神童

イントロダクション&ストーリー

小学生に大切な縫いぐるみを取られ、追いかけているうちに、商店街へと迷い込んだ中学生の少女うた。その商店街にある八百屋の2階からはピアノの音が聞こえていた。ピアノを弾いていたのは浪人し、音楽大学への入学を目指している青年 ワオ。その部屋へと自然に引き寄せられたうたは、自然にピアノを弾き始める。その音は商店街を通りすがる者、普段、ワオのピアノをうるさいと感じていたものを魅了してしまうほど、美しいものだった。


冒頭のシーン、音大を目指そうと思うくらいピアノに惹き込まれている青年ワオとの対比で、うたという少女の天才性がきちんと提示される。この作品は言葉を話す前にピアノと楽譜を覚えてしまった天賦の才能を持つ少女うたと、ピアノという楽器に惚れながらも壁を越えられずにいる青年ワオのクラシックという音楽を通じての成長の物語として描かれていく。それは天才という立場に苦悩をする少女と、どうしても出来ないことを抱え続ける青年の物語でもある。

幼い頃に才能あるピアニストの父を亡くしたうたは母親と小さなアパートで二人暮らしをしている。うたは指に影響があるからと体育すらも満足にやらせてもらえないなど、うたと彼女の才能に賭ける母親との関係は決して良好とはいえない。こうした状況はうたを精神的にも、肉体的にも追い詰めている。そんなときにうたはワオと彼のピアノに出会うのだ。


ワオとの出会いはうたの気持ちをリラックスさせ、半ば嫌悪していたピアノを弾く、楽しみを取り戻すことにも繋がっていく。一方、ワオはうたに出会い、ピアノを弾くということの厳しさ、可能性を改めて見出していく。お互いに大きな困難を抱えるが、ピアノを愛するという気持ちは全く同じふたりが、ピアノを弾く喜びを取り戻していく、手に入れていく。

コラム・見どころ

主演のうたを演じるのは主演作が相次ぐ、注目の若手女優 成海璃子。ワオを演じるのは今人気の若手実力派俳優 松山ケンイチ。共演は手塚理美、甲本雅裕、串田和美、吉田日出子、西島秀俊、柄本明、貫地谷しほりという実力派の面々。監督は西島秀俊主演の『帰郷』が印象的だった萩生田宏治。脚本は山下敦弘監督作品で高い評価を獲得している向井康介。原作はさそうあきらの傑作コミック「神童」。音楽は世界を舞台に活躍し、評価されるハトリミホが担当している。

ミュージシャン矢野顕子を撮影したドキュメンタリー作品のタイトルは確か『ピアノが愛した女』だったが、この作品のうたという存在は正にそのタイトルそのものである。もちろん、うたはピアノが好きだが、それ以上にピアノが彼女を放さないのだ。それがうたという少女の天才性でもある。一方、ワオはピアノにうたほど愛されてはいない。ただ、このふたりに共通するのはピアノを愛するという気持ちであり、自分の感情を鍵盤から弦に伝えようとすることに苦心し続けるのだ。その壁は天才だろうが凡人だろうが同等である。

この作品はクラシック音楽と一体になった物語性から「日本初のクラシック音楽映画」と銘打たれているが、それ以上に音楽の自由さ、可能性がきちんと封じ込めれているのが魅力になっている。音楽はもちろん、役者も魅力的であるので、映画ファンはもちろん、音楽が好きなら、ぜひ、劇場に足を運んでもらいたい。

キャスト・スタッフ

出演:
成海璃子/松山ケンイチ/手塚理美/甲本雅裕/西島秀俊
監督:
萩生田宏治
脚本:
向井康介
原作:
さそうあきら 『神童』(双葉社刊)
撮影:
池内義浩
音楽:
ハトリ・ミホ
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