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第21回大阪アジアン映画祭『好い子』クロージング作品として世界初上映、舞台挨拶レポート

大阪アジアン映画祭クロージング作品『好い子』舞台挨拶 詳細 ※敬称略
■日 程:9月7日(日)17:30回 ※クロージングセレモニーの後、上映前のトークイベント
■場 所:ABCホール /大阪市福島区福島1-1-30
■登壇者:ワン・グォシン(監督)、リッチー・コー(出演)、ホン・フイファン(出演)
■司 会:遠藤淳


【登壇者写真(敬称略。左から)】 リッチー・コー(出演)/ホン・フイファン(出演)/ワン・グォシン(監督)

■レポート
第21回大阪アジアン映画祭が閉幕し、クロージング・セレモニーに続いて、シンガポール発ドラァグクイーンと家族の再生を描いた映画『好い子(原題:好孩子)』がクロージング作品として世界初上映された。自分を拒絶した父の死をきっかけに、実家に戻ったドラァグクイーン。認知症の母、理解しあえない兄。バラバラになった家族を繋ぎとめたのは、とっさについた「私はあなたの娘」という嘘。ドラァグクイーン姿の息子を“娘”と信じた認知症の母との時間が、過去を受け入れ、かたくなだった心をほぐしていく。本当の自分を見つけるまでの愛おしい時間をチャーミングに描きながら、多様な家族の在り方を描いたヒューマンドラマだ。

シンガポール映画から、人間、そして家族のあたたかさを感じてほしい
──映画『好い子』世界初上映

 シンガポール初の2022年金馬奨最優秀主演女優賞にノミネートされた名優ホン・フイファンさんが、「日本の皆さま、こんにちは。私はホンです。」と日本語で挨拶すると、「私はワンです。」、「私はリッチーです。」とワン・グォシン監督、リッチー・コウさんも続いて日本語で挨拶し、会場はあたたかい拍手に包まれた。
 ドラァグクイーンのアーハオの外見の美しさと内面の葛藤を演じたリッチー・コウさんは「肉体的、精神的にも非常にプレッシャーを感じた」と役作りについて語り、そうした中でワン監督、指導の先生に助けて頂いたことへの感謝を述べた。
 シンガポール初の2022年金馬奨最優秀主演女優賞にノミネートされた名優ホン・フイファンは、本作でドラァグクイーンの息子を娘と思いこむ認知症の母親を演じた。この企画を知ったとき、「認知症だとしても、息子を娘と思い込むことなんかあるんだろうか」と疑問をもったという。しかし実在の人物の体験をもとに翻案した脚本を読み進める中で、いくつかの場面に感動し、この物語を受け入れることができ、「役作りにも自然に入り込むことができ、素晴らしい作品に参加することができた」と喜びを語った。
 ワン・グォシン監督は、新世代のシンガポール映画界を牽引する存在として注目を集めている。「『好い子』が日本で世界初上映を迎えることができ、心よりお礼申し上げます」と満面の笑みを浮かべた。登壇前のインタビューで日本の記者に「『好い子』から、人間に対するやさしさ、こころがあたたまるような場面をみることができた」と言われたエピソードを披露し、「観客の皆さんにもシンガポール映画からシンガポールなりの人間、家族のあたたかさ、やさしさを感じて頂けることを願っています」と挨拶すると、会場は大きな拍手に包まれた。

≪クロージング作品概要≫


©ALL RIGHTS RESERVED © 2025 BYLEFT PRODUCTIONS

『好い子』 世界初上映 World Premiere
※読み方は「よいこ」になります。
2025年/105分/シンガポール
原題:好孩子/英題:A Good Child
監督:ワン・グォシン (ONG Kuo Sin/王國燊)
出演:リッチー・コー(Richie KOH/許瑞奇)、ホン・フイファン(HONG Hui Fang/洪慧芳)、ジョニー・ルー(Johnny LU/路斯明)、チャーリー・ゴー(Charlie GOH/吳清樑)、シェリル・チョウ(Cheryl CHOU/周智慧)
©ALL RIGHTS RESERVED © 2025 BYLEFT PRODUCTIONS
ドラァグクイーンの阿好は、父の死をきっかけに認知症の母がいる実家に戻る。阿好を“娘”と信じ込んだ母は、娘とその仲間たちを受け入れ、新たな思い出を作っていく。過去の確執を乗り越え関係が深まる中で、母は阿好にある秘密を打ち明け…。
『男兒王』(2020年金馬奨衣裳デザイン&メイク賞)で注目される、ワン・グォシン監督の最新作。『花路阿朱媽』でシンガポール初の2022年金馬奨最優秀主演女優賞にノミネートされたホン・フイファンが、認知症の母親役を熱演。となります。

