王の男

イントロダクション&ストーリー

16世紀初頭。旅芸人の一座として働くチャンセンと女形のコンギルはその土地の実力者と民衆たちを魅了していた。しかし、男性とは思えない妖艶さを持ったコンギルは毎夜のように土地の実力者に弄ばれていた。それがその土地に留まる旅芸人たちの食事へとつながっていたのだ。チャンセンはそうしたことに我慢できず、ある夜、土地の実力者の部屋からコンギルを連れ戻し、この土地から逃げ出す。そして国で1番の芸を披露するため、都である漢陽(ハニャン)を目指す。

漢陽で別の旅芸人たちの芸を見ていたチャンセンは彼らを超える芸を披露し、観客を味方につけると共にその旅芸人たちも自らの仲間とする。ただ、漢陽は時の王ヨンサングンの暴挙により、人口が減り、旅芸人たちには生きづらい都となっていた。そこでチャンセンは王の噂をネタにそれを揶揄するような芸を始め、大きな人気を獲得するが、王の重臣たちにより捕らえられ、侮辱罪として処刑されることが決定する。ただ殺されることだけを待っているわけにはいかないチャンセンは王が笑えば侮辱には当たらないはずだと命を賭け、王の前での芸の披露を望むが・・・・。

コラム・見どころ

この作品は韓国国内で公開されるとすぐに大きな評判を呼び、結果的に1300万人が観るという韓国歴代動員No.1ヒットを記録(後に『グエムル-漢江の怪物-』に塗り替えられた)、韓国のアカデミー賞にあたる第43回大鐘賞では最優秀作品賞、監督賞をはじめ10部門を受賞、米国アカデミー賞外国映画賞の韓国代表作品にも選ばれるなど、今年最大の話題となった作品のひとつである(この10月に開催される東京国際映画祭ではオープニング・クロージング作品として上映されることが決定している)。この作品は大スターが出演している、大きな予算をかけているということで大ヒットしたわけではなく、作品の良さゆえに大ヒットをしており、この作品を契機に圧倒的な人気を獲得したのが、女形のコンギルを演じたイ・ジュンギだ。

作品はこのイ・ジュンギが演じるコンギルの美しさ、妖艶さ(腰を振るシーンの艶かしさなど、観ているうちに女性かなと感じるほど)、チャンセンを演じるカム・ウソン、時の王ヨンサングンを演じるチョン・ジニョンという韓国映画界を代表する演技派、イ・ジュンギと同様にこの作品でその魅力を大きく開花した王の愛妾ノエルを演じるカン・ソヨンなど、出演者たちの上手さが何よりも光っている。王宮のセットなども見事だが、そういった部分に徹底的に贅を持ち込むのではなく、あくまで物語性と役者の良さ、面白さで展開していく骨太で正統派的な作品だ。

チャンセンが命を賭けた、王の前での芸の披露は成功する。その芸の虜になった王は子供のようにはしゃぎ、旅芸人たちを王宮に住まわせる。しかし、それは重臣たちの反発を招いていく。その身なりからも分かるだろうが、旅芸人たちは身分が上の王宮の人間からすれば関わるべきではない、忌むべき存在なのだ。王の横暴さはこのことを契機に王宮の内部に向けて更に狂気のようにエスカレートしていく。それと同時に愛妾がいるにも拘らず、王はコンギルの存在に魅了されていく。王の部屋で何が行われているのか知らないチャンセンはそのことに対してイライラをつのらせていく。コンギルを中心にした精神的なゲイ・ムービー的展開はこの作品の大きな軸となっている。

暴君として伝えられているヨンサングンだが、王のそうした負の面だけでなく、なぜそうなったのかという想像を広げさせる部分にまで入り込んでいるのもこの作品の魅力だろう。そこには政治的な謀略や幼い頃の母親の死、亡き父親の存在に縛られ、どうにもならない状況を抱えた人間としてのヨンサングンが描かれている。ヨンサングンは日本でも人気の韓国ドラマ「チャングムの誓い」の冒頭に登場し、暴君として描かれているが、この作品ではそことはちょっと違う印象を受けるのではないだろうか(それでも暴君であることに変わりはないが)。

王を虜にした旅芸人たちの芸は、庶民が大いに楽しんだことも納得できる、色艶、権力への強烈な皮肉も含んだ笑劇である。旅芸人たちはこの笑劇を綱渡り、バク転などのアクロバティックな技、サムルノリ的な強烈なリズムに乗せ、スピーディーに展開していく。市井で、王宮で、時には観客のいない場所で演じられる、旅芸人たちの心情も表しているこれらの笑劇は作品の大きな見せ場であり、骨格となっている。

歴史的事実を想像力で埋め合わせながら作り上げたこの作品は歴史ものにありがちな大河ドラマではなく、王と芸人という相反する世界に暮らす男たちが貫こうとした道を描いた骨太で重厚感のあるドラマになっている。精神的な愛情、サスペンス的要素などを絡めながら進んでいくので、歴史的な背景を知らずとも十二分に楽しめるはずだ。

キャスト・スタッフ

出演:
カム・ウソン/イ・ジュンギ/チョン・ジニョン/カン・ソンヨン/チャン・ハンソン
監督:
イ・ジュンイク
脚本:
チェ・ソクファン
撮影:
チ・ギルン
音楽:
イ・ビョンウ
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