小さな恋のステップ

イントロダクション&ストーリー

物語の主人公はプロ野球の2軍選手のトン・チソン。学生時代には大活躍し、期待の選手としてプロ野球入りしたものの、今では全くのさえない選手になってしまっていた。彼がさえないのは野球の選手だけではなく、人生も同様だ。この日もずっと付き合っていた彼女に振られたばかり。その上、医者からはとんでもない宣告を受けてしまう。余命が3ヶ月だというのだ。自暴自棄になり、生きる気力をなくした彼だが、ただひとつ知りたいことがあった。それは「愛とは何なのか」ということであるた。しかし、彼女に振られたばかりのさえない彼には当ても、やる気もない。実はそんな彼をずっと見続けていた本当にご近所さんのイ・ヨンという女性だった。

コラム・見どころ

今までの韓流ロマンチック・コメディとはひと味もふた味も違う、オフ・ビートなノリのポップでキュートなラブ・ストーリー。

余命数ヶ月、最後の恋というのは韓流作品のお約束のパターン。でも、男が余命数ヶ月というのはほとんどない。しかも男が恋を知りたいなんてパターンもなかったはず。大体、この作品はずっと付き合ってきた彼女に別れを切り出されるオープニングのシーンからちょっと変わっている。ま、男が彼女に別れを切り出されるだけのよくあるシーンなのだが、切り出された後、男は女に切れまくり、跳び蹴りやら暴言やら逆ギレの嵐を浴びせるのだ。でも、これはこうしたいという想像のシーン。男はあっさりと別れを受け入れてしまう。実は悶々としているのにそれを表に出せない性格なのだ。この辺がプロ野球選手としての伸び悩みの原因ではと思うのだが、これは物語とは関係ない。

このオープニングでもうひとつ注目すべきは男が彼女の手をフォーク・ボールの握りで握っていること。この作品はそこかしこにこういった細かいこだわり、仕掛けが用意してある。で、このオープニング以降、男は医者に余命を宣告され、銀行で家を担保に金を借りようとしたら、銀行強盗に出くわしたり、家にいたら強盗に入られたりと普通なら「たまらん」という状況に陥っていく。でも、男は余命数ヶ月で、愛を知りたいということから、そういった危機を難なく乗り切っていく。男には多分、乗り越えたという意識すらないだろう。あと3ヶ月しかない、タイムリミットのある人生なのだ。でも、こうした危機の後には更なる危機がやって来る。

愛はどうなるのかという部分だが、この男、ほんの身近にすごく可愛く、彼のことを愛するイ・ヨンという女性がいるというのに全く気づく気配がない。映画館でデートをしてもその場を楽しむのではなく、映画の解説を頭の中で試みようとしている。しかも一緒にデートに行ったイ・ヨンのことを別れた彼女に聞かれると、知り合いと応える始末。愛を知りたいわりには愛に鈍いのだ。でも、彼は愛に気づいていく。それは自分の心の損失-愛-を知ったからだった。

物語はどんどんとありえないだろうという方向に逸脱していきながらも、愛はその中できちんと展開していく。オフ・ビートと書いたが、その笑いは脱力感に満ちている。主人公と同じように力が抜けちゃいそうなんだけど、これが相当に癖になる。強烈なキャラクターがぶっ飛ばす作品はあったけど、割とスマートな人物が外しまくっていく、こんな韓国映画は今までになかったのではないだろうか。ちなみに監督はじめスタッフたちはラブ・コメではなく、正統派のラブ・ストーリーを目指していたという。そう言われると愛に鈍感なダメ男と愛に一途な可憐な女性のラブ・ストーリーとしては正統的かもしれない。でも、まわりをくるむオブラートは相当に厚く、これが今までにないラブストーリーの魅力を生み出している。

監督、脚本は今の韓流ブームに先んじた形で日本公開された『ガン&トークス』のチャン・ジン。韓国では演劇、TV、映画など幅広い分野で才能を発揮している異才ともいうべき人物である。もちろん、若者を中心に熱狂的な支持を獲得している。『ガン&トークス』も脱力感のある面白い作品だったが、この『小さな恋のステップ』ではそこに更に磨きがかかっている。韓流ファンはもちろんだが、ヨーロッパのコメディ映画好きもこの作品には喝采するのではないだろうか。

主演は『ガン&トークス』、『シルミド』のチョン・ジェヨンと『英語完全征服』のイ・ナヨン。男らしい役柄が印象に残るチョン・ジェヨンはここではちょっと抜けたような男を、『英語完全征服』で多くのファンを掴んだであろうイ・ナヨンはここでは可愛らしい一途な女性を見事に演じている。イ・ナヨンはこの作品で2004年青龍賞最優秀主演女優賞を受賞した。これは納得である。

余命、選手生命・・・・、そういったものを乗り越えてたどり着いていくエンディングはちょっと感動的だ。野球場でのありえないあのシーン、そして身近にあった愛に気づき、それをきちんと組み立てていこう、楽しもうというあの終わり方。この微妙な、でも最高の作品に韓国映画の奥深さを感じざるえない。デートムービーとしても最適の暖かさに満ちているので、ぜひ、ご利用して、「愛ってさー」と語り合ってください。

キャスト・スタッフ

出演:
チョン・ジェヨン/イ・ナヨン
監督:
チャン・ジン
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