 

第21回大阪アジアン映画祭 受賞結果発表

2025年9月7日(日)に第21回大阪アジアン映画祭が閉幕し、不慮の事故で幼女を殺してしまった女子高生が直面する苦悩から、現代に生きる中国の若者を多角的に描いた『最後の夏』(中国)がグランプリ(最優秀作品賞)に輝きました。
グランプリ以下各賞の受賞結果を次の通りです。


≪後列≫上倉庸敬(大阪映像文化振興事業実行委員会)/日高七海(コンペティション部門 審査委員)/ワン・グォシン(コンペティション部門 審査委員)/フー・ティエンユー(コンペティション部門 審査委員)/難波弘之(公益財団法人芳泉文化財団 事務局長)/薬師悠一郎(株式会社薬師真珠)
≪前列≫磯部鉄平(観客賞『嘘もまことも』監督)/ホン・ソンウン(来るべき才能賞/『寒いのが好き』監督)/ジオ・ロムンタッ(スペシャル・メンション『サンシャイン』プロデューサー)/ホー・グオウェイ(グランプリ『最後の夏』ポストプロダクション・スーパーバイザー)/シー・レンフェイ(グランプリ『最後の夏』監督) /リン・ボーユー(グランプリ『最後の夏』プロデューサー)/タンディン・ビダ(薬師真珠賞『アイ、ザ・ソング』出演)/ジュー・シン(スペシャル・メンション『世界日の出の時』監督)/田中未来(JAPAN CUTS Award『ジンジャー・ボーイ』監督、芳泉短編賞スペシャル・メンション『ブルーアンバー』監督)

■ グランプリ(最優秀作品賞) ■
コンペティション部門上映作品を対象に、審査委員会が最も優秀であると評価した作品に授与。副賞として賞金50万円を贈呈。
『最後の夏』(The Last Summer/夏墜)/中国
監督:シー・レンフェイ(SHI Renfei/史任飛)
≪授賞理由≫
脚本がとても魅力的であり、監督の一貫した演出は作品全体を掌握し、ブレることなく冒頭からラストシーンまで観客の心を掴んで離さない。

【受賞者コメント/シー・レンフェイ監督】
初来日で、大阪にもはじめて来ました。ここ数日、大阪の街をブラブラし、会場ちかくの川沿いも歩き、風を感じていると、まるでふるさとにいるような気持ちになりました。本作は、現代の中国の社会、そこで生きるひと、家族、モラル的なジレンマを描いています。今回、海外初上映で、観客の皆さんに共感したと感想を頂くことができて、とてもうれしかったです。受賞に際し、低予算の中支えてくれた制作スタッフ、家族に感謝を伝えたいと思います。大阪アジアン映画祭の皆さんにも感謝いたします。

■ 来るべき才能賞 ■
コンペティション部門上映作品を対象に、審査委員会が最もアジア映画の未来を担う才能であると評価した方に授与。副賞として賞金20万円を贈呈。
ホン・ソンウン監督(HONG Sungeun/홍성)
『寒いのが好き』(Some Like It Cold/차가운 것이 좋아!)/韓国
≪授賞理由≫
ホン・ソンウン監督は本作で独創的なストーリー展開力を見せつけた。審査委員全員が次回作を心待ちにしている。

