美しき野獣

イントロダクション&ストーリー

物語の主人公は凶悪犯罪捜査官の刑事チャン・ドヨンとエリート検事のオ・ジヌ。チャン・ドヨンは正義感に満ち溢れるばかりに手をつけられないほどの暴走を繰り返す、無法者ともいうべき刑事。一方、オ・ジヌも正義感が強く、法を遵守する余りに疎まれている検事だ。彼らは偶然にも同じホシを追い続けている。それはヤクザの大物であるユ・ガンジン。チャン・ドヨンはユ・ガンジンの組の下っ端であった弟を殺されたがために、オ・ジヌは軽い刑でしか刑務所にぶち込めなかったユ・ガンジンの本性をさらけ出すために追い続けているのだった。一方、出所したばかりのユ・ガンジンはヤクザというイメージを捨て、社会慈善家から国会議員へと成りあがろうとしている。行き過ぎたチャン・ドヨンの暴走はオ・ジヌとの衝突を招き、職務停止へと追い込まれていくが、その心意気を肌で感じ、仲間を必要としていたオ・ジヌはチャン・ドヨンに手を差し伸べ、ユ・ガンジンを追い詰めようとしていくのだが。

コラム・見どころ

製作開始時から大きな話題となっていったクォン・サンウ&ユ・ジテという人気俳優主演による韓国映画界初の本格刑事アクションドラマ。

韓国映画界初の本格刑事アクションドラマというふれこみがあるように、この作品の冒頭はなかなかに気合の入ったカー・チェイスのシーンからスタートする。バイクで逃走する犯人を追いかけるのは今までのイメージとはがらりと変わったふてぶてしい態度を漲らせるクォン・サンウである。このふてぶてしさと常にタバコを口の端で加えている仕草(ここは物語のちょっとしたキーにもなる)、そして米軍の放出品であろうMA1やジャケット、カーゴパンツ、ジーンズというラフな格好、たくましくなった体つきにファンの多くは今までの彼のイメージとは全く違うものを感じるだろう。クォン・サンウ自身はこの役柄を「今まで一番愛する役柄」と語っており、「本物のアクション、演技」を示すために、撮影前からハードなトレーニングを重ねてきている。そうした彼の気持ちが見事に役柄と演技に結びついている。新生クォン・サンウ誕生と断言してもいい、役者としての成長をこの役柄は示している。

一方、ユ・ジテ演じるエリート検事はスーツをきちんと着こなした、冷酷かつ冷静な人物である。オープニングのカー・チェイスのシーンに続いて、オ・ジヌが配属されてくることになって、ちょっと困ったなという彼の部下連中がため息をつくシーンがあるのだが、ここはオ・ジヌという検事の性格を上手く伝えるフックとなっている。ユ・ジテはクォン・サンウと同い年(数えで30歳)だが、役柄では年上だったため、最初は中年太りを目指したが一転し、そこから体重を落としていくことで、追い詰められていく検事の状況を映像として見事に生み出している(スーツの着こなしも自ずと変化してくる)。ユ・ジテはこの役柄を「言葉を使ってアクションを起こす」と語っているが、精神的に追い込まれていきながらも法を遵守していく、言葉を信じていくその姿には正義感と共に痛々しさが伴い、そうした動きのひとつひとつが俳優ユ・ジテの上手さ、成長を感じさせるものになっている。

物語のキーとなるのはこのふたりが正義を追うばかりに、本来なら正義を請け負うはずの世界の中で完全なる外れ者となっている点だろう。オ・ジヌは自分の上司たちの不正を摘発し、左遷されていたという過去があるほどの完璧主義者である。常に暴走してしまうチャン・ドヨンと同様に、これは正義と悪が駆け引きの中で交じり合っている世界にとっては完全なる外れ者、捨ててしまいたい存在でしかないのだ。一方、彼らが追い続けるユ・ガンジンは表のイメージを上手く作り出し、庶民の支持を集め始めている。もちろん、裏の顔は相変わらずなのだが、そこは表のイメージに直結せず、どんどんと切り離されている。ここでは本来の悪が正義のような扱いを受け、正義を追い求めるものが悪扱いされるというある種のパラドックスが起こっている。結局、この事実はどんなに方を遵守しようが変えられようのない世界という部分へと繋がっていく。

この作品が長編監督デビュー作となったキム・ソンス監督は作品について「法を守り闘い、傷つけられている人たちのために」という旨の発言をしている。極端な言い方をすれば、正義は、そのための法律は何のためにあるのか、ということを監督はこの作品で描きたかったのだろう。そのためにこの作品では正義のために闘う者の生活や家族はバラバラといってもいいくらいにぶち壊れている。そうしたやりきれない状況の中でチャン・ドヨンとオ・ジヌは動き、耐え、しばし男泣きをするしかないのだ。エンディングは様々な物議をかもしているというというが、必然的にあそこに行き着くしかなかったと私自身は考えている。それゆえに、こちら側にはズドンと重い何か、監督や出演者のメッセージが落とされたままになるのだ。

今までのクォン・サンウのファンがこの作品をどう受け止めるのかは分からないが、彼自身が役者として新たな、本格的な一歩を踏み出した作品として、この『美しき野獣』は記憶されるだろうし、男が惚れるノワール作品としても受け入れられるだろう。ユ・ジテの演技はもちろん、長編デビュー作でメッセージ性も強いこうしたアクション作品を送り出したキム・ソンス監督の今後も要注目だろう。まずは多くのクォン・サンウのファンには彼が最も演じたいと思い、愛したこの役柄を味わってもらいたい。

キャスト・スタッフ

出演:
クォン・サンウ『同い年の家庭教師』『マルチュク青春通り』/ユ・ジテ『オールド・ボーイ』/オム・ジウォン『トンケの蒼い空』『スカーレット・レター』
監督:
キム・ソンス
脚本:
キム・ソンス
撮影監督:
チェ・サンムク
音楽:
川井憲次
美術監督:
イ・ジノ
武術監督:
チュ・ヨンミン

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