傷だらけのふたり

イントロダクション

自分の思い通りに生きてきた。ただ一つ、思い通りにいかない事がある。それも人生でたった一度。

男は40年間、自分の思い通り好き勝手に生きてきた。これからも、何ものにも束縛されることなく、勝手気ままに生きるつもりだった。だが、ある日、思いがけず彼女に出会ってしまった。彼女をひと目見た瞬間、雷に撃たれたかのように、恋に落ちてしまう男。それは、男にとって、人生でたった1度の、最初で最後の恋だった。
『傷だらけのふたり』は、そんな無骨な男の、つたなくも一途な愛と、その愛によって手繰り寄せられる家族の絆や友情の物語だ。韓国では、2014年1月22日に公開され、観客動員数累計200万人のスマッシュヒットを記録。日本でも、〈SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014〉長編コンペティション部門で正式上映され、観客の感涙を大いに喚起した。素朴だが人間味にあふれ、眼を潤ませながらも、思わず笑みがこぼれるような、心を熱く揺すぶる珠玉のラブストーリーである。

高利貸しの借金取立てを生業とするテイルは、粗野で喧嘩っ早い反面、情に脆く案外お人好しの男だ。ある日、昏睡状態に陥った男の借金を取立てるために、病院を訪れたテイルは、そこで、甲斐甲斐しく父親の看病をする女性ホジョンと出会う。成行きから、娘のホジョンに借金の肩代わりを強いるテイルだったが、内心では彼女にひと目惚れしてしまう。何とかホジョンの気を引きたいテイルは、毎日1時間、自分とデートすれば借金を帳消しにしてもいいと持ちかける。最初は嫌々応じるホジョンだったが、ぎごちない逢瀬を重ねるうちに、テイルの意外な根の優しさに触れ、徐々に心を開いていく。

テイルを演じるのは、男の純愛を体現しきった『ユア・マイ・サンシャイン』(05)と、犯罪組織のN0.2を鮮烈に演じた『新しき世界』(13)で、2度の青龍映画賞主演男優賞に輝いたファン・ジョンミン。ノワールな作品からメロドラマ、コメディまで、様々な役を演じ分ける、幅広い演技力に定評のある実力派俳優だ。本作でも、甲斐性のないダメ男で、一度キレたら手のつけようのない乱暴者。一方では人情に厚く、口下手で愛に疎い分、誰よりもピュアで思いやりのあるテイルを、一瞬にして変化する豊かな表情で、リアルに活き活きと熱演。何より、彼の目からあふれ出すせつなくも愛しい男の涙に、誰もが胸を連打されることだろう。
ホジョンに扮するのは、溌剌としたヒロインを好演したドラマ「がんばれ!クムスン」(05)や、運命に翻弄されるヒロインを毅然とした美貌で演じた歴史ドラマ大作「朱蒙(チュモン)」(06~07)などで、国民的人気を博すハン・ヘジンである。銀行の窓口係の仕事のかたわら、父親の看病に勤しむ地味で健気な女性ホジョン。彼女の生活に、いきなり土足で踏み込んできたチンピラ、テイルを初めは嫌悪しながら、いつしか心を寄せていく女心の機微を、些細な仕草や目線の移ろいで、キメ細やかに表現。彼女の透明感のあるナチュラルな美しさが、映画にある種の気品を与えている。

