マジシャンズ

イントロダクション&ストーリー

大晦日、雪が積もる奥深い山の中、ひとりの女性が一軒の山小屋の中へと入っていく。そこでは店主である男ともうひとりの男が酒を交わし続け、昔の思い出話に花を咲かせている。女性は彼らにまとわり付くが、気付かれることは一切ない。なぜなら、彼女はこの世には存在しないからである。この日の集まりは同じバンド“マジシャンズ”の仲間だった彼女を偲ぶために開かれたものであり、彼らはもうひとりのメンバーであるヴォーカルの女性を待ちわびていた。そんな中、ふたりはバンド時代の思い出話に没頭していく。

コラム・見どころ

亡くなった者を偲ぶために旧友と過ごすこと、そこで起きる出来事、この作品はそういった一夜を描いていく。テーマとしては良くあるものだろうが、この作品がそういったものと違うのは全てが“ワンカット”で撮られているということだ。作品の上映時間は95分、その間、カメラは一切途切れることなく(カットされることなく)、対象を捉え続けていくのだ。しかも撮り直しはなしの“ワンテイク/ワンカット”、これは本当に驚くべきこと、やろうと思ってもやることが困難な壮大な実験である。

監督は『スパイダー・フォレスト/懺悔』で大きな注目を浴びた韓国映画界の気鋭ソン・イルゴン。この作品について監督は「一番面白い演劇をワンカットで撮ってみたかった」と語っている。その言葉通り、作品はまるで演劇を見ているかのように、バーとなっている山小屋の中で、その山小屋の外の森で、現在と過去が交差しながら展開していく。撮影は35ミリのフィルムではなく、重さなど物理的な関係からデジタルカメラを使用して行っている。技術の進歩があったからこそ、可能になった作品でもあるのだ(それでも想像を超えた労力だったという)。

この作品は“ワンテイク/ワンカット”という驚異的な映像が売りとなるだろうが、そうした映像と共に魅力的なのが、「一旦は終わったけれど、終わっていない、続いている」物語である。CDデビューを果たし、アンダーグラウンドではあったが人気を獲得していた“マジシャンズ”というバンドはメンバーの女性が亡くなることで活動停止という結果に陥っている。男性ふたり、女性ふたりのこのバンドにはお決まりのような男女の恋愛関係があったが、バンドの活動停止でそれすらも終わりを告げている。「現実的には終わっている、でも頭の中では終わったとは思っていない」気持ちが、それぞれの過去の出来事の再現、思わぬ珍客の来訪という中で、繋がり蘇っていくのだ。“ワンテイク/ワンカット”という映像より、この普遍的な“終わっても続いている”青春物語にぐっと来てしまう方も多いはずだ。作品タイトルの『マジシャンズ』とはバンド名だけでなく、登場する人物それぞれに起こること、自らが起こすことも意味している。

出演は『非日常的な彼女』のチョン・ウンイン、『スパイダー・フォレスト/懺悔』のチョン・ヒョンソン、同じく『スパイダー・フォレスト/懺悔』のカン・ギョンホン、『箪笥』のイ・スンビ、『気まぐれな唇』のキム・ハクソン。舞台的な面白さを目指した“ワンテイク/ワンカット”の作品であるだけに、役者陣も舞台で活躍している役者を中心にセレクトしたという。


韓国はもちろん、日本で公開される韓国映画の中でも、ソン・イルゴン監督のような、作家性の強い、俗に“アート系”と呼ばれる作品の状況は芳しいとはいえない。この作品も“ワンテイク/ワンカット”という部分が大きく喧伝されるだろうが、物語は多くの方(特に登場人物と同年代である30代前後以上)にぐっと来るであろうものとなっている。そうした普遍的な部分とアート的な作家性が上手く融合した、より多くの方に注目してもらいたい作品だ。

キャスト・スタッフ

出演:
チョン・ウンイン/チャン・ヒョンソン/カン・ギョンホン
監督:
ソン・イルゴン
脚本:
ソン・イルゴン
撮影:
パク・ヨンジュン
美術:
ホン・ジ
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