【受賞者コメント/ホン・ソンウン監督】
あまりに驚いて、あわてて舞台にあがりました。大阪アジアン映画祭は私にとって特別な映画祭です。初監督作品『おひとりさま族』が大阪アジアン映画祭2022にてグランプリを頂きました。まるでふるさとのような、あたたかく包んでもらっていると感じることができる映画祭です。映画産業は困難な時期を迎えていると感じ悲観的になっていたのですが、今回の受賞で明るい気持ちで頑張ろうと思うことができました。ありがとうございました。

■ スペシャル・メンション ■
今年度、審査委員の協議により、作品、俳優に2つのスペシャル・メンションが授与された。
『世界日の出の時』(All Quiet at Sunrise/世界日出時)/中国
監督:ジュー・シン(ZHU Xin/祝新)
≪授賞理由≫
11作品の中でも、この作品はひときわ異なるアプローチをとり、圧倒的な芸術性を放っていた。
親離れという普遍的なテーマを描きながらも、同時に現代中国の情勢をも映し出しており、その重層的な視点はまさに映画ならではの表現だ。
まるで人類で初めて言葉を持った存在「ルーシー」を探求したくなるように、私たちはこの作品を“映画の最初の言葉"のように追いかけ、深く味わいたくなった。

【受賞者コメント/ジュー・シン監督】
はじめて日本に来ました。若いクリエイターとしてここに来て、大阪、日本の観客の皆さんは経験豊かでいろいろな映画をご覧になっていると思います。そうした観客の皆さん、審査委員の皆さんに評価して頂き、とても光栄に思います。私たち中国の95年生まれのこの世代は、クリエイティブな環境にある意味では様々な迷いがあり、大変な時期があるんですが、この作品が大阪アジアン映画祭で日本、世界の皆さんにご覧頂くことができたことは、感無量です。アジア映画に明るい未来がありますように、心からお祈りいたします。

マリス・ラカル(Maris RACAL)
『サンシャイン』(Sunshine)/フィリピン
≪授賞理由≫
サンシャインの目は私たちを見逃してくれない。
牧師と彼氏の言葉を聞く彼女の姿はこの映画の信頼性を上げ、引き込んでくれた。
素晴らしい女優である。

【受賞者代理コメント/ジオ・ロムンタッ(プロデューサー)】
マリス・ラカルではなくて、ごめんなさい(笑) 彼女はとても熱心に作品に取り組んでくれ、脚本の読み込みに3年、新体操の選手ではないのですが、熱心に練習にも取り組んでくれました。この度はありがとうございました。

■ 薬師真珠賞 ■
薬師真珠によるスポンサーアワード。上映されたすべての作品の出演者を対象に、薬師真珠が最も輝きを放っていると評価した俳優に授与。副賞として薬師真珠より真珠装飾品を贈呈。
タンディン・ビダ(Tandin Bidha)
『アイ、ザ・ソング』(I, the Song)/ブータン、フランス、ノルウェー、イタリア
≪授賞理由≫
タンディン・ビダの深い人物理解に基づく演技が、謎を抱えて静かに、ゆるやかに進む「アイ、ザ・ソング」の物語に、類まれな緊張感とドラマ性を付与した。

【受賞者コメント/タンディン・ビダ】
こんばんは、大阪!
素晴らしい賞を頂き、予想していなかったので、驚き、震えています。大阪の地で、大阪アジアン映画祭に参加することができ、賞を頂くことができて、とてもうれしく思っております。今後の創作活動にも活かしていきたいです。

■ JAPAN CUTS Award ■
インディ・フォーラム部門の日本映画を対象に、米国ニューヨーク市のジャパン・ソサエティー(日本映画祭「JAPAN CUTS」主催団体)がエキサイティングかつ独創性に溢れると評価した作品に授与。
『ジンジャー・ボーイ』(Ginger Boy)/日本
監督:田中未来(TANAKA Miki)
≪授賞理由≫
田中未来監督の『ジンジャー・ボーイ』にJAPAN CUTS AWARDを授与することを光栄に思う。じわじわと、しかし力強く進む本作は独創的な世界観と演出が際立ち、閉塞感と不安を誘う。強烈な印象を残す視覚表現と明確なビジョンの持ち主である田中監督の技量を鮮明に示す作品である。