2人を取り巻く登場人物たちも目が離せない。月利49%という高利の金融会社テサン実業の社長であり、テイルの旧友でもあるドゥチョル役には、大ヒット作『7番房の奇跡』(12)の寛大な模範囚が記憶に新しいチョン・マンシク。非情だが一本筋の通った裏社会の人間を演じ、独特の存在感を放つ。理髪店を営むテイルの兄ヨンイルを演じるのは、舞台でキャリアを積み、ドラマ「ファントム」(12)で一気に知名度を上げたクァク・ドウォンだ。警察沙汰を起こしてばかりいる弟に嫌気がさし、兄弟喧嘩が絶えないながら、実は誰より弟を気遣う兄の心情を緩急自在な演技で体現する。その妻でテイルと高校時代からの友人ミヨン役には、ドラマを中心に活躍する美人女優キム・ヘウン。夫や義弟に向ける辛辣な言葉もどこか憎めない、気丈でラブリーな妻ミヨンを自然体で演じ、夫婦の絆を際立たせた。さらに、叔父のテイルに友だちのように接し懐く、現代っ娘の姪ソンジを、弾ける若さでヴイヴィッドに演じきったカン・ミナ。ともすればバラバラになりそうな家族を1つにまとめる役回りを、気負いなく見せて清々しい。そして、70歳を越え、認知症が危ぶまれるテイルの父を演じた、ベテラン俳優ナム・イル。不肖の息子テイルと、その息子が唯一愛した女性ホジョンに向ける、寡黙ながらも深い情愛が、しっとりとした情感を醸し出し、温かな余韻を残す。ちなみに、理髪店で髭剃りの準備をするミヨンのお尻をしつこく触り、ヨンイルとテイル相手にひと騒動起こす男性客は、『新しき世界』でファン・ジョンミンと対抗する犯罪組織のNo.3を演じたパク・ソンウンである。

メガホンを取るのは、本作で長編映画デビューを飾ったハン・ドンウク監督である。10代で撮影現場に入り、照明部や演出部、助監督など、15年近くスタッフとして実績を積んできた若き中堅だ。ハン監督が助監督に就いた『生き残るための3つの取引』(10)『新しき世界』(13)に出演していた俳優ファン・ジョンミンと、「いつか濃厚なラブストーリーを撮ろう」という話が持ち上がり、彼の推薦により監督に抜擢されて、本作の企画がスタート。撮影監督ユ・オク、照明のペ・イリョク、プロダクション・デザイナーのチョ・ファソンほか、『新しき世界』を担った制作スタッフが再結集し、ハン監督のデビュー作を支えている。 これまで、男臭い映画との関わりの多かったハン監督だが、そういう荒々しい世界に生きる男でも、誰かと恋愛することはあるはずと思い至り、トレンディに流されない愛の普遍性を描こうとしたという。また、リアリティを重視するために、日常のディテールにこだわり、頻出する食事シーンでも、そのメニューや食べ方が、テイルとホジョンの関係性によって微妙に変化。父親の葬儀の後、テイルの前で骨付きの鶏肉を手づかみで食べるホジョンの気持ちは、その日を境に急速にテイルに傾いていくのだ。あるいは、2人の親愛の情をさりげなく表す“オナラ”。可笑しくも微笑ましい、現実味のある日常風景である。加えて、照明へのこだわりも徹底。その色合いや色調で、主人公たちの内面や、今までとは違う側面を引き出すために、編集段階まで色の調整に気を配った。そうしたハン監督の緻密でリアルな語り口と、主人公やその家族を見守る慈愛のこもった眼差しが、誰もが共感を抱ける、普遍的な愛のドラマを創り出したと言えるだろう。

ところで、物語の舞台となる群山(クンサン)市は、ハン監督いわく「もう1人の主人公」である。韓国メロドラマの傑作『八月のクリスマス』(98)の舞台ともなったこの街は、韓国では珍しく、日本統治時代の日本家屋が残る湾岸都市。母親の故郷であり、両親の恋愛の場所でもあったクンサン市が大好きだと語るハン監督は、この街に1、2ヵ月住み込んで、ソウルを舞台にした元の脚本を脚色。並行してロケハンにも力を入れ、この街独特の情緒や印象を映画に取り込んでいく。撮影も、セットは一切使わず、クンサン市でオールロケを敢行。大都会ソウルの喧騒から離れた、ゆったりとした時間の流れや、少々停滞感の漂うノスタルジックな雰囲気が、テイルとホジョンのエモーショナルで繊細な恋愛模様を彩り、絶妙な効果を発揮している。

