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イントロダクション&ストーリー

ある冬の日、ひとりの若い女性が刑務所から出所する。彼女は監察官のはからいにより美容室への就職を決め、実家へと向かう。そこには年老いた父親とまだ幼い弟が暮らしていた。彼女が実家へと帰った理由は母親の法事と弟に会うためだった。父親という存在はあったが、彼女との関係は弟のようにうまくはいってなかった。寡黙な父と大きなわだかまりを抱える彼女は予想通りに冷たくぶつかることになる。

コラム・見どころ

彼女が刑務所に入っていた理由は電車内で人を刺した罪をかぶったためだった。その裏には巨額の現金の強奪があった。出所した彼女はその分け前を得るために今はヤクザの幹部クラスに出世した仲間に顔を出すが、逆に「金庫に隠してあったその金を盗んだのはお前だろう。とっとと返せ。」と付け狙われ、その脅迫は魚屋を営む父親や弟にまで迫ってくる。

作品が描くのは父親と娘の関係の変化である。寡黙で不器用な父親、そんな父親に拭い切れぬ嫌悪感を持っている娘、そんなことを知らぬ、幼い無邪気な弟はこの両者をつなぎ止める存在である。この男の子がいるからふたりはおおっぴらにぶつかり合うことがない。でも、娘が抱え続けるわだかまりがなくなるわけではない。そこの大きな機転となるのは彼女が罪をかぶったヤクザである。

ヤクザは「金を返せ」と彼女だけでなく、家族にも脅しをかけ始める。父親の魚屋に行き、因縁を付け、弟も襲うぞと匂わせる。彼女は時には啖呵をきりながら、ヤクザの要求を飲んでいく。でも、彼女の前に父親がその要求を飲んでいたことを知る。これだけではなく、周囲の声や状況により彼女は父親の姿を改めて感じ取っていく。寡黙な、不器用な父はそのことを語ることなどなく、今までの態度を変えることもない。そこから彼女は腹立たしさと同時に父親の存在というもの感じ取っていくのだ。そして最後には彼女自身の大きな決断が待っている。

この作品はお正月第二弾として公開が決定しているイ・ビョンホンの最新作『夏物語』でヒロイン役を演じているスエの映画デビュー作である。TVドラマで“涙の女王”などと呼ばれていた彼女だが、この作品ではそうしたイメージを覆す役柄に挑戦し、この年の韓国国内の映画賞における新人女優賞を独占している。映画デビューに当たり、それまでのイメージを崩すというのにはそれなりの覚悟が必要だったと思うが、その覚悟がスエを女優として大きく飛躍させたことは間違いない。この作品でもスエ演じるジョンウンの存在は圧倒的に光っている。

光っているのはスエだけではない。父親役を演じるチュ・ヒョン(『友へ チング』)、幼い弟役を演じるパク・チビン(『青春漫画〜僕らの恋愛シナリオ』『奇跡の夏』)の演技も本当に素晴らしい。パク・チビンはこの作品が映画デビュー作だというが、子供らしい無邪気さ、可愛さがその存在から発散されている。娘と邂逅できないチュ・ヒョンはこの作品の肝であるが、言葉下手で不器用な、でも守るべきものを持った一世代前の父親像そのものである。

離れにある洗面所で顔を洗い、鏡に映った白いものが混じってきた髪、皺、染みだらけの老いた自分の顔を眺める父親という印象的なシーンから始まるこの作品は青く、くすんだ映像も印象的だ。そのくすみのような暗さは主人公である父親と娘の抱えるわだかまりであり、人生においてふたりが置かれている状況も表しているように感じられる。こうした映像の空気感、役者の素晴らしさが一体となり、物語は進んでいく。ヤクザを絡めているが、派手さを出すことなく、淡々と染み入るようにその設定を描いていく、イ・ジョンチョル監督の演出はこの作品が劇場長編デビュー作とは思えないほどの落ち着きがある。

ヤクザ、刑務所は実生活とは程遠いかもしれないが、ここに描かれている父親と娘の関係、心の機微は誰にでも覚えがあるのではないだろうか。態度で示す、語らない父親というのは日本ではいなくなりつつあるが、そうした父親像に共感に近い何かを感じる向きは年齢が上になればなるほど多いはずだ。そういった部分で心を強く打つ、韓国映画にはあまりみられなかったヒューマン・ドラマだ。

キャスト・スタッフ

出演:
スエ/チュ・ヒョン/パク・チビン/パク・ヒスン/オム・テウン
監督:
イ・ジョンチョル
脚本:
イ・ジョンチョル
配給:
ソニー・ピクチャーズエンタテイメント
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