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【SPO社員インタビュー】シネマート六本木元支配人・村野 第4回 SPO・シネマート六本木編②


―村野さんはどんなことをされてきたのですか?
2015年6月の閉館まで、9年と3ヶ月間シネマート六本木を運営していたんですけど、私自身は、劇場の事務所にいる時と、本社のいる時と、シネマート新宿にいる時といろいろです。残念ながらずっと現場の中心にはいられなかったのですが、いろいろな形でシネマ―ト六本木に関わってきました。

変わらずやり続けていたのは、特集上映や映画祭などの企画物でした。
結局、キネカ大森と変わらないですね(笑)

ひとつ強く印象に残っているのは、オープン当時に開設していた掲示板の書き込みなのですが、「キネカ大森という劇場は、一年間に公開された韓国映画を全部まとめて上映していたので、見逃した作品を観ることができた。あなたたちもそういう劇場を見習いなさい」といったようなお客様からのご要望というか、お叱りです。

その時、「あ~、それ、私なんだけどな~」と。
キネカ大森では「これならお客様が喜んでくれる!」と自信を持ってやれていたことが、劇場の規模が大きくなったら、日々の業務で精一杯になってしまい、身動きが取れない。
自分の実力不足というか、能力のなさを突き付けられました。
支配人に「次これやりたい!」って言って、自分のキャパ+情熱で自由にやれて、色々と失敗から学んで...というところから、会社の一員として4スクリーンある劇場を運営するのは、責任の重さが全然違ったんですよね。


―やりたい事がやりにくくなったんですね?
というか、会社の中で想いを実現していくという力がなかったんだと思います。
ただ、変な自信だけはありました。
「私が楽しいことは、お客様も楽しい」という。

最初にお話ししたように、私はもともと芸術的に映画を観るのではなく、エンターテインメントとして、「かっこいい!」とか「楽しい!」というところから入っているので、お客様の中にも、おそらく自分に近い方がいるのではないかな?と思っていて。
韓国や香港の映画やドラマに出会ったことで、人生が変わったというか、華やいだというか、そんな経験をした人たちが多いのではないかと。

例えば、好きな俳優さんの映画を毎週のように観られたら、嬉しいじゃないですか。
そんなわけで、新作の傍ら、「イ・ビョンホン祭!」とか「カン・ドンウォン祭!」みたいな特集上映をやり続けました。
特集上映によって、繋いでいくといいますか。
お客様の意識もそうだし、映画に対する知識とか、映画体験とか。

  


―9年間の中で手応えのあった上映は何かありますか?
村野:うーん、選べないけど......新作は新作でどれも大事だし......初日の緊張感とかも。
韓国の特集上映だと、印象的だったのは『チャン・グンソク祭』ですかね。1人の俳優さんが日本で大ブレイクする過程を見たという点で。
たまたまなんですけど、特集上映もやり尽くして「次はどうしよう?」という時に、『楽しき人生』とかを配給していたこともあり、「チャン・グンソクやろうかな?」と。それで調整していたら、上映するころには大爆発していて。今までうちなんて見向きもしてくれなかったマスコミから、ドカドカ問い合わせがきました。新作でもないのに(笑)

嬉しかったのは、ファンの方が特集に合わせて、お花とかバルーンのスタンドを送ってくれることですね。あとは初日とかにロビーがオフ会の会場みたいになる。
「あ、みんな楽しんでくれているんだ。続けていかないと」と背中を押してくれました。

劇場がファンの方の集合場所であればいいなと。
そういう意味で、パク・ヨンハさんのフィルムコンサートを続けたということもあります。
  

バースデーに合わせて特集上映をしたときに、お祝いメッセージの撮影をしたことも思い出深いです。たとえば、チャン・グンソク祭とか、カン・ドンウォン祭とか、イ・ジュンギ祭とか。ロビーに設置したカメラの前を通過する時に、ファンの皆さんが「お誕生日おめでとう~」とかショートメッセージを残す。ただそれだけなのですが、ほんの数秒のために皆さんが思い思いのグッズを作ってきたりとか、お揃いのTシャツを着てきたりとか。楽しそうに参加して下さったのが嬉しかったです。

