絶対の愛

イントロダクション&ストーリー

整形手術を受ける女。手術を終え、マスクとサングラスで顔を覆った女は整形前の写真を入れた額を手に病院の外へと出るが、通りを急いで歩いてきた女性がぶつかり、その額を落とし、割ってしまう。ぶつかった女性はすぐに直しますと写真と額を持ち、その場を去るが、女はいなくなっていしまう。

行く宛てのない額入りの写真を手にした女性は彼氏との待ち合わせ場所である喫茶店に向かうが、そこのウエイトレスや駐車中の車に軽く接触した女性に愛想を振りまいているような彼氏に腹が立ち、その女たちも交えて、大喧嘩となってしまう。しかし、夜のセックスの際にはない起たない彼氏に「私をあの女だと思ってやってみて」と挑発。その時の関係はうまくいくが、彼女の中に残るのは虚しさでしかなかった。

コラム・見どころ

主人公の女性は彼氏とのセックスの最中に「毎日、同じ顔でごめんね」とつぶやき、突然消えてしまう。彼女が向かったのはあの女とぶつかった場所にある整形外科医だった。彼女の顔は不細工ではなく、整形外科医も手術を思いとどまらせようとするほど、整った美人である。そんな彼女がなぜ、整形しようとするのか。それは他の女に目移りし、他の女のことを想像すれば起つ彼氏の愛情を独り占めしたいと考えたからに他ならない。他人から見ればこの上なく幸せなはずなのに、自分の中ではその幸せを求める故に精神的に追い詰められているのが彼女という存在なのだ。

彼女が消えることで彼氏の気持ちも混乱してしまう。彼女が消えた理由は彼氏にはひとつも分からないし、連絡もつかない。先輩から女性を交えた呑みに誘われても気持ちが乗らない。ただ、性的な欲求や寂しさは紛らわしようもなく、そうした女性と事に及ぼうとするのだが、すべてがその寸前で理由もなく、うまくいかなくなってしまう。彼女が消えたこと、他の女とうまくいかないことで、男のイライラ、不満は高まっていく。そこに新しい女が現れる。彼女はあの喫茶店でウエイトレスの仕事をしていた。

誰もが分かるだろうが、男の前に現れた女は整形手術をしてその姿を変えてしまった、あの彼女である。彼女がいない間、男が事に及ぼうとする際にうまくいかなかったのは、その彼女が邪魔したからだというのも僕たち(観客)は分かっている。でも、男はそのことに気付かないまま、彼女との関係を続け、その状況に女は満足していく。しかし、女の中には彼氏が本当に昔の私のことを忘れたのか、昔の私以上に今の私を愛してくれているのかを試したい、今度は男を翻弄してみたいというような悪戯心、欲望がわきだして来る。物語はここから信じられない展開を示していく。

キム・ギドク監督はこの作品について「ここにお互いを激しく愛する恋人たちがいる。長い関係でもその愛は廃れず、胸の高鳴り、相性、情熱、そして思慕は変わらない。私は彼らに問いを投げかけた。非常に不条理な問いを。」と語っている。そして、この作品の原題は『TIME』という。移ろい行く時間の中で人間はその状況を受け入れ、耐えていくようになるが、受け入れ難いこと、耐え難いことももう一方には存在する。ちょっとの出来事なら耐えてしまうかもしれないが、現実的には耐え難いことの方が多い。でも、それを僕たちはなかったかのように、時間が解消してくれるかのように流していく。そういった中、真実の愛、愛とは一体何なのかという何一つとして同じ回答のない状況を描いたのがこの作品なのだろう(観れば分かるが、明確な整形批判ではない)。

誰かに覗き見されているような、逆に覗き見しているような、まるで身体を舐められているような映像感覚、想像すらしていなかった愛ゆえの痛みを超えた物語展開(これは捉えようでは“とんでもない”という部類にもなるのだが)はキム・ギドク監督ならではのものだ。比較的短いペースで新たな作品を撮っていく中、その作風はより洗練へと向かっていても、人間の内面を掬い取り、片足どころから半身まで泥に埋もれてしまう状況、哲学的な問いかけを生み出していくキム・ギドクの世界を味わってもらえればと思う。

キャスト・スタッフ

出演:
ソン・ヒョナ/ハ・ジョンウ/パク・チヨン
監督:
キム・ギドク
脚本:
キム・ギドク
製作:
キム・ギドク
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