東京の嘘

イントロダクション&ストーリー

大学で教鞭をとる精神分析学者の瀬尾朔太郎のもとにひとりの女子高生がやって来る。彼女は瀬尾の教え子である長倉ちひろの妹である長倉ゆかりだった。瀬尾はその数ヶ月前に長倉ちひろの恋人である白バイ警官が妹のゆかりの前で拳銃自殺したこと。その白バイ警官と姉妹が三角関係になっていたことを知っていた。彼女の持つ魅力、そこにある事件の真相に瀬尾は引き寄せられていく。

コラム・見どころ

この作品は映像と音楽の新たなカタチを創造するということから始まった“Cinemusica”(シネムジカ/Cinema+Music)シリーズの第二弾である(“Cinemusica”シリーズでは第一弾として昨年(2006)『チェリーパイ』を公開している)。監督、脚本は第一弾も手がけた井上春生。作品は企画段階から、瀬尾=日本を代表する作家である島田雅彦を念頭に進められ、準備段階の脚本を読み、島田雅彦も出演を快諾。そこから島田雅彦自身のアイデアや提案も取り込んでいったという。この瀬尾のキャラクターを一言で表せば、表面上はクールでシックなのに内実は変態ということになる。女優だった美しい妻との関係はちょっとねじれた形で上手くいき、美しい自分の生徒を楽しみの実験台にし、事件が起こった場所でその顛末を想像しながら食を楽しむ美食家・・・・。正に島田雅彦の書いてきた作品に登場してきたキャラクターが画面に浮かび上がってきたようなものなのだ。

ゆかりの存在と話に興味を惹かれた瀬尾は当然のように白バイ警官が自殺をした現場で、そこにピッタリと来る美食を食したくなる。こうしてふたりは現場へと向かっていく。そこに長倉ちひろ、ゆかりの姉妹、瀬尾に関わる、それまでの様々な出来事が絡み、1本の線、真相が見えてくるのだ。ただ、その出来事を巡る状況は相当に奇妙だ。例えば、瀬尾と妻は肉体関係なしの性的関係を楽しんでいるし、その関係にはまり込んでいる教え子のちひろは安定剤が手放せないドラッグ中毒、・・・・。タイトルにある“嘘”を“病理”と変えてしまってもいいのではないかという気すらしてしまう。ただ、こうした“病理”は今ではありふれているし、それ自体が本当のような“嘘”なのかもしれない。

出演は瀬尾を演じる島田雅彦のほか、姉妹の妹役に『テニスの王子様』でヒロイン役を演じた注目の若手女優 岩田さゆり、姉役にモデルとして活躍し、この作品が映画デビューとなる菊池亜希子、瀬尾の妻役に多くの映画に主演し、出演している小山田サユリ。その他、JAI WEST、平山広行、佐藤寛子など。“Cinemusica”の売りのひとつである音楽の主題歌や挿入歌を歌うのは期待の新鋭女性シンガーソングライターnangi。彼女は作品にも出演している。

作品は“プロフェッサーのブログ”という画面に打ち込まれるブログで始まる。瀬尾や妻は自分が撮影した痴態ともいうべき動画を携帯電話で録画し、見せ合い、送り合い続けている。ゆかりが姉と瀬尾の奇妙な関係に気付くのもそうしたメールを通してだ。ここには当たり前の、よく描かれる“ネット社会”がある。作品では“ピーピング・トム”という言葉が使われるが、こうした“ネット社会”が一種の“ピーピング・トム”で“病理”かもしれない。しかも覗き見したものは本当のような“嘘”なのかもしれないのだ。

時間軸をぶつ切りにされているから分かりにくいかもしれないが、ちょっとミステリー的な物語は至極単純。逆にびっくりするような面白みもない。重要なのは登場人物たち、彼らが抱えているもの、その関係性だ。それが本当のような“嘘”、“嘘”のような本当になっていくのだ。そこには満たされない“欲望”を生み出してしまう、表層とは全く違う都会の“嘘”があるんだろう。そういうことをストーンと落とし込んでくる作品だ。

キャスト・スタッフ

出演:
島田雅彦/岩田さゆり/菊池亜希子/ジェイ・ウェスト/小山田サユリ/平山広行/佐藤寛子/nangi
監督:
井上春生
脚本:
井上春生
撮影:
木村重明
主題歌:
nangi 『jinx』
  • コメント

一覧へ戻る