ストーリー

三流チンピラと美しい銀行員。切ない恋が今始まる 。

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海に面した地方都市・群山(クンサン)で、高利の金融会社テサン実業の部長として、借金取立てに勢を出す男テイル(ファン・ジョンミン)。借金を取立てるために、ガソリンを巻き散らすばかりか、それを自ら飲んでみせる無謀で粗野な男である。その反面、借金をせがむ牧師に、会社の承認を得ていない金を個人的に貸したり、取立てた金から子供の塾の月謝分だけ返してやるなど、案外情に脆く人情の厚いお人好しでもある。ある日、昏睡状態に陥った男の借金を取立てようと、クンサン医療院を訪れたテイルは、そこで男の娘ホジョン(ハン・ヘジン)と出会う。父をベッドごと病室の外に引きずり出そうとするテイルやその部下たちを,半狂乱で阻止するホジョンは、仕方なく月利49%の覚書に捺印する。その彼女を見ながら、妙に心がざわめくテイル。実は、40歳にして初めて、ひと目で恋に落ちてしまったのである。

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ホジョンが市場の向かいにある銀行の窓口係だと知ったテイルは、彼女の退社時を待ち伏せし、一杯飲もうと誘い出す。だが、借金を返済するために腎臓を売る手もあるとほのめかし、ホジョンをすっかり怒らせてしまうのだ。それでも懲りずに、病室に行き、入院費さえ未納のホジョンの経済状態をチェックするテイル。彼は会社に帰ると、ホジョンが背負わされた「債務支払い約定書」を取り出し、社長に自分の旧盆のボーナスで彼女の借金を帳消しにして欲しいと交渉。社長の返事は「全額は無理だ。元金は戻してもらわないとな」だった。マスの入った絵入りの新しい覚書を作成したテイルは、ホジョンに「1日に1時間、俺と会うごとにマスを1つ塗りぶす。全部塗り潰したら、最初の覚書はお前にやる」と持ちかける。テイルの真意を測りきれず、初めは躊躇するホジョンだったが、最後には根負けし、彼の提案を受け入れることにする。

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ホジョンの昼休みを利用し、ランチを食べて一緒に歩く2人のぎごちないデートが始まる。何日目かで、病室で父親の躰を拭くテイルを垣間見たホジョンの気持ちが、ほんのちょっぴり緩む。今まで口にしようとしなかったランチに、おずおずと箸をつける彼女。だが、父を勝手に屋上に連れ出したテイルの軽率さに、再びホジョンの怒りが爆発。彼女にふられたテイルは意気消沈し、食事も喉を通らない。数日後、ホジョンの父親が死亡。閑散とした斎場に駆けつけたテイルは、悲痛に暮れるホジョンに代わって葬儀を采配し、2人の距離が一気に縮まる。一段落ついた後、テイルとホジョンは、銀行の屋上で、不器用にキスを交わし、愛を確かめ合う。2年後。刑の執行停止で出所するテイル。すぐにホジョンを訪ねるが、「罪悪感はないの?」とけんもほろろに拒絶される。

2年前。今の仕事を辞めて、チキンのお店を出そうというホジョンに従い、社長に辞職を願い出るテイル。自分がこれまでに貸した金を全部回収するために、牧師の所にやって来た彼は、そこで発作を起こし倒れてしまう。病院で組織検査を受けるよう言われ、すぐさま検査を受けた結果は…。 手ごろな店舗が見つかり、その契約当日。テサン実業が仕掛けた大掛かりな賭場で、賭け金が強奪されるというトラブルに巻き込まれたテイルは、ホジョンと待ち合わせた不動産屋に、とうとう姿を現さなかった。その夜、約束を破った理由を問い詰めるホジョンに、返す言葉もないテイルは、腹いせに傷害事件を起こし、そのまま服役してしまうのだった。

