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インタビュー|『来し方 行く末』リウ・ジアイン(劉伽茵)監督 “自分が一番やりたいことから逃げない”

第25回上海国際映画祭で最優秀監督賞・最優秀男優賞を受賞した『し方 く末』が、2025年4月25日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

本作は、中国トップスター フー・ゴー(胡歌)×ウー・レイ(呉磊)共演で贈る、人生の回り道を優しく包み込む静謐なヒューマンドラマ。監督・脚本を務めた中国映画界の俊才リウ・ジアイン(劉伽茵)監督に、14年ぶりの新作となった本作についての思い、そして撮影現場での驚きのエピソードについて語ってもらった。


   リウ・ジアイン監督
リウ・ジアイン監督

—— リウ・ジアイン監督にとって、本作は14年ぶりの新作となりました。監督を再び創作の道へと駆り立てたものは何だったのでしょうか?

リウ監督 この作品を撮らないと自分はダメになると思ったからです。映画から一度離れてしまうと、なかなか戻ってはこられません。コンスタントに映画を撮り続けることは、凄く難しいですが大事なことなんです。なので、勇気を振り絞って撮ろうと思いました。

※リウ・ジアイン監督は、2005年の長編デビュー作『Oxhide(英題)』で第55回ベルリン国際映画祭カリガリ映画賞と国際批評家連盟賞を受賞。その後、2009年にカンヌ国際映画祭監督週間とロッテルダム国際映画祭Bright Future部門で上映された『オクスハイドⅡ』を撮り、今回14年ぶりに新作『来し方 行く末』を完成させた。


—— 以前インタビューで「書きたいキャラクターが何人か浮かび、その1人がウェン・シャンだった」とお話されていましたが、なぜ最終的にウェン・シャンというキャラクターを選ばれたのでしょうか?

リウ監督 自分と一番似ていたのがウェン・シャンという人物だったからです。自分なら、彼がどういう風に暮らしているか十分想像ができ、脚本も書けると思いました。

創作には、その時の自分の暮らしや思いが大きく関わってきます。20歳の時はどうだったか、30代の時はどうだったか、じゃあ40代ではどうか……年齢によってどういう作品が撮れるのかが決まってくると思うんです。だから、5年後の自分はこの作品が撮れないかもしれない、今この作品を撮らなきゃいけない、と思ったんです。


©Beijing Benchmark Pictures Co.,Ltd

—— 『来し方 行く末』を鑑賞後、そっと背中を押してもらえたような温かな気持ちになりました。同じように、本作が励ましを与えてくれる存在になる観客は多いのではと思います。監督ご自身にとっては、本作はどのような存在になりましたか?

リウ監督 そう言っていただけて嬉しいです。私にとってもフー・ゴーにとっても、この作品はご覧になった方に慰めや勇気を与えることが出来たらいいなと思っています。

この作品は私にとって本当に意義が大きいです。作品の始まりから撮影に入り、映画が完成して、上海国際映画祭に出品した時、自分の中に10年以上溜まっていたものが出て行った、思いを全て吐き出せた、そういう気持ちでした。

私は10年以上、ずっと作品を撮っていませんでした。その間、北京電影学院で教師の仕事をしたり、ドキュメンタリーの博士課程に在籍していたり、映画をつくることとは別のことをしていたわけです。そういう生活も素晴らしいですが、自分が一番やりたいことから逃げていてはダメだと思っていました。

長い間、映画を撮っていないと、私のことを映画監督として覚えている人が少なくなってきます。確かにあなたには才能があった、だけど、もう映画監督としてはダメだよね、と言う人もいました。ごく身近な人からそういう評価を受けることもありました。そういう中で、この映画を絶対に撮るべきだと思ったわけです。何を待っているんだ、今やりたいことをやらなくちゃだめだ、そういう思いはウェン・シャンと同じです。そうして私は映画監督へと戻りました。


—— 久しぶりの撮影現場はいかがでしたか?

リウ監督 この作品は非常に低予算で、しかも新型コロナウィルスの流行のなか制作していました。準備期間も撮影期間もとても短かったですが、そうせざるを得なかったわけです。でも撮影スタッフは仲の良い人たちばかりだったので、気心の知れたチームでした。撮影中は毎日毎日いろんな問題が起きます。でも私は、突発的に何かが起きては処理しなくてはいけない、こういうことが割と好きなんです。困難に見舞われても、皆で解決していくのは楽しかったですね。

例えば、複数のシーンに分けて撮影する予定が、諸事情から撮影できなくなる。じゃあ、それをワンシーンだけの撮影にしようと、スタッフで力を合わせて知恵を絞ってワンシーンで撮り納める、ということもしました。あるシーンでは、走って撮影場所に行きワンシーン一発撮りで帰ってきた、ということもありましたよ。心理的には焦って緊張もしましたが、思い返すととても楽しかったし、良い現場だったなと思います。


—— 主人公ウェン・シャンの人物像について、フー・ゴーさんと事前にやりとりをかなり重ねたと伺いました。実際にフー・ゴーさんが演じられたウェン・シャンをご覧になり、いかがでしたか?

リウ監督 脚本を書いている時間がかなり長く、その時には彼の歩く姿や姿勢、背景は想像していましたが、いったいどんな男性なのかは私には分かっていませんでした。撮影に入り、フー・ゴーさんがモニターの中に現れたとき、ウェン・シャンはこの人だったんだと思いました。素晴らしい役者というのはこういうことなんだと思いましたね。フー・ゴーさんがこの映画で果たしてくれた役割、貢献度は物凄く大きいです。

また、内向的な人を演じるときに、良い役者はいろんな方法を使ってくれるとも思いました。例えば、動作で内向的な性格を表すとか、声や話し方もそうです。演じる人物と共鳴しつつ、その人が持っている様々な表現手段を使って演技の方法を作っていく、ということが出来る人だなと思いました。


©Beijing Benchmark Pictures Co.,Ltd

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※物語終盤の内容について触れています。鑑賞後にお読みになることをお薦めします※

『来し方 行く末』
2025年4月25日(金)より 新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

監督・脚本:リウ・ジアイン[劉伽茵]
出演:フー・ゴー[胡歌]、ウー・レイ[呉磊] 、チー・シー[斎溪]、ナー・レンホア[娜仁花]、ガン・ユンチェン[甘昀宸]
2023年/中国/中国語/119分/カラー/1:1.85/5.1ch 原題:不虚此行 字幕:神部明世 配給:ミモザフィルムズ
©Beijing Benchmark Pictures Co.,Ltd
【公式サイト】https://mimosafilms.com/koshikata/


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