クライング・フィスト

イントロダクション&ストーリー

ひとりの男が繁華街のど真ん中にヘッドガードとグラブを身に付け、メガフォンを手に周囲へアピールを始める。彼の名はカン・テシク。アジア大会で銀メダルまで手にした人気ボクサーでありながらも事業に失敗し、何もかも失った彼は“殴られ屋”として日々の糧を稼ぎ出そうとしていた。一方、ひとりの若者はカツアゲと喧嘩の日々を送っていた。彼の名はユ・サンファン。警察へは父親が謝りに行き、常に事なきとなっていたが、今度の喧嘩では相手が悪く、示談金を要求された。それを稼ぐために高利貸しを襲い、彼は少年院へと送られた。“殴られ屋”の男はTVに紹介されることで有名になるが、逃げていた高利貸しに見つかり、絶望の中へと戻っていく。そこで彼はボクシングの新人王戦のポスターを目にする。一方、サンファンは少年院で因縁をつけられ、その相手に対抗していく中でボクシングに出会い、その魅力に取り付かれていく。ふたりには様々な出来事が起こっていき、そうした中、新人王戦の日は確実に近づいてくる。

コラム・見どころ

韓国映画界の異才リュ・スンワン監督が人生の底を舐めたふたりの男がボクシングを手に再び自分の人生を取り戻していく様を熱く描いた、カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞作。

韓国映画界の中では独特の色合いを持つ監督であるリュ・スンワン。日本で劇場公開されたのは韓国版カンフー作品『ARAHAN/アラハン』だけだが、初の長編作品となった『ダイ・バッド死ぬか、もしくは悪(ワル)になるか』(劇場未公開、ビデオのみ)という荒々しくも強烈な作品を残し、監督業だけでなく、俳優など縦横無尽に活躍し続け、“韓国のタランティーノ”などとも形容されていた。この作品がカンヌ国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞したことによって、リュ・スンワン監督はキム・ギドク監督、パク・チャヌク監督、ホン・サンス監督などと共に世界が注目する韓国映画界の才能のひとりになったことだけは間違いない。

この作品はふたりの実在するボクサーをモデルに作り上げている。そのひとりは少年院でボクシングに出会い、プロボクサーとして更生し、その後、K-1など異種格闘技に進出したソ・チョル。もうひとりは新宿の歌舞伎町で“殴られ屋”という商売を始めた元プロボクサーの晴留屋明(ハレルヤ アキラ)である。リュ・スンワン監督とプロデューサーはこのふたりのボクサーに関する別々のドキュメンタリー番組を観て、大いなる興味を覚え、“それぞれに大きな波乱の中を生きてきたボクサーが同じリングに立つとしたらどうなるだろうか”というイメージのもとに作品の制作へと取り掛かっていく。

出演は少年院上がりのソ・チョルをモデルとしたボクサーのユ・サンファン役にリュ・スワン監督の作品には欠かせない、注目すべき若手俳優である実弟のリュ・スンボム。晴留屋明をモデルにしたボクサー カン・テシク役に韓国を代表する俳優チェ・ミンシク。チェ・ミンシクは『オールド・ボーイ』以降、アクション作品への出演を封印していたのだが、男の生き様に大きく共感し、リアルなファイトシーンもあるこの作品への出演を快諾している。

作品の中でふたりが交わるのはクライマックスのシーンである韓国のボクシングの新人王戦の決勝の試合のみだ。お互いにどのような生き方をしてきたのか、どのようなものを抱えているのかは一切知らない。ふたりはゴングがならされる前にグラブで握手(タッチ)を交わし、自らの人生で手にしなけらばならないプライドのために6ラウンドの戦いへと入っていく。年齢も若く、少年院でボクシングを発見したユ・サンファン、“殴られ屋”として街角に立ち、ボクシングしかないことに気づいたカン・テシク。それぞれに落ちる所まで落ち、全てを失ってきた男たちはここで最高の表情をみせる。リュ・スンワン監督は「この表情を映し出したいがために『クライング・フィスト』という作品を撮った」と語っている。

クライマックスの新人王戦決勝のリアル・ファイトのシーンなどボクシング映画としての見ごたえも十二分のものがあるが、この作品でなんといっても印象的なのはふたりの顔、眼の表情である。どちらも言葉でうまく説明する手立てを知らない、先に手が出てしまうような寡黙な人物なのだが、落ちるところまで落ち、そこでなんとか這い上がろうともがいている様の全てがその表情に表れているのだ。アクション作品の出演を封印していたチェ・ミンシクが出演を快諾した理由もこのふたりの表情を観れば、感じ取ることが出来るはずだ。この作品はふたりの年齢に関係なく人生の辛酸を舐めた男たちが自分を支えてくれる人々に気づき、それしかなかったボクシングを手立てとして再生していく熱い、胸を打つヒューマン・ドラマなのである。

キャスト・スタッフ

出演:
チェ・ミンシク『オールド・ボーイ』/リュ・スンボム『品行ゼロ』『ARAHAN/アラハン』
監督:
リュ・スンワン『ARAHAN/アラハン』
撮影:
チョ・ヨンギュ
照明:
チョン・ソンチョル
音楽:
パン・ジュンソク
美術:
パク・イリョン
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