雨音にきみを想う

イントロダクション&ストーリー

玄関のガラスを叩き割り、男が部屋へと侵入し、金目の物を盗み始める。男の名はチョッカン。盗みの仕事を終え、裏道を逃げていた彼は迷子になっていた少女シウヤウと出会い、少女を家まで送り届ける。そのあばら家のような家には少女の父親フェンとその妹ウィンインが暮らしていた。ウィンインは遺伝的な持病のため、身体の自由が利かなくなっている兄を介護し、姪にあたる少女の母親代わりとなっていた。チョッカンはそんなウィンインに興味を抱き、近づいていく。

コラム・見どころ

この作品はTVドラマ「アウトサイダー〜闘魚〜」で一躍大きな注目を集め、台湾を代表する人気スターとなったディラン・クォの映画初主演作である。ディラン・クォは日本では「アウトサイダー〜闘魚〜」の放映(この秋からは「アウトサイダー〜闘魚〜Ⅱ」も放映される)、映画主演第2作目である日本、香港、タイ合作によるオムニバス・サイコ・ホラー『BLACK NIGHT ブラック ナイト』の公開により、すでに熱狂的なファンを獲得しているが、更なるファン層の広がりが期待されている“華流”スターのひとりである。また、日本ではこの作品が初の劇場公開作になる香港の若手女優フィオナ・シッも大きな注目を浴びるはずだ。

表向きはバイクショップを経営しているが、凄腕の泥棒であるディラン・クォ演じるチョッカンは地元を牛耳る組織の誘いも断り、一匹狼を貫くことから、組織のボスに付け狙われていく。そんな状況でもチョッカンはウィンインの兄に電動の車椅子をプレゼントし、兄の話し相手、面倒はもちろん、シウヤウの遊び相手ともなり、ウィンインの信頼を徐々に獲得し、ステディな関係へとなっていく。しかし、そうした幸せな時間は組織とチョッカンとの関係により、当然のようにあっという間に消え去ってしまう。

この作品は暗い過去、状況を背負った、時代の狂騒というものからは常に外れてしまっている男女(ここはウィンインの兄や姪も含まれる)の物語といって過言ではないだろう。「縫製仕事なんてしないで、接客をすればもっと稼げるのに」と縫製仕事の発注者に言われ、仕事の価格を更に下げられるウィンイン。彼女は兄の面倒を見なければならないため、接客仕事など出来ないのだ。でも、この状況に彼女は不平不満を表すわけではない(そんなものはとっくになくなっているのだろう)。兄は逃げた妻へのやり切れぬ気持ちを隠している。その娘は記憶にもほとんど残っていないだろうお母さんに会いたいという気持ちから、家を抜け出したりする。チョッカンも自分自身の中にどうしても満たされない愛情を抱えている。ウィンインの家族は社会の最底辺に属し、そこを抜け出る手立てもない中、愛情のみで繋がっている。実はチョッカンは金持ちの家庭出身なのだが、家族の愛情というものを味わったことがない。そのため、この家族たちの密な関係に憧れ、けなげで母親的な愛情も持つウィンインに惚れていく。

この作品の舞台は香港なのだが、チョッカンは台湾出身で組織の連中からは「この台湾小僧、とっとと故郷に帰れ」と揶揄されている。一方、ウィンインは中国の南に位置する広東省の広州出身であり、兄に対し「もう帰ろうよ」と嘆きに近い声をあげるときがある。でも兄は逃げた妻ゆえに香港に暮らすことにこだわる。そうした部分からこの作品は生粋の香港人ではない、繁栄に憧れ、やって来た移民たちの香港の物語と受け取ることも出来るだろう。

そうした彼らが見ているであろう香港の街を捉えた映像も印象的だ。ここに描かれる香港は喧騒の街ではなく、そこからはちょっと外れた場所に位置する町だろう。作品はこの町を青みがかり、ちょっと暗く落ち込んだような色合いで描いていく。このどこか深みに落ちそうな、体に重石が乗っているような暗さが登場人物たちの心情にうまくマッチしている。

監督はジョー・マ。トニー・レオンとサミー・チェン共演によるラブ・コメディ『ファイティング・ラブ』など日本で劇場公開された作品は少ないが、香港ではヒット・メイカーと呼ばれる監督のひとりである。特にブレイク直前のアイドルの魅力を最大限に引き出す手腕、流行を取り入れるセンスは際立っており、Twinsなど数多くのアイドルが彼の作品で役者的な魅力を見出されているという。この作品でもディラン・クォ、共演したフィオナ・シッのアイドルではなく、役者と魅力を十二分に引き出している(逆にふたりにとっては挑戦しがいのある作品だったはずだ)。

作品は組織によって追い詰められていくチョッカンが自らの命を賭け、ウィンインたちに未来を託すようなものへとなっていく。この辺りはありきたりかもしれないが、ディラン・クォ、フィオナ・シッなど役者たちの魅力、物語の中のエピソードを上手く引き出しながら展開していくのでそうした部分を大きく感じることはない。ディラン・クォの映画デビュー作ということで、アイドル映画的に捉える向きもあるかもしれないが、そうした部分を超えたヒューマン・ドラマ的ラブ・ストーリーに仕上がっている。

キャスト・スタッフ

出演:
フィオナ・シッ/ディラン・クォ/チャン・コッキョン/サミュエル・パン
監督:
ジョー・マ
脚本:
ジョー・マ
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