キャスト&スタッフ

ファン・ジョンミン <テイル>

ファン・ジョンミン

1970年9月1日、慶尚南道馬山(現・昌原市)生まれ。ソウル芸術大学演劇科卒業。1990年、当時一世を風靡した映画『将軍の息子』で俳優デビューする。90年代後半は舞台を中心に活動。2001年、『ワイキキ・ブラザース』で演じた三流バンドのドラマー役で注目される。以降、青龍映画賞新人男優賞を受賞した『ロードムービー(原題)』(02)や、『爆裂野球団!』(02)『浮気な家族』(03)『最後の狼』(04)ほか、様々な役に挑んで幅広い演技力を披露。2005年には、『甘い人生』など4本の映画に立て続けに出演。中年男のピュアな愛をせつなくも情感たっぷりに体現した『ユア・マイ・サンシャイン』(05)で、青龍映画賞主演男優賞に輝き、〈ビッグ・スリー〉と呼ばれたソル・ギョング、チェ・ミンシク、ソン・ガンホに続く演技実力派俳優の地位を不動のものとする。2009年には「アクシデント・カップル」にドラマ初出演。『生き残るための3つの取引』(10)『裏切りの陰謀』(11)ほかに続く、イ・ジョンジェ、チェ・ミンシク共演作『新しき世界』(13)では、裏社会を牛耳る犯罪組織のNo,2を強烈なインパクトで演じきり、2度目の青龍映画賞主演男優賞を獲得する。また、2014年12月公開の最新主演作『国際市場(原題)』(2015年5月日本公開予定)は、韓国で観客動員数1000万人を超える大ヒットとなる。

ハン・ヘジン <ホジョン>

ハン・ヘジン

1981年10月27日生まれ。高校時代に演技アカデミーで演技と映画武術を学び、ソウル芸術大学映画科在学中に、ウォンビン主演の日韓合作ドラマ「Friendsフレンズ」(02)で女優デビューを飾る。その後、「ロマンス」(02)「1%の奇跡」(03)などのドラマに出演。初主演となった朝の連続TV小説「あなたは星」(04)が高視聴率を獲得し、KBS演技大賞新人賞に輝いた。2005年には、「神のアグネス」のアグネス役で舞台にも挑戦。同年、ドラマ「がんばれ! クムスン」で演じた溌剌としたヒロインが好評を博し、MBC演技大賞最優秀女優賞をものにする。2006~07年に大ヒットを記録した、歴史ドラマ大作「朱豪(チュモン)」では、主人公チュモンと深く愛し合いながらも運命に翻弄されていくヒロイン・ソソノを熱演し、2年連続でMBC演技大賞最優秀女優賞受賞の快挙を遂げる。また、メディカル時代劇「済衆院(チェジュンウォン)」(10)では、SBS演技大賞プロデューサー賞を受賞。『アー・ユー・レディ?』(02)『達磨よ、ソウルへ行こう!』(04)『26年』(12)などの映画に出演するほか、化粧品や婦人服ブランドのCMモデルとしても活躍。2007年にはベスト・ジュエリーレディー賞を授かる。本作の撮影を終えた後、2013年7月にサッカー韓国代表選手キ・ソンヨンと結婚。

ナム・イル <テイルの父>

ナム・イル

1938年5月25日生まれ。夫人は女優キム・ヨンニム、息子は俳優ナム・ソンジン、その妻も女優キム・ジヨンという芸能一家。「龍の涙」(96)「王と妃」(98)「野人時代」(02)「銭の戦争」(07)「漢城別曲」(07)「ピンクのリップスティック」(10)など、ドラマを中心に歴史ものから現代劇まで幅広く活躍。2003年にはKBS演技大賞功労賞を受賞する。映画では、パク・チャノク監督作『嫉妬は私の力』(02)やパク・チャヌク監督作『親切なクムジャさん』(05)ほかに出演。

