トンケの蒼い空

イントロダクション&ストーリー

物語の主人公は野良犬を意味するトンケというあだ名で呼ばれる青年。彼は幼い頃に母を亡くし、祖母と刑事を職業とする父親に育てられていた。しかし、母親が逝ってから数年後、祖母も亡くなってしまう。その直後、彼は近所をフラフラと歩き、食べ物などを手にしていた。これが彼がトンケと呼ばれるようになった所以である。そんな少年時代に彼は父の勤める警察で1匹の犬に出会い、トンケと名付ける。トンケとトンケは片時も離れることなく暮らし続ける。時は流れ、高校時代。サッカー部に所属する万年補欠のトンケはここでもトンケと一緒。ちょっと抜けたような素直な性格と犬と一緒という部分は一部の先輩たちの格好のイジメの対象となっていたが、トンケは全く気にしていなかった。ある日、先輩の誕生パーティーが行われる日に犬が消えてしまう。必死に探すトンケだが、すでに犬は先輩たちのお腹の中におさまっていた。それまで抜けたような性格のトンケは自分でも制御できない怒りに駆られ、先輩たちに襲い掛かる。そして首謀者に対面したとき、後ろから父親の乗るパトカーが現れ、トンケは連行されてしまう。結局、この騒動がもとで彼は高校を中退し、家で家事をする生活へと入っていく。

家事(実際にキムチなどを漬け込んだりと父のために料理、洗濯などをしている)という言葉を使えば修まりがいいが、トンケは今風の言葉で言えば“ニート”である。そして、彼は愛犬トンケをああいう形で失ったこと、そのけりをつけられなかったことにわだかまりを抱えている。そのわだかまりは「あそこで父親が現れなかったら」気持ちから父親への反抗的な態度にも繋がっていく。トンケはどこかに向けたいのに向ける方向がないパワーを持つ、不器用で純な青年なのだ。

物語はこの青年の家に両親のいないスリの常習犯の少女が家族として暮らすことになったり、トンケの喧嘩の噂を聞いた高校中退者のグループが仲間になれと果し合いを申し込んできたりなど、恋や友情を盛り込みながら進んでいく。父親への大きな反発、同居する女の子への素直になれない気持ちを抱きながら、大きな目的もなく日々を過ごしていた彼はある日、今ではヤクザ稼業に手を染めている愛犬トンケを食べた、最後の決着をつけられなかったあの首謀者に出会う。実はこのヤクザは下っ端として大きな詐欺事件にも関わっており、そのことが刑事である父親との接点などを生み出していく。もちろん、最後は仇敵であるあのヤクザとトンケとのさしでの決闘だ。

コラム・見どころ

2005年11月現在、大ヒット公開中の感動作『私の頭の中の消しゴム』のチョルス役で日本でも完全にブレイクした感のあるチョン・ウソン主演による純粋で不器用な青年の成長を描いた青春ドラマ。

監督は韓国映画史上に残るヒット作『友へ チング』のクァク・キョンテク。この作品について監督は「子供の頃、犬鍋屋が並ぶ通りの一角で見た、自分の運命を知ってか知らずか、その時を逞しく生きる姿、澄んだ瞳をした犬たち。その印象がいつまでも心に残り、それを現代の若者像に当てはめてシナリオを書いていったという(となると、この作品は監督からの今という時代を生きる若者へのメッセージになるのだろう)。物語自体は恋に友情に家族(父親)に事件にとちょっと詰め込みすぎの感もあるのだが、その辺をごちゃごちゃにすることなく、ユーモラスなシーンを取り込みながら、小気味良く展開していく。ただ、そうした中、この監督の暴力描写には『友へチング』などにも感じられた強烈さ、リアリティがある。この作品のクライマックスとなる最後のタイマンのシーンにはちょっと引いてしまう方もいるかもしれない(ここは完全に『ファイト・クラブ』を意識している)。

作品で印象に残るのはやはりチョン・ウソンだ。間抜けにすら感じられる主人公が愛犬の無残な最期を知り、怒りを発散させるときの眼、表情。彼の役者としての素晴らしさがこのシーンには集約されている。この作品が2年という休養期間を挟んでの10本目の映画出演作となったチョン・ウソンは「これまでの作品では必要以上に自分を追い込みすぎ、演技に全く余裕がなかった。10本目では固定されたイメージから抜け出し、演技の華を広げたかった」と考えており、様々な脚本の中から選ばれたのが、自分にどこか似ていて、俳優としての新たな一面を生み出せるであろうと確信したこの作品『トンケの蒼い空』だった。トンケの父親を演じる名優キム・ガプス、『僕の彼女を紹介します』のキム・テウク、『スカーレットレター』のオム・ジウォンなども味わいのある演技を見せるが、チョン・ウソンの持つインパクトには敵わないという感がある。繊細さからワイルドさまで演じきるチョン・ウソンの魅力が全開したファンにとってはたまらない必見の作品だろう。そして、この作品や『私の頭の中の消しゴム』をきっかけに今まで未公開であった彼の役者としての持ち味が凝縮された作品が公開されていけばと思っている。

キャスト・スタッフ

出演:
チョン・ウソン/キム・ガプス/オム・ジウォン
監督:
クァク・キョンテク
  • コメント

一覧へ戻る