Story

 

ソン・ビョンジュン

日本における韓流人気と比較して、韓国ドラマの“制作会社”は意外なほど知られていない。そんな中、唯一日本のファンにも“信頼のブランド”として認識され始めた制作会社が「グループエイト」だ。韓国において、『宮 ~Love in Palace』ほか多数の作品で社会現象を巻き起こし、未曾有の成功を収めてきた同社は、近年の韓国トレンディドラマの立役者と言っても過言ではない。今やアジア全土で熱狂的なファンを生む同社の作品へのこだわり、そして日本の市場への想いとは――。新作『タムナ~Love the Island』を携え来日したソン・ビョンジュン代表が、ビジネス的見地から語る

 

1960 年、韓国・大邱(テグ)生まれ。91 年にアメリカ・カリフォルニア州グローブ音楽院作編曲科修了。00 年から国際放送映像展(BCWW/Broadcast Worldwide)の企画・運営に携わり、02 年に「エイトピークス」を設立。同年、『明朗少女成功記』を制作、主演女優である“チャン・ナラ”シンドロームを韓国で巻き起こし、ヒットメーカーとしてその名を国内に知らしめる。その後数々のヒット作品を生み出し、05 年に「グループエイト」に社名変更。ドラマ制作者として辣腕を振るう傍ら、映画音響制作や作曲なども精力的に手掛けている。韓国ドラマ制作社協会(CODA)の副会長を務め、大学教授としても活躍。2010 年1 月には、女優イ・スンミンと19 歳の年の差結婚を果たし、韓国内で話題をさらった

 

グループエイト代表のソン・ビョンジュン氏は、実に多彩な才能を持った人物だ。ドラマプロデューサーとして活躍するほか音楽監督としても名高く、加えて韓国ドラマ制作社協会(CODA)の副会長も務める韓国エンタメ界のキーパーソンである。そんなソン氏に、グループエイト立ち上げの経緯から聞いた。

 

「私は元々、各国の放送番組を売買取引する国際放送映像展(BCWW/BroadcastWorldwide)を00年から企画・運営していましたが、ある時、台湾で韓国のTVドラマの需要があることを知り、自ら買い付けた作品を台湾に輸出するようになりました。そのうちに自分たちでドラマを作ろうという気運が高まり、02年にエイトピークスという名で制作会社を設立したんです。制作のことなど何も知らないままで始めたものですから、最初は完全な手探り状態。でも1作目の『明朗少女成功記』(02)が国内で最高視聴率44.6%を記録するなど幸運なスタートを切ることができました。その後も順調にヒット作に恵まれ、05年に社名をグループエイトに改めて現在に至っています。これまで15本のドラマを手掛けてきました」

 

韓国内で彼らの名声が高まるのと並行するように、日本をはじめとする台湾以外の国々にも韓国ドラマの人気が飛び火。いわゆる“韓流”は、アジア全土に市場を広げていった。

 

「正直、韓国ドラマが日本でここまで受け入れられるとは思っていませんでした。しかし、韓国ドラマは今やアジア全土に根付き、中近東にも人気が広がっています。これは喜ぶべきことですね。その一方で、製作費が暴騰するといった弊害が韓国国内で問題になっているのも事実です。様々な人間が“金のなる木”であるドラマに群がり、制作会社が林立した。やがて制作会社間で人気のある脚本家や俳優の取り合いが生じ、彼らのギャラがこの4~5年で8倍まで跳ね上がったんです。結果、作品はヒットしても製作費が回収できない――という悪循環に陥ってしまった。おそらく現在も、1~2社を除いてほとんどの制作会社が赤字でしょう」

 

版権や広告の収入で賄えない分を、日本のようにパッケージの売上で補うことは不可能なのだろうか。

 

「韓国にはDVD 市場がないに等しいんです。映像コンテンツの視聴は動画サイトやケーブルTV が主流で、DVD を買ったりレンタルしたりする習慣がほとんどない。一応、販売されていますが、ドラマは300セット売るのがせいぜいですね。 ところが、そんな状況下にもかかわらず、『花より男子~』(09)が韓国で4500セット、『タムナ~Love the Island』(09)に至っては7000セットも売れるという非常に珍しい現象が起きたんです。特に『タムナ~』は、当初の予定より放映回数が減ったこともあって完全版を望む声が多かったのですが、約6000人の方からブログなどを通じて『お金を先に払うからDVDを作ってほしい』という要請があったのには驚きましたね。『タムナ~』の成功以降、韓国ではDVD市場を拡大しようという動きが出てきていて、パッケージメーカーが人気のブログに広告を掲載したり、宣伝を最大限に拡大するためネットカフェに投資したり、さらにはブロガー向けのイベントを開催したりと、マーケットを獲得するために新たなプロモーションを展開するようになりました」

 

