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中国時代劇に意外と出てくる「ブランコ」を探る|中国時代劇トリビア#18

中国宮廷ドラマに登場するやんごとなき方々や宮女だけではなく、「晩媚と影~紅きロマンス~」のようなダークサイドに生きる女性たちも、なぜか夢中になってしまう遊戯・ブランコ...。大人の女性がなぜ、夢中になるの?

そもそも中国の宮廷世界や位の高い人物の住む屋敷に、ブランコが登場するのは、なぜ? ドラマに登場するとなぜか気になる"ブランコ"について、今回は探ってみました。

「晩媚と影」場面写真1

古くからヨーロッパやインドなどでは、豊穣を祈る行事や、農耕儀礼として女性がブランコにのる儀礼が行なわれており、それがやがて中国に伝わり、ブランコ=「鞦韆(しゅうせん)」と呼ばれるようになりました。季語は春で、春を表現する言葉の一つです。

唐代には、冬至から数えて105日後の寒食の日というのがあり、その日は火の使用・煮炊きは禁止とされ、日頃出される温かい食べ物ではなく、冷たい作り置いた料理を口にし、女性が鞦韆にのる儀礼が宮中で行われ、春の到来を祝いました。

また、この日はお墓参りをする清明節や、春を迎えて郊外を散策する踏青節とも言われ、こうした節会の日に皆で集まって食事や音楽を楽しんだあとは、体を動かして温まるのが一番!ということで、鞦韆(ブランコ)をはじめ、打毬(ポロ)、蹴鞠(けまり)、闘鶏などの遊びが賑やかに行われました。その中でも鞦韆は儀礼とは離れて唐・宋時代や遼代に、婦人や子どもたちの楽しい活発な遊びとなっていきます。

唐の玄宗は美女たちと一緒にこの鞦韆を楽しむのが大好きで、ふんわりと宙に浮いて仙人のようになった不思議な感覚をヒントに、鞦韆を「半仙の戯」と呼んだそうです。諸説あるようですが、ブランコに乗った女性の衣が、ひらひらとめくれるのを観て愛でる...という、楽しみ方もあったとか!

「晩媚と影」場面写真2

漢詩の中にも鞦韆は登場します。中華料理のトンポーロー(東坡肉)の産みの親、蘇東坡(蘇軾・そしょく)が詠んだ「春夜」から派生した四字熟語で「鞦韆院落」という言葉があります。

「鞦韆」はブランコ、「院落」は中庭のことで、ブランコが設置されている中庭のことを指しているのですが、その意味は、貴族の大きな屋敷の中庭の景色を表現し、昼間のにぎやかな景色とは違う、春の夜の静かで引きこまれる景色をいう言葉だそうです。

こうした表現からもわかるように、鞦韆には静と動、喜びと悲しみ、そして生と死をいったりきたりするような不思議な力があると、昔の人は思ったのかもしれません。時代劇のヒロインが、夢中になって空高くブランコをこぐシーンは、まさしく「半仙の戯」と呼ぶにふさわしく、仙人が舞うように、悩みや苦しみからすべて解き放たれたい!という願いが現れているようにも見えますね。

「晩媚と影」場面写真3


Text:島田亜希子
ライター。中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆する他、中文翻訳も時々担当。『台湾エンタメパラダイス』『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)にて執筆記事掲載中。

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