1974年5月17日生まれ。舞台俳優としてキャリアをスタートし、『オグ(原題)』(03)で映画デビュー。2010年、『哀しき獣』で演じた大学教授役で注目を集める。さらに、ソ・ジソブと共演したドラマ「ファントム」(12)で一気に知名度を上げ、2012年のSBS演技大賞ドラマスペシャル部門特別演技賞を獲得。同年に公開されたギャング・ムービー『悪いやつら』も大ヒットする。そのほかの映画出演作に、『ある会社員』(12)『ベルリンファイル』(13)などがある。

1974年12月11日生まれ。劇団「白首狂夫」に所属し、1990年代初頭から舞台で活躍。2004年に「1980グッバイモスクワ」でソウル演劇祭演技賞、2005年には「グリーンベンチ」で芸術賞演劇部最優秀賞、「旅行」で演劇評論家賞を受賞する。また、『銃の匂い』(01)『息もできない』(08)といったインディペンデント映画や、崔洋一監督の韓国映画『ス SOO』(07)のほか、『映画は映画だ』(08)『7番房の奇跡』(12)などに出演。独特のテイストを持つ名バイプレーヤーである。

1997年3月20日生まれ。2009年に『To the Sea』で映画デビューする。クォン・サンウ主演映画『痛み』(11)や、お茶の間の人気を独占した朝の連続TV小説「愛よ、愛」(12年・全175話)に出演。〈朝鮮三大悪女〉と呼ばれるチャン・ヒビンを新しい視点で描いた大型歴史ドラマ「チャン・オクチョン」(13)では、オクチョンの少女時代を好演する。大人になったらファン・ジョンミンとメロドラマを演じたいと語る、今後の活躍が楽しみな若手女優注目株だ。

1973年釜山生まれ。ソウル大学声楽科ソプラノ専攻を卒業し声楽家を目指すが、アナウサーに転向。美人お天気キャスターとして一時代を築く。結婚・出産後、本格的な女優として再出発。「ニューハート」(07)「鉄の王キム・スロ」(10)「赤道の男」(12)「I do I do/アイドゥ・アイドゥ~素敵な靴は恋のはじまり」(12)「オーロラ姫」(13)など、ドラマ話題作に次々と出演。役柄によってイメージが一変する演技派女優である。

10代で映画界に飛び込み、イム・グォンテク監督の『酔画仙』(02)『下流人生~愛こそすべて』(04)では照明部、リュ・スンワン監督の『ARAHA アラハン』(04)『クライング・フィスト』(05)では演出部に参加。さらに、リュ・スンワン監督作『生き残るための3つの取引』(10)、ユン・ジョンビン監督作『悪いやつら』(12)、パク・フンジョン監督作『新しき世界』(13)で助監督を務め、端役ながら俳優もこなす。『新しき世界』を撮影中の2012年夏、製作会社サナイ・ピクチャーズの社長と俳優ファン・ジョンミンが、十数年にわたり、スタッフとして撮影現場に携わってきた実績と実力を見込んで、本作の監督を依頼。既存の脚本を1年かけて脚色し、満を持しての長編監督デビューを果たす。

インタビュー

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014 ハン・ドンウク監督 Q&A

●ゲスト:ハン・ドンウク監督
●MC:長谷川敏行(SKIPシティ国際Dシネマ映画祭チーフ・プログラマー)
●通訳:根本理恵
●日時:2014年7月26日(土)
●会場:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭

ハン・ドンウク監督: 今日はご来場頂きましてどうもありがとうございます。長い時間の映画にもかかわらず、最後まで観てくださり本当にありがとうございます。

Q 公式カタログを拝見したら日本での公開があるとのことで、とても嬉しく思います。質問ですが、クンサンを舞台に選ばれている理由。また、クンサンを選んでるということは『八月のクリスマス』へのオマージュがあるのか? そのあたりのお話を伺えたらと思います。