  

あとは、チュ・ジフン祭の情報が韓国でもニュースになって、チュ・ジフンさんの方からファンの皆さんへコメント動画を送って下さるというミラクルな出来事もありました。『私は王である!』の撮影現場からでした。これはもうびっくりでした。

邦画の特集だと、ATG特集が思い出深いですね。
ATGの歴史を勉強するところからでしたから。

あとは、永瀬正敏さんの特集です。
このために永瀬さんご自身が特別映像を作って下さったり、ゲストに来てくださったり。
今でも信じられないです。

  


―香港映画とかはどうですか?
個人的なところですと、イー・トンシン監督という香港の素晴らしい監督がいるんですけど、他社さんから『プロテージ/偽りの絆』(2007)のDVDが発売になると聞いて、そこから権利を取ってもらい初公開しました。合わせて、権利が切れていた作品などを香港と交渉して、『つきせぬ想い』(93)など旧作も上映しました。いい経験になりました。

  


私がこの仕事を始めるうえで夢に描いていたのが、『男たちの挽歌』特集と、ウォン・カーウァイ特集でした。理想とはちょっと違う形でしたが、どちらも実現することができました。特に『男たちの挽歌』は『香港電影天堂SPECIAL』という特集で上映したのですが、東日本大震災の直後だったので、エンタメが力になれることがあるのかとか、悩みながら開催したという思い出があります。

  

その他、東南アジアとか今まで知らなかった国の映画に触れる機会が作れないかな?という思いもあり、シンガポール映画祭や、アジアンクィア映画祭に劇場を使っていただいたりしました。劇場で上映する事によりその映画祭にお客様が集まりやすくなればいいなと。
お力になりきれなかったところはあると思いますが......

  




―なるほど、他には何かありますか? 苦労した上映とか。
なんといっても、閉館企画です。人生で二番目に大変でした(笑)
『シネマート六本木-劇終-THE LAST SHOW』というタイトルをスタッフが考えてくれて、その中で『韓流祭』『香港電影天堂 最終章』『台湾シネマ・コレクション2015』を組み、『マレーシア映画祭』にも参加していただきました。
あと、どうしても『韓フェス』で終わりたかったので、上司にお願いして『韓流シネマ・フェスティバル2015』を組んでもらいました。

  

  

  

もう私も興行から離れないといけないし、最後のひと踏ん張りだと思ったのですが、作品を詰め込むだけ詰め込んだので、何から何まで大変でした。古い作品はフィルムが多かったので、映写機が残っている劇場さんから、フィルムを巻くリールを貸していただいたり。皆さん快く貸し出してくださいました。これがなかったら実現できなかったので、感謝しています。映写もMAXで大変だったと思います。

その中で、私ではこの閉館企画はやりきれないのではないかという不安があって。他の人ならもっと上手く出来るんではないかと。だから、これを組んだら降りよう、このチラシを作ったら辞退しよう、という想いが巡っていて。

それなのに、まだお客様が求めている作品や、私がお届けしたい作品で、頑張れば手に届くものがあるのではないか、という未練もあって。
それで最後の最後に、『Last Present』という企画を出してしまい......(笑)
とにかく、お客様から「何でこれやってくれないの?」と言われた作品をやらずして閉館できるか! 引退できるか! と......。

で、気が付いたら、最終日にお客様の前でご挨拶していました。
あの光景は一生忘れないと思います。
集まってくださった方にも、劇場には来られないけど気にかけてくださった方にも、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。
ときどき、シネマート六本木を思い出していただけたら嬉しいです。

これが言いたかったので、もう満足です(笑)

※閉館企画のサイトが残っていたので、ご興味のある方はご覧ください
シネマート六本木-劇終-THE LAST SHOW


(第5回につづく。次回は最終回シネマート六本木編③!

  

  

  

  

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