トンマッコルヘようこそ

イントロダクション&ストーリー

1950年9月、朝鮮戦争が始まってすぐの頃。北朝鮮と韓国の国境付近の山中に韓国、アメリカを中心とした連合軍の戦闘機が墜落し、パイロットのアメリカ人は近くの村人に救助された。その近くでは北朝鮮の小隊が傷を負った兵士を伴い移動している中、待ち伏せをしていた連合軍の銃撃を受けた。生き残った3名は途中で出会った不思議な少女を追い、アメリカ人パイロットのいる村へたどり着く。この村にたどり着くのは彼らだけではなかった。戦場から逃げ出した韓国軍の兵士ふたりがこの村の別の住人と共にたどり着いたのだった。韓国軍の兵士2人と北朝鮮の兵士3人、平和な村の仲には一瞬にして緊張状態が広がる。

コラム・見どころ

コミュニティの真ん中にある台を挟んで北朝鮮軍の兵士3人と韓国軍の兵士2人は銃を手にずっとにらみ続ける。雨が降ってこようが、村人たちが寝ていようが、彼らはその体制を崩さない。でも、あの不思議な少女が兵士が手に持った手榴弾から信管を「指輪だ」と抜き、それが村人たちの食物庫で爆発したことから事態は変わっていく。最初に北朝鮮軍が武器を捨て、村人のために食料の収穫の手伝いをはじめ、韓国軍も負けじとそれにならっていくのだ。もちろん、そこにはアメリカ兵も加わっていく。

この結果は分かるだろう。彼らの間には様々な出来事を通してコミュニケーションが生まれ、心身が癒され、仲間、自分たちも村人だという意識が生まれていく。この村には戦争など存在しないような融和的な空気が流れている。ただ、現実的には朝鮮戦争は更なる激しさを増しており、連合軍の北への総攻撃体制が整えられている。しかも連合軍は総攻撃の前に行方不明になったパイロットを探し出そうとしている。こうした現実からこの夢のような村が逃れられるはずがなかった。

作品のタイトルにもなっている“トンマッコル”とはこの村の名前であり、“子供のように純粋な村”という意味を持っているという。ここでは誰も争わないし、誰も差別しない。老人も、子供も、ちょっと足りない子も普通に生活できる。現実にはありえないであろう、誰もが夢想した理想的なコミューンである。でも、この世界は現実にぶち当たる。それがパイロットを救出するためにやって来た連合軍だ。彼らは村人たちを“アカ(共産主義者)”扱いし、徹底的な暴力を振るっていく(これがなくても現実にぶち当たっていたことは作品を観れば分かるだろう)。“アカ”であるかないかが大きな意味を持った時代では“トンマッコル”という村はファンタジーでしかなかったかもしれないが、情報が今のように万遍なく行き渡らなかったことを考えるとあってもおかしくなかったとも想像することが出来る。そうした部分にこの作品を単なるファンタジーとしない現実性がきっちりと横たわっている。

作品の元となったのは韓国エンタテインメント界の奇才チャン・ジンが作・演出した舞台劇。彼はこの作品でも製作・脚本にかかわっている。彼が監督もした『ガン&トークス』『小さな恋のステップ』という作品を観た方なら分かると思うが、彼の作品は韓国映画界の中でも相当に異質な、軽く、ポップなノリを持ったものである。この作品の中でも爆発した食物庫からポップコーンが降ってきたり、村を震撼させているイノシシが農作業中に襲い掛かってくるシーンの描き方など、そのセンスは存分に発揮されている。

CM監督として大きな評価を獲得し、この作品が長編デビュー作となるパク・クァンヒョン監督はこの作品を撮影しながら「うわべではない、自然な人間になることを願った」という。それはトンマッコルに暮らす純粋な人々のようになりたい、学びたいということだが、この作品を観た多くの方がこれと同じ感想を抱くはずだ。ラストの山場のシーンはここでは触れないが(検索すればすぐに分かるだろう)、そこには韓国映画に何度となく描かれている“統一”というテーマがある。しかし、“トンマッコル”という象徴的な存在から理想すら叶わない現実を感じ取ってしまうかもしれない。また、久石譲が音楽を担当していること、そのテーマから宮崎駿監督の作品との共通性も感じる向きもあるだろう。

シン・ハンギュ、チョン・ジェヨン、カン・ヘジョンら役者陣の良さ、映像の美しさも光るこの作品は、ファンタジー映画はヒットしないとされていた韓国で800万人を動員し、2005年度の興行収入第1位を記録、数多くの映画賞も受賞している。大人から子供までが楽しめるエンタテインメント作品であるが、現実的な視点、そこから生じる渇望を忘れていないという部分がこの作品の強み、面白みになっていると思う。

キャスト・スタッフ

出演:
シン・ハギュン/チョン・ジェヨン/カン・ヘジョン/イム・ハリョン/ソ・ジェギョン
監督:
パク・クァンヒョン
原作:
チャン・ジン
音楽:
久石譲
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