公共の敵

イントロダクション&ストーリー

チョルジュンの目の前で長年相棒を組んできた先輩刑事が自殺をする。それは監察が先輩刑事たちの汚職捜査に入り込んできたからだった。この日も彼らはヤクザからの貢物を後ろのシートに置いていた。チョルジュンはその鞄を持ち、その場を逃げるように走り始める。しかし、チョルジュンに対する先輩刑事が自殺したことへの監察の執拗な追及は続いていく。
ある雨が降りしきる夜、張り込み中に便意をもよおしたチヨルジュンがトイレを借りることを断られた末、仕方なく道端で用を足すと、黒いレインコートに身を包んだ男がぶつかり、自分の糞を手で踏んでしまう。怒るチョルジュンに対し、男はナイフを突きつけ、チョルジュンは眼の上に大きな傷を負ってしまう。実はチョルジュンがぶつかった男は殺人を実行してきたばかりだった。しかも、実の父と母を殺したのだった。1週間後、その死体が発見される。死体は死に装束のように白い小麦粉が全身にかけられていた。そして、残されたナイフからはチョルジュンの指紋と糞の痕跡が検出される。チョルジュンはこの事件を担当することになるのだが・・・・。

コラム・見どころ

暴走気味の刑事演じるソル・ギョング、冷酷な殺人鬼を演じるイ・ソンジェが圧倒的に素晴らしい、『シルミド/SILMIDO』の カン・ウソク監督が描く、韓国で大ヒットし、圧倒的な評価も獲得したクライム・サスペンス作品。

映画のオープニングでチョルジュンによる警官の仕事、実像の解説が流れる。それは警官は貧乏暇なしだけれども最大限、頑張り続けているというものである。でも、チョルジュンはそこで付け加える、「俺は何もしない」と。これはチョルジュンによる、そんな仕事やってられるかという宣言でもある。そんな仕事をやらないチョルジュンはパートナーであった自殺した先輩と同様に汚職に手を染めている。でもこれは彼と先輩だけでなく、課、警察全体が手を染めていることでもあるのだ。

例えば、「犯人を捕まえて来るまで戻ってくるな」と上司にどなられた彼は路上のスイカ売りに対して「気に入らない奴はいないか」と追求する。スイカ売りは彼がまたショバ代的な裏金を要求していると勘違いし、金を渡そうとするが、彼は怒り、ある男の名を挙げさせる。実はそいつも彼のなじみ。警察で彼を追及しているときに、「所轄で空き巣が頻発している」と耳にした彼はそいつを空き巣犯に仕立て上げてしまう。もちろん、そこにあるのは脅しだ。脅しだろうが、そこで事件は解決する。交通違反の切符を切られそうになった運転手は免許の下にお金を隠して渡そうとする。下っ端の安月給の警官にとってはそれは大きな臨時収入になる。要求されずとも、それで片が付くという現実が市民の間には横たわっている。

一方、チョルジュンが確信を持って追うことになる親殺しの犯人であるギュハンは美しい妻、可愛い子供と暮らすエリート証券マンである。生活に不自由することはなく、社会的な信用も勝ち得ている。チョルジュン以外の誰もが彼と彼の両親の殺人とが結びつくとは思っていない。結局はそうした周囲の反応と行き過ぎたチョルジュンの行動が、チョルジュン自身を追い詰めていく。

この作品で頭に入れておかねばならないのは犯人が犯す“親殺し”の罪の重さである。どこの国でもそうだが、韓国においては特に“親殺し”は犯罪の中でも最も残忍でタブーなものとされている(もちろん、罪も最上級だ)。この作品ではこの“親殺し”(しかも両親だ)を映像として描いていること自体がその大きなタブーに触れ、大きな社会的な反響を呼び起こしたことは間違いないはずだ。それ以外にも警察のあきれた実態(=韓国社会のあきれた実態でもある)などにこの作品はメスを入れている。明らかにそういった社会派的な視点を持った作品なのだが、ジャーナリスティックな描き方に入り込まず、全体をコメディ・タッチにするなど、誰もが楽しめるエンタティンメント的作品としているのが、カン・ウソク監督のうまさなんだろう。それゆえに、この作品は韓国で大ヒットを記録している。

タイトルの『公共の敵』は自分のプライドのためには両親までも殺してしまう、サイコパス的な資質を持ったギュハンはもちろん、チョルジュンをはじめとする法を取り締まるべき警察も意味している。それは法の番人たるものがそれが1部であろうが日常的な腐敗に染まり、ヤクザなどとツーカーな関係になっている、肩書きがなくなれば彼らと変わらぬ存在になってしまうということでもある。そして、そこに暮らしている僕たちもいつそういった立場になるのか、させられてしまうのかも分からないという状況がここには転がっている。しかも、僕たちがその片棒を担いでいることもあるのだ。

この作品を魅力的にしているのはチョルジュンを演じるソル・ギョングだろう。暴走する刑事、組織に属することを嫌う刑事というドラマにはありがちな設定だが、『フレンチ・コネクション』シリーズのポパイ刑事、『ダーティー・ハリー』シリーズのハリー刑事などに迫る、体から熱がふきだすような暴走系の刑事を熱演している。ちなみにソル・ギョグはこの作品で大鐘賞主演男優賞、青龍賞主演男優賞などをその年の主要な主演男優賞をほぼ受賞しているが、観ればそれも納得である。自ら「史上最悪の殺人者を演じたい」と志願したというイ・ソンジェも従来のイメージを覆す、冷血なエリート、殺人鬼のギュハンを見事に演じている。その他、チョルジュンの上司を演じる俳優など脇が充実しているのも韓国映画ならではだろう。

韓国人の受け入れ方と僕たちの受け入れ方には多少の差はあるかもしれないが、刑事を主人公としたクライム・サスペンスとして韓流ファンはもちろん、より幅広い層が楽しめる作品だ。とにかくチョルジュンを演じるソル・ギョングの人間味に魅了されながら、2時間半近くがあっという間に経ってしまうだろう。

キャスト・スタッフ

出演:
ソル・ギョング『力道山』
イ・ソンジェ『氷雨』
監督:
カン・ウソク『シルミド/SILUMID』

2002(C) CJ Entertainment Inc.

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