黒い眼のオペラ

イントロダクション&ストーリー

舞台はマレーシアの首都クアラルンプール。路地裏で行われている怪しげな賭博。バングラディシュへと帰りたいがために、ありったけの金を手にこの賭博に手を出した男たちがその全てを巻き上げられていく。そこにいたひとりの男は払う金もなく、胴元の男たちに暴行を受け、重傷を負いながら夜の街をさまよい始め、倒れる。それを助けたのが拾ったマットレスを自宅のアパートに運ぼうとしていた男たちだった。傷を負った男はその男たちのひとりに手厚い看護を受け、体力を回復していく。

手厚い介護により、体力と気力を取り戻した男は街をうろつき始め、食堂で働く、ひとりの女性に出会う。彼女はその食堂の女主人の寝たきりの息子を介護し、食堂では給仕や雑務をするなど、休みなく働き続けている。男と女は言葉もなく、自然に惹かれあっていく。しかし、男は女と暮らすこともせず、あの手厚い介護をしてくれた男の所で暮らし続ける。また、食堂の女主人も男に一方的に惚れていく。

コラム・見どころ

デビュー作である『青春神話』以降、『愛情萬歳』『河』『ふたつの時、ふたりの時間』などヨーロッパの映画祭を中心に高い評価と熱狂的なファンを獲得している、台湾の映画監督ツァイ・ミンリャン。この作品『黒い眼のオペラ』はベルリン国際映画祭の銀熊賞ほか3賞を受賞し、台湾で年間興収1位を記録した『西瓜』に続く、監督の待望の新作であり、撮影は監督の故郷であるクアラルンプールで行われている。

この作品はモーツアルト生誕250年を記念した<オーストラリア モーツアルト生誕250年祭>参加作品でもある。これは「モーツアルトに絡んだ作品を撮れ」ということではなく、モーツアルト的な才能を持っているアーティスト、クリエイターたちに機会を与える試みだという。このことはツァイ・ミンリャンが同時代の革新者であり、時代を超えて影響を及ぼし続けるであろうアーティストとして認められたと考えてもいいのだろう。ちなみにツァイ・ミンリャン監督はこの作品の主役ともいえる完成せずに廃墟となった建物を見たときにモーツアルトの「魔笛」をイメージしたと語り、そこからの曲の抜粋を効果的に使用している。

作品に描かれるのはきらびやかで活気が溢れるクアラルンプールではなく、どちらかといえば、底辺の世界だ。拾ったマットレスを地下鉄を利用してまで運び込む男たち、料理屋に住み込みで働く女性、そして唯一、名と呼べるものを持つ主人公、彼らは好景気を信じ、この国にやって来たであろう移民である。男たちの暮らす、多分不法占拠のアパートの横には完成するはずだった巨大なビルが大きな池、コロシアム、劇場のように雨水を蓄えている。この水は男たちのアパートの生活水にもなっている。監督がこの建物を見たときにモーツアルトの「魔笛」をイメージしたというのは先に書いた通りだ。経済発展に飛び込み、経済発展に見放されたものたちである、移民たちと廃墟となった建物が主役の物語、モーツアルトの「魔笛」のイメージなどを重ねれば、この作品からは様々なことが浮かんでくるはずだ。

物語は美しい映像、街中に響き渡るストリート・ノイズ、モーツアルトの「魔笛」からの曲などをバックに状況説明もなく、淡々と揺れるように綴られていく。物語の結路であり、新たな始まりも予感させるエンディング・シーンは本当に美しく、ある意味では残酷だ。そうした残酷な世界の中で続いていく日常をツァイ・ミンリャンは愛情を込め、美しく切り取っている。

キャスト・スタッフ

出演:
リー・カンション/チェン・シャンチー/ノーマン・アトン/パーリー・チュア
監督:
ツァイ・ミンリャン
脚本:
ツァイ・ミンリャン
製作:
ブリュノ・ペズリー/ヴィンセント・ワン
撮影:
リャオ・ペンロン
製作総指揮:
サイモン・フィールド/キース・グリフィス/ヴァウター・バレンドレクト/マイケル・J・ワーナー
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