【ほぼ週刊 映画紳士タモ コラム VOL.41】「明日の映画は日記のようなものに、
愛の行為と同じように親密で官能的なものになるだろう」とトリュフォーはヌーヴェル・ヴァーグに対する思いを書いている(山田宏一・わがフランス映画誌)。その頃、ロジェ・ヴァディムもその仲間として作家主義に根ざした『素直な悪女』をものにした。ヌーヴェル・ヴァーグは新しいスタイルを多く生み出しているがトリュフォーと同じにフランス映画の伝統に囚われなかったヴァディムの役割はまた大きかったといえよう。
彼は2作目に『大運河』を選んだ。ここで光るのはジャズをいち早く取り入れたことだ。ルイ・マルの『死刑台のエレベーター』よりも早かった。片やジョン・ルイス率いるMJQだし、もう一つはマイルス・デイヴィスの奇跡的な即興演奏で知られている。これらが斬新な映像と相まって個性みなぎる作品を世に送り出していった。そのヴァディムの長編3作目は初の海外ロケを敢行したシリアスなメロドラマであった。

『月夜の宝石』。スペインの山村を支配する貴族と暮らす叔母を訊ねてきた純真な娘が貴族に復讐を挑む男と恋に落ちる。だが叔母もまた男を愛していた。男は叔母に会いに行った夜、ついに貴族を殺してしまう。追われる男を助けた娘が選んだのは命を賭けた逃避行だった。『殿方ご免遊ばせ』で大ヒットを飛ばし早くも絶頂期を迎えていたバルドーが古典的とも思われるドラマにどう挑むか、共演は妖艶なアリダ・ヴァリとイギリスの国際俳優スティーヴン・ボイドという芸達者たち。荒涼たる山間の地をさすらう二人をヴァディムはドキュメンタリータッチで追い続けることで新感覚の悲劇を創造した。ヴァディムにあってはヌーヴェル・ヴァーグとはバルドーの存在そのものだったといえる。

現実には愛するジャン・ルイ・トランティニャンと離れてスペインでの長期ロケをするバルドーには常に不安と絶望が襲う。ヴァディムは妙案を思いついた。それは毎週日曜日にジャン・ルイと会えるようにパリ=マドリード間の往復航空券をプレゼントするよう会社を説き伏せたのだ。飛行機処女のバルドーも愛のためならと4ヶ月、土曜日の夜に発ち月曜日の朝には撮影に戻る生活。なんとか持ちこたえていたバルドーだが後半の撮影中に凄まじい嵐に遭遇した。それこそ水も食べ物もない状況を乗り越え、やっとのことで帰国した後、残りのシーンはニースで撮影された。
予定をオーバーして完成した『月夜の宝石』はバルドー自身を変えてしまう二つの事柄をもたらした。一つはこの時から生涯にわたって続く犬や他の動物たちへの限りない愛護活動、そしてもう一つは男と女が傷つけあうことで深い絆に目覚めてゆくことは映画の中の出来事であるということ。なぜならこの映画の完成とともにあれだけ愛したジャン・ルイを失ったのだから。

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