A 私自身『八月のクリスマス』は大好きな作品ですが、オマージュではないんです。私自身クンサンという都市がとても好きだったので映画の舞台に選びました。クンサンはソウルとは違った何かドラマがあるような場所で、暖かい感じがする街なんです。シナリオを書くときも、クンサンという都市の独特の情緒や印象を映画の中に込めたいと思い、クンサンでシナリオを書きました。この映画の主人公はもちろんテイルとホジョンなんですが、もう1人主人公がいるとしたら、このクンサンという街も主人公だと思います。すでに過去の街というような印象もあるのですが、とても情緒のある都市で主人公の雰囲気とこの街の雰囲気がとても似ているような気がしました。

Q 韓国の映画を初めて観させて頂いたのですが、物語が上手くまとまっているなと思いました。1点気になる点があったので質問させて頂きます。なぜ主人公テイルの病気を脳腫瘍にしたのか?腫瘍が見つかってから2年という間に腫瘍も大きくなりますが、頭に膿が溜まっている状態で、あんな派手な喧嘩が出来るのか?と設定の不自然さを感じまして、どういう経緯で病気を決められたのか教えてください。

A 脳腫瘍にかかっていても派手な喧嘩が可能か?という点には気をつけて撮ったつもりです。出来るだけその点のディテールにこだわりました。例えば腫瘍が小さい時は喧嘩もかなり強い、ところが死が迫って来るあたり、理髪店で喧嘩をする時はもうすでに喧嘩が弱くなっている。というような差別化をして病気にかかっているというディテールを描きたいと思いました。そして脳腫瘍という病気にしたのは、時間との関係や死を目前にした時の状況をうまく出せるのではないかと思ったのです。脳腫瘍とは早い段階で治療を受けておけば、長く生きられる可能性もあるのですが、テイルの場合は自分の病気よりもホジョンを大切に思う余りに治療を受けなかった、という経緯やテイルのキャラクターもうまく活かせると思い沢山ある病気の中から脳腫瘍という設定にしました。

Q 私はとても韓国映画が好きで、特に暗くて苦しくなるような映画が好きです。この物語の設定からキム・ギドクの『悪い男』みたいな感じなのかなと思っておりました。夜のシーンでもオレンジ色の照明を使うなど、最初から最後まで明るい色で撮られていてそれが主人公のテイルの優しさを表しているよう感じました。特に一番好きなシーンはリビングの窓からの景色がとても素敵で、テイルの優しい感じと画面の明るい感じと一致して心に染みました。照明もあえて明るくする工夫をされたのでしょうか?

A まるで照明のことをご存知じのようなご質問ですね(笑)。今回はジャンルとしてはメロドラマ、ラブストーリーということで照明のトーンにこだわりました。撮影監督と照明監督と共に、シーンごとにしっかりとカラーやトーンで主人公たちの内面を描いてみようと話し合っていました。なのでメロドラマらしく、コントラストをつけながらそのシーンが持っている雰囲気や、ひとつのシーンの中で今までは見えてこなかった登場人物達の違った側面を照明で引き出せるのではないかと思いかなり色にも気を配りました。だから照明や色に気付いて頂けてとても嬉しいです。

Q 私は韓国ドラマが好きで1日3話観ているんですが、今日の映画は『恋に落ちた男(英題:MAN IN LOVE)』※という仮タイトルでしたが、観ていて『恋に落ちた女』でも良かったんじゃないかなと思いました。監督は恋に落ちるような大恋愛の経験はありますか?

A 今ちょうど恋に落ちているところです(笑)。この作品を作っている最中に激しい恋に落ちてしまって…今まさに大恋愛中です!

Q 恋愛のシーンや、とてもかっこいいアクションシーンがあってファン・ジョンミンさんの魅力が全部出たような作品だなと思いました。監督は『生き残るための3つの取引』の頃からお付き合いがあると思うのですが、ファン・ジョンミンさんへの思いがあったら教えてください。

A ファン・ジョンミン先輩はおいしいモノやお酒をよくご馳走してくれるいい先輩なんです。俳優としてはもちろんのこと、本当に一緒に仕事をしてみて色々と学ぶ点の多い方です。監督以上にキャラクターのことを一生懸命研究してくださいますし、今までの豊富な経験から沢山の意見を出してくださいます。現場にいる時はその中にいる一番上のお兄さんという感じで現場のまとまりを考えてくださって、場を和ませてくれる本当に懸命な俳優でとても大好きです。

Q 実際この作品はファン・ジョンミンさんと企画段階からお話をされていた?

