酒井家のしあわせ

イントロダクション&ストーリー

関西の田舎町に暮らす酒井家は姉さん女房の照美、年下の旦那の正和、中学生の息子の次雄、まだ小学校に上がる前の娘の光の4人家族。息子が幼い頃、夫を亡くした照美は今の旦那と再婚。そして生まれたのが光だった。表面上はどこにでもある普通の家族だが、多少複雑な関係を抱えた上で成立しているのが、この酒井家である。

この日は次雄の誕生日、いつものような朝食の中、照美は「外に食事に行くから早く帰ってきなさい」と言って、部活に向かう次雄を送り出す。しかし、学校から友人の家へと遊びに行った次雄はその約束を守ることはなかった。一方、仕事上のミスで残業となった正和も食事の時間までは家に帰れなかった。結局、照美は光と寂しく食事をすることになる。

コラム・見どころ

物語の主人公はもちろん、酒井家の家族たちであり、その中でも人生において最も多感な時期にあるであろう息子の次雄である。次雄にとっては父親ではあるが、実の父親ではない正和との微妙な部分がある関係、「自分で飼っているんだから、金魚鉢の水を入れ替えろ」、「早く起きて、食事をしろ」などといつだって口うるさい母親、ちょっと生意気になってきた妹、学校での友人との関係や恋愛めいた出来事など、多少、複雑な家族関係が培ってきたもの、この位の時期なら誰もが経験するであろうことが、オフビート的な感覚を持ちながら描かれていく。

そんな「やってられないなー」というこの時期特有の気持ちを抱えている次雄の生活に信じられない出来事が起きる。父親が家を出るというのだ。それも新しい女が出来たからでなく、家族ぐるみの付き合いをしてきた、会社の同僚の男が好きになり、彼と暮らすのだという。その日を境に、父親は家から姿を消してしまった。次雄は更に持っていきようがない気持ちを抱えるが、母親はそうした気分を持ち前の陽気さ、強さで乗り越えようとする。でも、家族の中にピースが足りないことに変わりはない。そんなある日、天神祭で次雄は父親の姿を見かける・・・・。

この作品は呉美保(オ・ミポ)監督の劇場長編デビュー作である。彼女は大林宣彦監督作品などのスクリプターとして現場経験をつみながら、短編作品を監督し、高い評価を獲得してきている。この『酒井家のしあわせ』の脚本は「2005年サンダンス・NHK国際映像作家賞/日本部門」最優秀賞を受賞しており、待望、期待の劇場監督デビューといえるだろう。

出演は旦那役にユースケ・サンタマリア、妻役に友近というTVのバラエティーでも活躍するふたり。息子役に『血と骨』で注目を浴びた森田直幸、娘役に子役として幅広く活躍する鍋本凪々美。その他、濱田マリ、三浦誠己、谷村美月、赤井英和、本上まなみ、赤井英和、高知東生など幅広い面々が出演。音楽は監督が熱望した山崎まさよしが担当している。

「「笑い」で「涙」をサンドした、つまり、笑って泣けて笑って終われる映画が好きです」と語る呉監督はこの作品でももちろん、そういったものを目指したという(その判断は自分自身にはつかないらしいが)。僕が判断すれば、トーストしたパンに挟まれたジューシーなロースビーフとたっぷりの野菜という味わいで十二分にそうした部分をクリアしていると思う。家族、友人との起きる出来事は何ともいえないコミカルさを生み出し、そのコミカルさがきちんと家族という存在に戻り、またいつもの何ともいえないコミカルさへと戻っていくのだ。もちろん、その揺れ戻しの間には大きな壁が存在している。そうした物語としての面白さとともにこの作品は家族という、自分にとっては最も身近な集団について改め考え、感じさせるものを持っている。物語自体はどちらかといえば軽めで、深いリアリティがあるわけではないが、それぞれが抱えている気持ちや家族間にある隙間などのディテールにリアリティが漂っている。そこが心に訴えかけてくるのだ。

最近の日本映画は興行面での好調さとともに、若手の女性監督の台頭、活躍が目立っている。彼女たちの作品の特徴としてあげられるのは“何気ない日常を切り取り、描いていくことの上手さ”だろう。この作品で劇場長編監督デビュー(実は脚本も初めての長編ものだという)を飾った呉美保もそういった中のひとりに入ってくるであろう期待をこの作品ではっきりと示している。作品の面白さと同時にそういった部分を感じてもらえればと思う。

キャスト・スタッフ

出演:
森田直幸/ユースケ・サンタマリア/友近/鍋本凪々美/谷村美月/栗原卓也/濱田マリ
監督:
呉美保
脚本:
呉美保
製作:
若杉正明
撮影:
喜久村徳章
音楽:
山崎まさよし
  • コメント

一覧へ戻る