春の日のクマは好きですか?

イントロダクション&ストーリー

この日、彼女は入院する三文小説家の父親に頼まれ、図書館で画集を借りてきた。電車の中でその画集をうっとりと眺める彼女はあるメッセージをそこにみつける。それは愛の告白であり、別の画集へと続くものとなっていた。彼女はそれが自分に宛てて書かれたものと思い込み、見ず知らずの相手にヴィンセントと名付け、自分の運命の人と確信する。一方、そんな彼女に一途の想いを寄せ続ける男性に幼馴染のヨンハがいた。この日、地下鉄で運転手として働くヨンハに彼女が気づいたことから、ふたりは偶然の再会を果たす。ヨンハはそれを運命の再会と信じるが、彼女の気持ちは存在するかも分からないヴィンセントへと傾いていた。

コラム・見どころ

スーパーのレジ係として働くヒョンチェはちょっと変わった女の子。可愛いルックスなので男の子にもてそうだが、デートではスルメを食べたり、映画の物語にちょっかいを出したりとその場のムードを全く考えないため、うまくいかない。でも、本人はそのことに全く気づいていない。

様々なスタイルの恋愛映画を送り出してくる韓国映画。そういった中でもこの作品はちょっと異色の部類になるのかもしれない。主人公は恋に恋焦がれて王子様の出現を待ちわびる女の子と彼女に一途な想いを寄せる対象外の男の子という、よくある設定なのだが、物語の展開の仕方にちょっとした仕掛けがあり、それが今までの韓国映画にはなかったような色あいを生み出しているのだ。

その大きな仕掛けのひとつが画集。主人公のヒョンチェは入院している小説家の父親に頼まれて図書館で画集を借りてくる。最初は確か、フレデリック・ステュアートのものだったと思うのだが、その中に彼女は手書きで書き込まれた恋文のようなメッセージを発見するのだ。それはそのページの絵画にしっくりとした美しい文章で、最後には「この画集を読んでください」というメッセージまで添えられていた。その指示通りの画集を眺め、メッセージを読み、次の画集へと手を進めるうちに彼女はそれがまるで自分の境遇を知る誰かが書いたものと確信していくようになっていく。彼女にとっての王子様は見ず知らずの、美しい文章を書く男性。いつの間にか彼女は彼にヴィンセントと名付け、何とか会えるようにと動き始める。

大きな仕掛けのもうひとつは小説のように細かく章立てされたエピソードにより、出来上がっていく物語だる。印象的なタイトルのテロップが浮かび上がり、そのタイトルに即したような、全く関係のないような出来事が描かれ、それが積み重なり、そこから物語が生まれてくるのだ。

そのエピソードはヴィンセントの正体を知りたいがゆえに、友人に図書館の司書を誘惑させて、貸し出しリストが分かるコンピューターをチェックしたり、挙句の果てにその司書こそ運命の人に違いないとちょっと変わった、ある意味ではキュートかもしれないデートにまで出かけていくという奮闘、彼女の頭の中の妄想であったりする。この学芸会のような雰囲気もある妄想が相当に楽しい。そして、そこでは彼女に一途な想いを寄せ続ける男性ヨンハの気持ちも描かれている。

このヨンハに対して彼女は恋愛的な感情を持ちきれず、友人を「付き合えば」と紹介までしてしまうのだが、それにもかかわらず、夜中にラーメンを食べたいというメールを受け取れば、ガスコンロとインスタントラーメンを抱えて駆けつけ、彼女の体を心配しビタミン剤やマッサージ器をプレゼントするエピソード、彼女を想うがゆえに強引になれない忸怩たる気持ちを抱え続ける部分には多くの女性はキュンとなってしまうのではないだろうか。

このヨンハを演じるのが、韓国のトップモデルとして活躍し、TVドラマなどの出演により、日本でもジワジワとファンを増やし続けているキム・ナムジン。ここではちょっと田舎臭い、鈍感な男をうまく演じていが、実際の彼はスタイル抜群で、本当に格好いい。今後の役者としての活躍も大いに期待だ。ヒョンチェを演じるのは韓国映画のみならず、日本映画『リンダ リンダ リンダ』も印象的だったペ・ドゥナ。ここでの彼女はちょっとずれた感覚(デートでオヤジのように映画にいちゃもんつけたり、スルメを食べたりするわけだ)を持つ、夢見がちな女の子という今までとはまた違う役柄を熱演している。

フレデリック・ステュアート、ギュスターヴ・カイユボット、フランシスコ・ゴヤなどの名画とそこに綴られた言葉、主人公の気持ちの変化と彼女に一途な想いを寄せる幼馴染の気持ちにはうっとりとした優しい気持ちが湧き上がり、章立された中の印象的なエピソード、美しい映像、耳障りのいい音楽などが今までの韓国映画には余りなかったポップでキュートな味わいを感じる。しかも物語の展開は一筋縄ではいかない。そんな面白く、最後には愛しさが染み渡ってくるような小品だ。

キャスト・スタッフ

出演:
ペ・ドゥナ/キム・ナムジン/ユン・ジヘ/イ・オル
監督:
ヨン・イ
脚本:
ファン・ジョユン
音楽:
ユン・ジョンシン
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