A はい、そうです。

Q 最近の韓国映画はすごくいいですね。つい最近では『ジンクス』『怪しい彼女』という韓国映画を観たのですが完成度が非常に高い。この映画ももの凄くいい作品でした。今後の展望等あったら教えて下さい。

A 今シナリオを執筆しています。心温まる作品を撮りたいなと思ってまして、内容も私たちの身の回りに起きるような物語。自分と重ね合わせたり、自分を振り返るような映画を撮りたいと思ってシナリオを書いています。

Q とてもいい映画。もの凄く感動しております。監督が今回撮影されて苦労された点、もしくは裏話などエピソードがあれば教えて下さい。

A 苦労といえばこの映画の最初から最後まで、ずっと苦労のしっぱなしでした。ですが特にこれが大変だったというのは無かったです。スタッフや俳優の皆さんと本当に楽しく撮影出来たからです。ただ夏の暑い時期に撮影していたので、暑さは大変でした。それ以外は楽しかったです。撮影の時の裏話とかビハインドストーリーとかエピソードとか、撮影当時は本当に沢山あった気がするんですが、時間が経ってみると本当に楽しいことしか覚えてないですね。楽しく皆さんと遊びながら、休みの日にはお酒やお肉を食べながら撮影していたので、本当に楽しい記憶しかないですね。大きな事件や事故はありませんでした。

Q 助監督の時代には『悪いやつら』や『新しき世界』などかなりハードな映画の世界にいたと思うのですがメロドラマをやりたいと思ったのはどのような時に思ったのか? また優しい監督がハードな世界にいる時はどの様な感じで参加していたのかお聞きしたいです。

A 実は私の性格はハードでワイルドな感じですから現場で仕事をする時はちょっと怖い感じなんですよ。なので自分がもし監督をすることになったらアクション映画とかフィルムノワールの作品を撮るんじゃないかなと思っていたんです。でも少し考えが変わったんですね。スタッフとして参加していた作品の中には荒削りの男が出てくるものが多かったんですが、そういう人達にも家族は居るし、そういう人達も恋愛はする訳ですよね。ところがなかなかその部分を描いた作品が無かったような気がしました。だから自分としてはそういう人達の恋愛とか、彼らを取り巻く家族のことを撮ってみたいと思うようになったことがきっかけなんです。見た目が荒っぽい人達の恋愛がどういうものか一度やってみたいと思ってこの作品を作りました。次も心暖まる作品を取りたいと思っていてもまた、考えが変わってしまうかもしれない。けれど今は心温まる作品をもう少し撮り続けたいと思っています。

※映画祭上映時の仮タイトルは『恋に落ちた男』
写真協力:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭

クレジット

スタッフ

監督:ハン・ドンウク 『生き残るための3つの取引』『悪いやつら』『新しき世界』(助監督)
製作:パク・ミンジョン
脚本:ユ・ガビョル

キャスト

ファン・ジョンミン (テイル)
ハン・ヘジン (ホジョン)
クァク・ドウォン (テイルの兄ヨンイル)
チョン・マンシク (テイルの友人ドゥチョル)
キム・ヘウン (テイルの兄嫁ミヨン)
ナム・イル (テイルの父)
カン・ミナ (テイルの姪ソンジ)

原題:남자가 사랑할 때/MAN IN LOVE(英題)
2014年│韓国│カラー│シネマスコープ│5.1ch│120分│韓国語│日本語字幕:根本理恵
©2013 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. & SANAI PICTURES Co. Ltd. All Rights Reserved.
配給:アルシネテラン

テキスト:大和晶