【受賞者コメント/田中未来監督】
インディ・フォーラム部門<焦点監督・田中未来>にて『ブルー・アンバー』『エミレット』『ジンジャー・ボーイ』の3作品を上映して頂きました。その中でも『ジンジャー・ボーイ』は特に思い入れが強い作品です。今年、カンヌ映画祭でも受賞し、今回大阪アジアン映画祭で<焦点監督>として特集して頂き、活躍の場をひろげてくれたきっかけとなった作品を名誉ある賞に選んで頂き、とてもうれしいです。

■ 芳泉短編賞 ■
芳泉文化財団により創設されたスポンサーアワード。今年度映画祭で上映された60分未満の映画(協賛企画《芳泉文化財団の映像研究助成》を含む)のうち、日本初上映の作品を対象に、審査委員会が最も優秀であると評価した作品に授与。副賞として次回作研究開発奨励金10万円を贈呈。
『初めての夏』(First Summer/첫 여름)/韓国
監督:ホ・ガヨン(HEO Gayoung/허가영)
≪授賞理由≫
ある老齢の女性のジレンマを一日の時間軸で描いた、非常に見応えのある人間描写である。優れた脚本に、強烈な演技と洗練された演出が光る。韓国から届けられた重要な女性の声。審査員全員が本作が最高の短編作品であると確信している。

■ 芳泉短編賞 スペシャル・メンション ■
『ミルクレディ』(Milk Lady)/日本
監督:宮瀬佐知子((MIYASE Sachiko)
≪授賞理由≫
激しくも遊び心に満ちた精神、簡潔なストーリー構成、そして計算された編集により、『ミルクレディ』は必要最小限の要素だけで物語を紡ぐ。性差別と職場の父権主義に大胆に立ち向かい、強靭な女性性を再定義する作品である。

『ブルーアンバー』(Blue Amber)/日本
監督:田中未来(TANAKA Miki)
≪授賞理由≫
何気ない日常のなか、ジェンダー的にどっちつかずにいる主人公が究極の選択を突きつけられる。その心の揺れ動きを、流麗なカメラワーク、開放的で映画的な空間、そして情熱的なラテン音楽をもって鮮やかに描きだす。

【受賞者コメント/田中未来監督】
名誉ある賞を頂き、ありがとうございます。今回、焦点監督として上映した3作品は、人間関係の普遍的な問題や、自分と他者とのちがいに思い悩むひとを描いています。観客の方から共感できた、自分はひとりではないという感想を頂くことができ、作品を作り、上映できた意義があったと感じることができました。今後も作品をつくり続けたいので、応援よろしくお願いいたします。また大阪アジアン映画祭に戻ってこられるように精進いたします。

■ 観客賞 ■
全部門の上映作品の内(一部作品を除く)、当映画祭の上映が日本初上映となる作品について、観客の投票による得点平均が最高の作品に授与。副賞として薬師真珠より淡水真珠のネックレスを贈呈。
『嘘もまことも』(Truth or Lies)/日本
監督:磯部鉄平(ISOBE Teppei)

【受賞者コメント/磯部鉄平監督】
大阪在住なので、今日もツッカケ履いてチャリで、観客気分で来ました。大阪アジアン映画祭は元々観客として来ていて、映画を撮りはじめてから、いつか舞台に立てたらいいなと思っていました。その願いが今日叶いました。ちゃんと靴を履いてくればよかったです(笑)

 

≪映画祭概要≫
名称:第21回大阪アジアン映画祭(Osaka Asian Film Festival EXPO 2025 – OAFF 2026)
会期:2025年8月29日(金)〜9月7日(日) (10日間)
上映会場:ABCホール、テアトル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館、大阪市中央公会堂
公式ウェブサイト https://oaff.jp
公式Instagram @osakaasianfilmfestival
公式X @oaffpress
主催:大阪映像文化振興事業実行委員会(大阪市、一般社団法人大阪アジアン映画祭、大阪商工会議所、公益財団法人大阪観光局、 朝日放送テレビ株式会社、生活衛生同業組合大阪興行協会、株式会社メディアプラス)

■作品概要
上映作品は公式HPをご覧ください。
https://oaff.jp/oaff2025expo/

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