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金馬奨ってどんな賞?《前編》歴史・応募規定・賞の種類・審査員など|台湾エンタメ通信


今週末、いよいよ台湾が誇る金馬奨(ゴールデン・ホース・アワード/GHA)の授賞式が行われますね。そこで今回は、金馬奨とはどんな賞かについて、ざっくりとご紹介しましょう。

なお金馬奨の授賞式は、コンペティション作品のほか世界の話題作を上映する台北金馬影展(台北金馬映画祭/TGHFF)のクライマックスを飾るイベントです。ここでは、主に金馬奨を取り上げることとし、台北金馬影展とは区別することとします。

「金馬奨ってどんな賞?」《前編》目次
金馬奨の歴史
金馬奨の応募規定
金馬奨の賞の種類
金馬奨の審査員
金馬奨の華麗なプレゼンター

2023年の注目ポイント (クリックすると記事に移動します)



金馬奨の歴史

今年で60回目を迎える金馬奨(ゴールデン・ホース・アワード/GHA)は、1962年に創設され、中華圏の映画賞の中で最も古い歴史を誇ります。そのため、中華圏を代表する映画賞として、「中華圏のアカデミー賞」とも呼ばれています。

創設当初は、映画は国のために尽くすというプロパガンダ的な側面もあり、中華民国政府が台湾の映画産業の奨励を目的に主催したコンペティションでした。中国に最も近い金門と馬祖の頭文字を取って「金馬」と命名したことからも、映画文化の発展を促す際にも、対立する中国との最前線にいる軍人の精神に倣うという、当時の時代背景がうかがえます。そうした政治的事情のため、金馬奨は長らく、主に台湾と香港の作品を表彰するためのものでした。

その後、90年から非営利法人(台北金馬影展執行委員会)によって管理・運営されるようになると、ようやく政府から独立した立場で、中華圏の映画発展を改めて理念に掲げます。またそのころ、台湾映画界が衰退し、香港人材が中国に流出したことも相まって、90年代半ば以降は、ついに中国映画も積極的に金馬奨に参加するようになり、名実共に中華圏で最も栄誉ある映画賞として世界に広く認知されるようになりました。

しかし、2018年のある受賞スピーチと、それに伴う蔡英文総統のコメントをきっかけに、中国側は金馬奨へのボイコットを公式声明。それによって、19年以降は中国だけでなく香港からの出品も激減しました。さらにコロナ禍を経て、近年の金馬奨は弱体化したという声がある一方、金馬奨は依然として中華圏の作品価値を高める最も有効な手段のため、中国映画産業にとっても大きな痛手となっていることが懸念されています。


金馬奨の応募規定

金馬奨のコンペティション作品は、制作時期、尺(本編映像の長さ)、言語、制作スタッフの4点について規定が設けられています

まず、定められた時期以降(大抵は前年6、7月以降)に完成し、過去に同コンペティションに出品したことがない作品に限られます。尺は、短編作品はエンドクレジットを含め60分以内、長編作品は60分以上とされます。そして、セリフの半分以上が華語(方言を含め、中華圏で話される主要言語)であること。また、短編作品は監督が華人であること、長編作品は監督およびキャスト、制作スタッフの半数以上が華人であることが挙げられます。


金馬奨の賞の種類

長編/短編劇映画賞、長編/短編ドキュメンタリー映画賞、長編/短編アニメーション賞の各作品賞のほか、監督賞、主演男優/女優賞、助演男優/女優賞、新人賞、脚本賞などの個人賞を合わせ、24部門に表彰・授与されます。授賞式の前月に、各賞あたり最多で5作/人をノミネートし、授賞式当日、ノミネート者の中から最優秀者にトロフィーが授与されます。ちなみに、金馬奨のトロフィーが今のような金色になったのは2005年。それ以前は、ブロンズ色だったそうですよ。

また、コンペティション部門以外にも、特別賞と観客賞が設けられており、授賞式当日に授与されます。特別賞は、その年あるいは長年中華圏の映画界に貢献した制作者にそれぞれ贈られるもので、観客賞は映画祭期間中、観客の投票によって選出されます。


金馬奨の審査員

金馬奨の審査員は、実行委員会によって毎年、映画産業に携わるさまざまな業界の中から選出されます。公平性の観点から、その年のコンペティション作品に携わっている人や前年に審査員を務めた人は、原則として対象から外れるそうです。

過去には、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)、アン・ホイ(許鞍華)、アンディ・ラウ(劉徳華)、コン・リー(鞏俐)、ジョアン・チェン(陳冲)、シルヴィア・チャン(張艾嘉)らが審査委員長を務めたほか、チャン・チェン(張震)、グイ・ルンメイ(桂綸鎂)など、中華圏を代表する監督や俳優が審査員に名を連ねています。17年には、俳優の永瀬正敏が日本人として初めて審査員を務め話題になりました。

今年は、世界的に活躍する監督アン・リー(李安)が審査委員長を務めるほか、『親愛なる君へ』のモー・ズーイー(莫子儀)、『セデック・バレ』、『KANO 1931海の向こうの甲子園』のマー・ジーシアン(馬志翔)、『返校 言葉が消えた日』の監督ジョン・スー(徐漢強)ら錚々たるメンバーが審査員を務めます。


金馬奨の華麗なプレゼンター

金馬奨は審査員も豪華ですが、受賞者を発表し賞を授与するプレゼンターもまた、今をときめく華麗な顔ぶれが揃います。前年受賞を果たした監督、俳優らを筆頭に、海外からも著名人が招かれるので、毎年大きな話題になりますね。

中華圏のスターに関しては大勢すぎてキリがないので割愛させていただくことにして、これまでプレゼンターを務めた日本人を挙げますと、監督の是枝裕和をはじめ、古くは三船敏郎から、安藤政信、宮沢りえ、田中麗奈、宮崎あおい、江口洋介、窪塚洋介、黒木瞳まで、日本映画界の第一線で活躍する豪華な面々が名を連ねます

今年は、監督の北野武をはじめ、俳優の役所広司、妻夫木聡、満島ひかりらが出席するそうです。例年より多く日本人プレゼンターが出席する背景に、日本で金馬奨に対する注目度の高まりがあるのか、あるいは台湾の日本映画界に対する注目度の表れなのか、外部からは知り得ない第3の理由があるのか……その理由が気になるところです。

後編:2023年の注目ポイントにつづく

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Text:二瓶里美
編集者、ライター。2014年より台湾在住。中華圏のエンターテインメント誌、旅行情報誌、中国語教材などの執筆・編集に携わる。2020年5月、張克柔(字幕翻訳家・通訳者)との共著『日本人が知りたい台湾人の当たり前 台湾華語リーディング』(三修社)を上梓。

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