル・ザマン
サハル・ザマン

――サハル・ザマンさんには、具体的にどのような演技指導をされたのでしょうか?

ラウ監督 彼には物語や演じる役柄について説明しました。彼が言うには、「僕はとても幸せだ。貧しい家庭でもないし、お笑いが大好きなんだ。だから僕とハッサンは全然違う」と。だから私は一生懸命、ハッサンが置かれた環境や、いかに暮らしが大変かを説明しました。彼がそれを理解してからは、あのような素晴らしい演技を見せてくれるようになりました。




『白日青春-生きてこそ-』
『白日青春-生きてこそ-』ポスタービジュアル

2024年1月26日(金) シネマカリテ他全国順次公開

配給:武蔵野エンタテインメント株式会社
PETRA Films Pte Ltd © 2022
公式サイト:https://hs-ikite-movie.musashino-k.jp/
公式X:@hs_ikite_movie 

聞き手・記事制作:Cinemart編集部

記事の更新情報を
Twitter、Facebookでお届け!

TOP