ウォ・アイ・ニー

イントロダクション&ストーリー

物語の主人公は看護婦として働く若き女性シャオジュー。彼女は結婚を約束した男性がいたが、彼は不慮の事故で亡くなってしまう。その場には彼女と彼の親友ワン・イーもいた。それからしばらくして、ワンはシャオジューと再会する。それはワンの友人のカップルが闇で中絶するためにある病院を訪れたときだった。ちょっと気まずい気持ちを抱えながらも、ワンとシャオジューはお互いに惹かれあってゆき、シャオジューの執拗な程の結婚願望から、目出度く結婚することとなる。しかし、結婚生活はふたりが考えた理想とは程遠い物となっていく。

コラム・見どころ

ただいま』でベネチア国際映画祭銀獅子賞受賞など世界的な評価を受けた中国第六世代を代表する監督チャン・ユアンが描く、愛が生まれ、壊れるまでの物語。

映画のタイトルである『ウォ・アイ・ニー』は多くの方がご存知だろうが、中国語で書くと“我愛[イ尓]”、“I LOVE YOU”という意味になる。主人公であるシャオジューは執拗なくらい、言葉での愛の確認を求め、それゆえに結婚を急ぐという行動へとはまっていく。映画のオープニングでは顔を寄せ合い、愛と結婚の確認をするシャオジューと不慮の事故でなくなってしまう恋人の姿がクローズアップで描かれているのだが、この姿は今度は全く同じようにシャオジューとワンの間でも繰り返されていく。何のために彼女が結婚を急ぐのかという理由は明確に描かれていないのだが、ラストになればその理由も自ずと分かるようになっている。

ただいま』、『クレイジー・イングリッシュ』などの作品で世界的な評価を獲得しているチャン・ユアン監督は中国第六世代を代表する監督のひとりである。中国映画はこの世代という表現を使い、監督と作品を結び付けているのだが、チャン・ユアン監督が属する第六世代とは1960年代から1970年代にかけて生まれた監督で、1980年代後半以降に作品を発表してきている監督たちと括られることが多い。作品の大きな特徴となっているのは、自分たちの生活に根ざしたドラマを描いていることだろう。それは貧富の差など必然的に政府批判へと繋がることも多いため、検閲の厳しい中国国内では上映されないことも多い。中国映画の評価が世界的に確立したのは「文化大革命」という現実を背負ったチェン・カイコー監督、チャン・イーモウ監督、ティエン・チュアンチュアン監督らの第五世代の功績による部分が大きく、ここにはもちろん中国の改革開放路線も絡んできている。この作品のチャン・ユアン監督、『世界』のジャ・ジャンクー監督、『わが家の犬は世界一』のルー・シュエチャン監督はそうした改革開放路線の中で、(それが海賊版であろうが)欧米の映画に触れるなどして、自分たちの身近なドラマを描き、新しい世代として世界的な評価を獲得している。

この作品には中国人の若いカップルたちの普通の生活が描かれている。ちょっと羽目を外した遊び、自由な恋愛、行き過ぎた結果としての堕胎などそれは当たり前と言えば当たり前の世界だ。結婚をしたワンとシャオジューは一部屋のアパートメントに大きなベッドを置き、部屋を可愛く飾り、食事のカップラーメンを楽しそうに食べたり、手を取り合いながら買い物へと出かけていく。でも、そうした楽しさは少しずつ、互いに共有できるものではなくなっていく。少しのズレはだんだんと大きなひび割れになってゆき、気づいたときには埋められない幅と深さを持ったものになっている。男にすれば、女の執拗な愛が堪えたのかもしれないし、女にすれば自分の愛情が跳ね返されたということなのかもしれない。

カメラはシャオジューを演じる中国新四大女優のひとりであるシュー・ジンレイの表情をクローズアップを多用しながら捉えていく(ちなみに中国新四大女優の残る3人はチャン・ツィイー、ヴィッキー・チャオ、ジョウ・シュンである)。幸福感からあっという間に絶望の狂気へと変わっていく表情を見事に生み出すシュー・ジンレイの演技には脱帽せざる得ない。その他のシーンも身につまされるほどの痛みに満ちている。アドリブが多用されているらしいが、シャオジューとワンの口論のシーンの凄まじさには観ている側が度肝を抜かれるほどである。完全に取り返しが付かない壊れた愛の関係になっても、シャオジューはだからこそ愛にこだわり続ける。そこを徹底的に避けようとして、冷めていくワンを演じるトン・ダウェイも素晴らしい。

作品で素晴らしいのは主演のふたりの演技と共に、カメラワークである。ぎりぎりの表情の変化すらも逃さないため、クローズアップと長まわしを多用したこのカメラワークは生々しさと共にどこか冷めた客観性、ドキュメンタリー的な視点を生み出している。それは他人のカップルの生活を覗き見しているようであり、自分の経験に重なり合ってくるような痛みも持っているのだ。ドア越しに引きで撮る映像も顔のクローズアップもとにかく生々しさに満ちている。

ありふれた愛の壊れるまでの物語だが、中国映画ではもちろん、他国の映画でもあまりなかったスタイルの作品であり、ありふれた愛を描くことで、中国の現代をきっちりと伝えている作品だと思う。今の中国映画を体感したい方、シュー・ジンレイの注目している方などには見逃せない、チャン・ユアン監督の才が溢れた優れた作品である。

キャスト・スタッフ

出演:
シュー・ジンレイ『スパイシー・ラブスープ』『見知らぬ女からの手紙』/トン・ダウェイ
監督・共同脚本・製作:
チャン・ユアン『クレイジー・イングリッシュ』『ただいま
原作・共同脚本:
ワン・ショー『太陽の少年』
エグゼクティブプロデューサー:
ドン・ピン
撮影:
チャン・ジェン
主題歌:
フェイ・ウォン
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