ドラマの制作に留まらずDVD市場開拓の先鞭をつけるなど、韓国の映像事業全体に多大な影響力を持つようになった同社。その作品群の大きな特徴が、新人俳優の起用だ。

 

「多くのTV局や制作会社が、ヒットを狙うためにスターありきの企画を考えがちですが、弊社はあえてその方法を避けています。知名度よりキャラクターに合うかどうかで俳優を選ぶのがモットー。それこそが、作品の完成度を高める上で最も重要なことだからです。だからといって、頭ごなしに『スターを使わない!』というのではなく、スターも新人も同じ位置付けで見ているだけなんですよ。もちろんスター主義が根強く残るTV局からはいい顔をされませんが、我々の方針は間違っていないと思います。実際、弊社は“非スター主義”でドラマ制作を続けてきた結果、損を出していないわけですからね」

 

そして、同氏が制作の上で重要視していることがもうひとつある。

 

「キャスティングも重要ですが、ドラマ作りで我々が何より重視しているのがストーリーラインです。ここには惜しみなく労力を注ぎます。例えば、良い題材を発見したら、まず新人の脚本家を5~6人集めて毎日のように会議を行い、その都度細かい展開を決めていきます。このようなやり方をするのは、製作費を抑えることも理由のひとつですが、第一には、作品の細部に至るまで自分たちが完全にコントロールしたいからなんです。もちろん、このようなやり方をしていると演出家との衝突は避けられないですけど(笑)。ただ、そうなった場合も弊社の意見を頑として通しますね。何といってもドラマを企画したのは私たちですから、作品の成否を演出家だけに委ねるわけにはいかないんですよ」

 

メディアに媚びず、俳優・演出家のバリューに頼らず、グループエイトが完全主導権を握って制作される作品の中でも、近年のヒット作には共通点がある。それは、「タイプの異なるふたりのイケメンに平凡な女性が翻弄される」という構図だ。

 

「主なドラマ視聴層は女性ですから、女性の方たちに受けるストーリーを考えることは何よりも重要です。例えば、『花より男子~』や『タムナ~』のように男性ツートップの構図にすると、自ずと三角関係が生じる。三角関係というのは少女マンガの王道であり、多くの女性が好む題材ですよね。ただ、我々はこの構図に固執しているわけではないんです。今後は、女性ふたりに男性ひとりという逆パターンにも挑戦しようと考えています」

 

とはいえ、この“男性ツートップ”の構図が多くの女性の心を掴み、日本でグループエイトの名を高めるきっかけになっているのは紛れもない事実だ。

 

「我々は日本のマーケットを非常に重視しています。日本はDVDの売上にも期待が持てますから、日本での成否は我々にとって死活問題だと言っていいでしょう。しかし、決して日本での人気を意識して企画を立てているわけではないんですよ。日本のコミックが原作の『花より男子~』を手掛けているので特にそう思われがちですが、本作の場合は日本版の人気ぶりを見たスタッフが『このような設定にすれば韓国でもヒットするかも』と発言したので、『だったら“花男”そのものをやろう』と私が提案したことが発端。決して日本人受けを狙ったわけではないんです。 我々が企画段階で意識するのは、ストーリーとキャスティングだけです。もし、『日本で売れるドラマを作ろう』と考えていたら、日本で人気のあるスターを起用し、そのネームバリューを後ろ盾に日本のTV局やパッケージメーカーから出資を募るでしょう。でも、それをしないのは、ひとえに作品の内容が良ければどんな国でも受け入れてもらえると考えているからです。幸い弊社には、『イタズラなKiss』など、作品自体の魅力でアピールできるタイトルが控えていますので、今後も日本の皆さんに喜んでもらえると思います」

 

かつて自国ドラマの輸出事業に関わっていた同氏だけに、海外における韓国ドラマの動向も気になるのではないだろうか。

 

「私が輸出に携わっていた頃、台湾では韓国ドラマより日本のドラマが数多く放映されていたのですが、現在は韓国と日本のドラマは同等のシェアを占めるようになったと聞いています。 ちなみに、中国のドラマのクオリティも速いスピードで向上していると聞いていますし、今後はアジア各国のドラマのクオリティが平均化していくでしょうね。つまり、現在大きなシェアを占めている日本や韓国のドラマがこの先もアジアマーケットを寡占する、という状況はなくなり、どの国の人々もあらゆる国籍のドラマを観るようになると思います。 何度も言うようですが、どの国でも愛され、しっかり収益を上げることができるドラマを作ろうと思ったら、真っ先に重視すべきは作品の完成度。それを実践している弊社が、韓国の制作会社の中で“赤字を出していない貴重な1~2社”に入っていることが、何よりそれを証明しています」

 

キネマ旬報社「月刊DVDナビゲーター」6月号
インタビュー記事より