チャーミング・ガール

イントロダクション&ストーリー

自宅のアパートの観葉植物を丁寧に手入れする30歳代の女性 チョンヘ。平日は郵便局で働き、休日はなんとなく家でゴロゴロとしている彼女は、特別に大きな波風も立たないし、立てようともしない繰り返しのような日々を過ごしている。ある日の朝、彼女はずっと気になっていた捨て猫を拾い、自宅のアパートで飼うことにする。それは彼女が自らの手で選んだちょっとした変化であり、このことは彼女の生活を徐々に変えていく兆しとなっていく。

コラム・見どころ

部屋の観葉植物に霧吹きで水を噴きかけ、飛び散った水滴を丁寧にタオルで拭き取る女性の姿を手持ちのカメラで寄りながら捉えた生々しさのあるシーンから、この作品はスタートする。この普通の女性の生活を覗き見するような、生々しさはこの後もずっと作品を覆っていく。そんな彼女の日々はいつのように職場へと出勤し、無駄話も少なく、黙々と仕事をこなし、昼食もいつもと同じところ、仕事の後は同僚となんとなく食事をしたり・・・・と高も低もないかのように進んでいく。

避けられるコミュニケーションなら、避けていたいという彼女は買い物もネットを通じての通販が中心である(届いたばかりのキムチを指でつまみ食いするシーンは秀逸)。ある日、同僚から「靴も通販で買うのか」と言われた彼女はショップへと足を伸ばすが、普通の人にとってはあまり気にならないだろう店員の対応に怒りが湧き出してくる。それは彼女の持つ過剰なまでのナイーブさであり、自己防衛本能でもあるだろう。

そういった日常に少し変化が生まれ始めるのは彼女がずっと気になっていた捨て猫を拾ってからだ。猫のために病院で予防接種などをし、昼休みにはアパートへと戻り、夜も同僚との食事を切り上げようとする気持ちが彼女の中に生まれ始める。でも、そんな気持ちとは関係なく、猫は出てほしいときに姿を現さず、与えた食事も食べようとしない。彼女の気持ちとは裏腹に、当たり前だが、猫は勝手気ままに日々を過ごしている。

彼女が高も低もないような日々を過ごしている理由は徐々に明らかになってくる。例えば、観葉植物の鉢の下には彼女が大切にしていたであろう本が置かれている。ずっと置かれていたはずなのに、彼女はガビガビになったその本を手に取り、パラパラとめくり、同じ本を書店に探しに行く(実は彼女の書棚はそうした本で埋められている)。それは絵画のデッサンの手引き本で、部屋に無造作に置かれている油絵などから、彼女が画家を目指していたであろうことが分かる。その他にも母親との思い出、前に付き合っていた男性のことなど、ふとした瞬間に彼女は過去のことを思い出し、その記憶に足を止めてしまう。彼女は過去の記憶、痛みに自分の人生を封じ込められ、封じ込めているのだ。

日常というのは繰り返しのように坦々としているものだし、毎日が高の状態、低の状態であるわけでもない。でも、大好きな人と会ったり、羽目をはずしたり、その結果、ギャフンという事態に陥ったりもする。あまりの痛手から、自分の中に引きこもりその高低を避けることもできるだろう。この作品の主人公は自分をそういった状況へと置き続けながらも、どこかでそれを抜け出すことも欲している。そのために彼女は昔の本をいくつも買い込み、自分の本棚に納め、後先も考えず猫を飼ったりしようとする。それに彼女がどんな態度をとろうが、周りは徐々に必然的に変わり始めていく。

誰もが蓋をしたいような自分の過去を持っているが、それを吹き飛ばせるほどの若さ、強さを持っているわけではない。でも、そこを何とかしたいとも考えているはずだ。主人公の女性もどこかでそう考え続けている。そのために勇気を振り絞り、ある行動に出たり、ある事実に決別しようとまで考える。そんな彼女の姿をカメラはひたすらに寄りながら捉えていく。作品は韓国映画らしいラブコメでも、悲恋ものでもないが、こうした彼女の生き方、行動は大きな共感を生み出していくだろう。

監督はこの作品が長編デビュー作となるイ・ユンギ。この作品で“第2のキム・ギドク”とまで賞賛された彼は第55回ベルリン国際映画祭のNETPAC賞、第9回釜山国際映画祭最優秀新人作家賞を受賞するなど世界中の映画祭で高い評価を獲得し、今後の活躍も大いに期待されている。主演は「ロマンス」、「LOVE・サラン」などのドラマで活躍し、この作品で待望のスクリーンデビューを果たしたキム・ジス。彼女もこの作品で第26回青龍映画賞新人女優賞、シンガポール国際映画祭新人女優賞など圧倒的な評価を獲得し、この後の映画主演作も立て続けに決定している。

「第2のキム・ギドク」という評判からは“アート系”、“難解”というイメージが湧いてくるかもしれないが、そうではなく、この作品は優しさ、ユーモラスさにも満ちたものとなっている。韓国映画界期待の新星の美しく、生々しい映像を味わいながら、キム・ジス演じる主人公と自分を重ね合わせてもらえればと思う。

キャスト・スタッフ

出演:
キム・ジス/ファン・ジョンミン/キム・ヘオク/イ・デヨン/ソ・ドンウォン
監督:
イ・ユンギ
原作:
ウ・エリョン
脚本:
イ・ユンギ
撮影:
チェ・ジンウン
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