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簪(かんざし)や櫛(くし)を贈る意味。愛を誓う贈り物たち|中国時代劇トリビア#74

今回のトリビアでは、一途で切ない思いを心に秘めた主人公が登場するドラマには欠かせない、“愛を誓う贈り物”について探っていきたいと思います! 

洋の東西を問わず、愛する人や大切な人に誓いの品を贈る風習は古くからあり、中国では多くの詩の中に、そうした男女の風習が詠まれ残されています。誓いの品を贈る際には「物」の価値ではなく「感情」に重きをおくことから、その贈り物の内容は様々で、とても独創的! 今回はその中でも代表的な誓いの品々をピックアップしてご紹介していきます。
  

その1.簪(かんざし)

「山河令」簪を贈るシーン
「山河令」第31話より ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.

簪は、15歳の誕生日に髪結い式である「笄礼(けいれい)」で髪を結うようになった時から使う女性にとっては大切な品で、「笄礼」を終えた女性は成人として認められ、結婚ができるようになります。女性から男性に愛する気持ちを伝えるときには、自分の髪を留めている簪を抜いて渡し、男性が女性に想いを伝えるときには、簪を買って贈りました。簪が高価であればあるほど、気持ちの誠実さを表現できるとか。 

また、簪の先が二つに分かれた形状のものを折って2本にして、各々1本づつ持つことで、離れていても再会して一緒になることを誓うという使い方もありました。人気ドラマ「山河令」でも簪が印象的に登場し、深い想いを伝えるアイテムとして描かれています。

その2.櫛(くし)

中国では髪はとても大切にされ、現代のように容易に切ることが許されなかったので、手入れ道具である櫛も大変大事な品でした。娘がお嫁に行く時には、その家族が女性の髪を梳く風習があり、それは祝福の気持ちであり、家族からの深い愛を伝える意味もあったそう。櫛を贈るということは、結婚の決意であり、共に白髪になるまで添い遂げるという気持ちの表れでもありました。

その3.香囊(匂い袋)

「長安 賢后伝」場面写真
「長安 賢后伝」第1話より  © 2019 Dongyang Yueshi Media Co.,Ltd and Mediaquiz International Holdings Limited.

ドラマ「長安 賢后伝」の中では、賀蘭茗玉が姉の賀蘭綰音の身代わりとなって西齊の司徒昆の元に嫁ぐふりをする際に、相手を慕う気持ちを伝える品として手渡していましたね! 色々な香料を調合して作られる匂い袋は、先秦時代には、若者が両親や年長者に会いに行く際に敬意を示すものとして携える習慣もあったとか。日頃から身に着けて使うものなので、恋人同士で贈りあったりする品となったそうです。

その4.玉佩(ぎょくはい)

「長安 賢后伝」チョン・イー
「長安 賢后伝」第5話より  © 2019 Dongyang Yueshi Media Co.,Ltd and Mediaquiz International Holdings Limited.

ドラマ「長安 賢后伝」の中では、盛州の第九王子・蕭承煦に、国王が遺した王位継承の証として密かに託されていました。玉佩は礼服の付属具の一つで、腰に帯びる装身具のこと。 古くは巫術者が人と神の意志を疎通させる道具として用いられた“玉(翡翠など)”は神秘性を帯びており、周代には徳を表すものとして、やがて士大夫の身分や地位を標示するものとなり、貴族の象徴となりました。そうした特殊な品である玉佩は、高貴な君子たちが大切な人に贈る品として好んで使うようになったとか。

確かに、歴史ドラマではたびたび男性から女性に玉佩を手渡すシーンが登場してきますよね! そんなとっても貴重で大切な品なのに、なぜか落としたり、紛失したりする率が高い!! これも時代劇あるあるですね。

その5.手帕(手布)

「夢幻の桃花」ガオ・ウェイグァン
贈り物ではありませんが「夢幻の桃花~三生三世枕上書~」でも、手帕による微笑ましいエピソードが登場。 ©2020 Tencent Penguin Pictures(Shanghai) Co.,Ltd

手帕は今でいうハンカチ。こちらも常に携帯する持ち物の一つであり、非常に身近な私物であるため、恋心の伝達にはよく使われていたとか。小さくて落としやすい物でもあったため、ドラマの一場面でみかけるように、拾った相手と親しくなって…という展開も多かったようです。

愛情の証としてのハンカチの使用は、唐王朝の早い時期に登場。白居易の親友・元稹の小説「鶯鶯伝」の中にも、手帕に詩を書き、互いの愛を表現する描写が登場するそうです。


最後に少し珍しい品もご紹介しましょう。

その6.紅豆

南国の植物で、日本名はトウアズキ(唐小豆)。この紅豆の木には、12月頃に花が咲き、春から初夏にかけて赤い豆ができます。盛唐の詩人・王維の五言絶句「相思」の中にも登場する紅豆は、出征して帰らぬ人となった夫を待ちわびた妻が流した血の涙が赤い木の実になった、など諸説伝承があるそうで、昔から中国文学の中で相思相愛の象徴として用いられてきました。

現代でもフェイ・ウォン(王菲)のヒット曲「紅豆」などで知られています。愛する者同士がいつでも一緒にいられるように、紅豆の実のブレスレットや、簪、ネックレスなどを贈り合うそう。ただし、この紅豆は日本のアズキと違って猛毒があって食べることができないので、ご注意を!

◆王菲「紅豆」(Faye Wong Official Channel)

【参考文献】
編者:黄能馥 陳娟娟 黄鋼
監修・翻訳:古田真一
『中国服飾史図鑑』第一巻 科学出版社東京株式会社

Text:島田亜希子
ライター。中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆する他、中文翻訳も時々担当。『台湾エンタメパラダイス』『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)にて執筆記事掲載中。

【中国時代劇トリビアのバックナンバー】

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