Cinem@rt エスピーオーが運営するアジアカルチャーメディア

【配信で楽しめる!今月のおすすめ韓国映画】#2 第24回釜山国際映画祭 観客賞受賞! 人間の尊厳について描く名作『69歳』

リハビリに通う病院で男性看護師ジュンホから性的暴行を受けたヒョジョンは、同居するドンインに相談して警察に通報するも、容易に信じてはもらえない。なぜならヒョジョンは69歳で、ジュンホは29歳だったから……。

普段、同じ価値観を共有できているはずの異性の言葉に違和感を抱き、意見が合わないことがありますが、それは大抵の場合社会における女性の置かれた立場についての話で、そんな時はどうしても男女間の溝とか壁といったものを感じずにはいられません。

若い男から性的暴行を受けた高齢女性を追った映画『69歳』は、多くの男性の目にはどんな風に映るのでしょう。

  
©2019 KIRIN PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED

ヒョジョンは介護の仕事をしながらつましい生活を送っていても、「老人はきちんとした格好をしないと軽んじられる」と身なりに気を遣い、水泳で鍛えたしゃんとした様子は、一見したところ裕福な家の奥様のようでもあります。知り合いの女性看護師からは「いつもおしゃれで介護人に見えない」と言われます。

褒めたつもりの言葉に、二重三重の差別と偏見が感じられないでしょうか。高齢で何の後ろ盾もない女性は、この社会では最も弱い立場の存在なのです。  

これまでよく使われてきた“女性ならではの視点”とか、“女性監督らしい繊細さ”などという言い回しは、今では避けるべきものとされています。それでもこの作品を見ると、女性監督でなければ描けない、女性だからこそ持ち得た当事者意識ゆえに作られたと思わずにはいられません。

この作品は脚本も手がけたイム・ソネ監督が、実際に起きた高齢女性への性的暴行事件の記事を読んだことから生まれました。

2012年、看護助手に性的暴行を受けた60代女性が加害者を訴えたものの、訴えは退けられ、加害者が処罰されないだけでなく、周囲の好奇の目や無理解に苦しみ、「自分が子供や若い女性だったら加害者は拘束されただろう」という遺書を残して飛び降り自殺した事件があったそうです。もし女性でなかったら、監督はこの話を深く心に留めたでしょうか。

韓国映画界では今、日本でも話題を呼んだ『はちどり』のキム・ボラをはじめ、『わたしたち』のユン・ガウン、『夏時間』のユン・ダンビら、多くの女性監督の活躍が目立っています。

共通点は優れた作品性で高く評価されていること。そんな系譜に連なるのが、本作のイム・ソネ監督です。20年にわたって50本以上の作品に携わった後、韓国芸術総合学校映像専門過程でシナリオを学び、本作で監督デビューを果たしました。

実際の事件は悲しい結末を迎えましたが、サスペンスとしての面白さもある映画は、決して暗くはありません。ヒョジョンの毅然とした佇まいが清々しく、見ているうちに痛ましい思いは消え、同居人ドンインがヒョジョンのために奔走する姿に温かな気持ちにさせられます。

演じたイェ・スジョンは『82年生まれ、キム・ジヨン』では古い世代の女性の代表であるジヨンの祖母役でしたが、現在Netflixで配信され話題を呼んでいる「Mine」をはじめ、多くのドラマで様々な役柄を演じて親しまれている名優です。ドンイン役は「この役ができるのは彼だけ」というイェ・スジョンの推薦で、ベテランのキ・ジュボンが務めて味わい深い演技を見せています。


この作品は昨夏の韓国公開時、フェミニズム映画と見なした作品の評価を不当に低くつける、いわゆる“評点テロ”と呼ばれる悪意に満ちた攻撃を受けました。ただ、実際の観客満足度は9.33点という高得点を得ましたし、一般公開前の2019年、第24回釜山国際映画祭では観客賞を受賞しています。何より映画を見れば、人間の尊厳について考えさせる普遍的な内容だということが感じ取れるはずです。


Text:小田香
出版社勤務を経てフリーとなり、01年頃より日韓の俳優、映画・舞台関係者に数多く取材。現在は『韓流ぴあ』『韓国TVドラマガイド』等の韓流誌を中心に、ミュージカルや映画・華流ドラマについての寄稿も行っている。著書にノベライズを手がけた『イニョプの道』がある。毎週金曜日AuDee配信の番組 「韓流ぴあpresents K❤❤❤(Love Max)」に不定期出演中。




『69歳』
7月23日(金)より「おうちでCinem@rt -いつでも・どこでも-」にて独占配信

≪ストーリー≫
69歳のヒョジョンは男性看護師に暴行を受ける。彼女はそのことを同居人のドンインに告げ、警察に通報するが、警察を含め信じる人はごくわずかであった。ほとんどの人間が若く男前の男が本当にそんなことをするのかと疑っていたが、ヒョジョンを愛していたドンインだけが彼女を守ろうとする。しかし、彼自身も心からヒョジョンを信じることが出来ずにいてしまう。男性看護師は合意のもとの行為だったと主張し、裁判所にも訴えが棄却されてしまい、頼れる者はヒョジョン自身だけになってしまう。

監督:イム・ソネ
出演:イェ・スジョン、キ・ジュボン、キム・ジュンギョン、キム・テフン、キム・ジュンギ
2020年/100分 /韓国/配給:エスピーオー
©2019 KIRIN PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED


アジア映画に特化した動画配信サービス
「おうちでCinem@rt -いつでも・どこでも- 」

アジア映画のメッカとして知られるシネマート新宿、心斎橋に続く「第3の劇場」として、今年3月よりサービス開始。いつでもどこでも楽しめるオンラインシアターです。シネマートでの公開作品はもちろん、毎月1本から2本、日本初公開&独占配信作品を配信中!

【1作品の視聴料金】
先行配信1,200円 ※視聴可能時間、料金は作品によって異なります
新作550円 (税込)(視聴可能時間:48時間)
旧作440円(税込) (視聴可能時間:48時間)
※「おうちでCinem@rt」は月額制ではなく、作品ごとの購入となります。

Twitter: https://twitter.com/OuchideCinemart
Facebook:https://www.facebook.com/ouchidecinemart/
Youtube :CinemartChannel

記事の更新情報を
Twitter、Facebookでお届け!

TOP